第3話 「勇者の資質」
謁見の間は静まり返っていた。
ベルズ3世の言葉を聞いた紫苑と涼子は、しばらく何も言えなかった。
世界を滅ぼしかけた闇竜ゼルガード。
その復活を阻止するために、自分たちが呼ばれたというのだ。
あまりにも話が大きすぎる。
紫苑は意を決して口を開いた。
「陛下。」
「なんだね?」
「僕たちはただの高校生です。」
「戦いなんてしたことがありません。」
ベルズ3世は静かに頷いた。
「その通りだろう。」
「だが、召喚の儀式が示した。」
「君には特別な力が眠っている。」
紫苑は首を傾げる。
「特別な力……?」
「はい。」
ティンクルが前へ出た。
「異世界召喚は誰にでも成功するわけじゃないんだよ。」
「王国の大魔法使いたちが調べた結果、紫苑には勇者の資質があるって分かったの。」
「勇者の資質……。」
涼子が呟く。
なんだかゲームの主人公みたいな話だった。
しかし現実味がない。
するとベルズ3世が優しい表情で言った。
「もちろん無理にとは言わぬ。」
「元の世界へ帰る方法も探そう。」
「そのためにも、まずは君たち自身の力を知る必要がある。」
その時だった。
謁見の間の扉が開いた。
ガタン!
「陛下!」
入ってきたのはマーグルだった。
鎧には戦いの傷跡が残っている。
「おお、無事だったか。」
ベルズ3世が安堵する。
「魔獣は討伐完了しました。」
「ヤンバルも無事です。」
「さすがだな。」
マーグルは紫苑たちを見る。
「勇者候補。」
「ようやく会えたな。」
「助けていただいてありがとうございました。」
紫苑が頭を下げる。
マーグルは豪快に笑った。
「ガハハ!」
「礼ならヤンバルにも言ってやれ。」
その直後。
再び扉が開く。
入ってきたのはヤンバルだった。
狼人らしい鋭い目。
だがその表情はどこか穏やかだった。
「怪我はないか。」
「はい。」
「無事です。」
涼子が答える。
ヤンバルは小さく頷いた。
「それならいい。」
マーグルがニヤニヤしながら言った。
「相変わらず優しいな。」
「黙れ。」
二人のやり取りに思わず紫苑たちは笑ってしまった。
緊張が少しほぐれる。
ベルズ3世も笑顔になった。
「さて。」
「まずは勇者候補の力を調べよう。」
「訓練場へ向かうぞ。」
王宮の裏手にある訓練場。
そこには広い空き地が広がっていた。
兵士たちが剣や槍の練習をしている。
「すごい……。」
涼子が感心する。
まるで映画の撮影現場だった。
訓練場の中央には大きな水晶が置かれていた。
高さは二メートルほど。
青白く輝いている。
「これは?」
紫苑が尋ねる。
ティンクルが説明した。
「能力測定水晶!」
「触れると魔力や才能が分かるんだよ!」
「便利だな。」
「でしょ?」
ティンクルは得意げだった。
マーグルが腕を組む。
「まずは紫苑。」
「触ってみろ。」
紫苑は少し緊張しながら水晶へ近づいた。
本当に何か分かるのだろうか。
そっと手を置く。
すると――
ピカァァァァァ!!
水晶が眩しく輝いた。
「なっ!?」
「光った!?」
涼子が驚く。
訓練していた兵士たちも振り返った。
水晶の光はどんどん強くなる。
そして。
ゴォォォォォ……
黄金色の光が紫苑を包み込んだ。
「これは……!」
マーグルが目を見開く。
ヤンバルも驚いていた。
「まさか。」
ティンクルが叫ぶ。
「勇者の光!」
次の瞬間。
水晶の表面に文字が浮かび上がった。
名前:藤崎紫苑
適性:勇者
魔力量:測定不能
特殊能力:???
覚醒率:0%
全員が絶句した。
「測定不能……?」
「そんなことがあるのか?」
兵士たちもざわつく。
マーグルは信じられないという顔をしていた。
ベルズ3世は静かに言う。
「伝承通りだ。」
「勇者の力はまだ眠っている。」
紫苑自身も混乱していた。
「覚醒率ゼロなのに?」
「今後成長する可能性があるということだ。」
ヤンバルが答える。
その時。
ティンクルが涼子の手を引いた。
「次は涼子!」
「わ、私!?」
「もちろん!」
涼子は恐る恐る水晶へ近づく。
そして手を置いた。
すると今度は柔らかな銀色の光が広がった。
文字が浮かび上がる。
名前:藤野涼子
適性:聖導士
魔力量:A
特殊能力:治癒魔法
覚醒率:15%
「ええええ!?」
涼子が一番驚いた。
ティンクルは飛び跳ねる。
「すごい!」
「回復役だよ!」
マーグルも感心した。
「勇者と聖導士か。」
「最高の組み合わせだな。」
紫苑は思わず笑った。
「涼子らしいな。」
「どういう意味?」
「人を助けるの得意だから。」
涼子は少し照れる。
その様子を見ていたベルズ3世は満足そうだった。
だが、その時――
王宮の方角から警鐘が鳴り響いた。
カン!カン!カン!
全員の表情が変わる。
「警報!?」
兵士が駆け込んできた。
「陛下!」
「大変です!」
「何事だ!」
ベルズ3世が立ち上がる。
兵士は青ざめた顔で報告した。
「王国北部の監視塔が襲撃されました!」
「敵は黒いローブをまとった集団!」
「さらに――」
兵士は震える声で続けた。
「奴らは闇竜ゼルガード復活を掲げています!」
訓練場が騒然となった。
ついに動き始めた闇の勢力。
紫苑たちは知らなかった。
これが長い戦いの始まりになることを――。
第4話へ続く。




