第11話 妹の手紙には、工具の形が描かれていました
リーネの手紙は、最初の一枚と、次の一枚で様子が違った。
一枚目には、母が相変わらず俺の部屋を掃除していることや、庭の梨が甘かったことが書かれている。
最後には、俺が直していた台所の戸がまた少し鳴る、とあった。
もう一枚には、奇妙な部品の絵があった。
金属の輪。内側に三つの突起。
見覚えがある。
黒鐘主炉の、空いている溝と同じ形だった。
『お兄様が探している部品は、これではありませんか』
俺は前の返事に、砦にある大きな炉のことを書いた。
工具を使わない妹にもわかるよう、足りない輪を描いておいたのだ。
リーネは、父の倉庫へ運ばれた箱の中で、似た部品を見たという。
『王都の専売局の方が来て、お父様とカイル兄様が案内していました。輪は、今は鉄の枠の中に入っています。炉、と呼んでいました』
裏面には、さらに小さな字が並ぶ。
『私は、お兄様のものかもしれないと言いました。お父様は、もともと家の持ち物だとおっしゃいました。そうなのでしょうか』
砦を譲り受ける前に持ち出されたものなら、事情は調べる必要がある。
俺が欲しいからと、他人のものを取り戻せるわけではない。
ただ、砦の備品として今も登録されていたら、話は変わる。
俺は登記証の一覧を見直した。
古い備品番号が何枚も続いている。
鐘、主炉、外周支柱、揚水装置。
主炉の注記には『三環組』とあった。
欠品の届け出は記されていない。
「確かめたいことがあります」
エステルさんへ手紙を見せた。
彼女は絵を見て、塔のほうへ顔を向ける。
「私が赴任したときには、もう炉は動いていませんでした。六年前に、専門の技師が分解したそうです」
「直そうとしたんでしょうか」
「そう聞いています。けれど工事のあと、砦への支給が減り、守備兵も引き上げられました」
俺は、閉鎖された塔と、使われなかった井戸を思い浮かべた。
設備が古いから砦を捨てた。
そう父から聞いた。
誰も本当の壊れ方を見ようとしなかったのか、それとも、見たうえで捨てたのか。
マルタさんは、次の荷で王都へ行くという。
登記所で、主炉に関する過去の記録を取れないか頼んだ。
手数料がかかるので、工房の売上から俺個人の取り分を使う。
ついでに古代品を調べられる人へ、輪の図を見せてもらうことにした。
「ルーク。実家と喧嘩したいわけじゃないだろう?」
マルタさんが、確認するように聞いた。
「砦をちゃんと動かしたいだけです」
「なら、そこを忘れないことだね。輪を欲しがるだけなら、別の買い手と同じになる」
俺は頷いた。
輪がなければ、どこまで安全に使えるのか。
まず、残っている設備を知る必要がある。
返事には、妹へ無理に倉庫へ入らないよう書いた。
母にもよろしく、と付け足す。
台所の戸は、蝶番の下側へ油を少し差せばいい。
その位置の絵は、大きく描いた。
翌日から、地下の図面を探し始めた。
壁の裏には広い通路があり、行き止まりに鉄の扉があった。
文字は古く、読めるのは数字くらいだ。
中央に手を当てると、見取り図が浮かぶ。
〈居住区整備通路〉
〈内側施錠 正常〉
壊れてはいなかった。
だから、修理で開ける場所ではない。
扉の隅には、手動で回すための穴があった。
俺はその形を紙へ写し、ボルドさんに見せた。
「鍵を作りたいです」
「えらく古い鍵だな」
「かなり長いこと、開けていないみたいです」
そのとき、扉の向こうで、金属が床を擦る音がした。
俺たちは同時に顔を上げた。




