第2話 「バズドラム王国」
マーグルとヤンバルが魔獣の前に立ちはだかる。
「グォォォォォ!!」
魔獣は鋭い牙をむき出しにして咆哮した。
その迫力に紫苑は思わず足をすくませる。
「早く行くよ!」
ティンクルが叫ぶ。
「でも!」
「マーグルさんたちが!」
涼子が振り返る。
するとヤンバルが大剣を肩に担ぎながら笑った。
「心配するな。」
「俺たちは王国軍だ。」
「こんな雑魚に負けるほど弱くない。」
マーグルも豪快に笑う。
「ガハハハ!」
「勇者候補を守るのも仕事だからな!」
次の瞬間。
二人は同時に飛び出した。
ドォン!
地面が揺れる。
ヤンバルの剣が閃き、魔獣の腕を斬り裂く。
「ギャアアア!」
さらにマーグルの槍が魔獣の胴体を貫いた。
「今だ!」
ティンクルが紫苑たちを引っ張る。
「走って!」
紫苑と涼子は顔を見合わせる。
「行こう!」
「うん!」
二人は草原を駆け出した。
後ろから激しい戦闘音が聞こえる。
だが振り返る余裕はなかった。
しばらく走り続けると、大きな街道に出た。
石畳がまっすぐ続いている。
その先には巨大な城壁が見えた。
「あれが……」
「バズドラム王国!」
ティンクルが嬉しそうに言う。
紫苑は思わず息を呑んだ。
城壁は十メートル以上あり、巨大な旗が風にはためいている。
門の前には鎧を着た兵士たちが立っていた。
まるでファンタジー映画の世界だった。
「本当に異世界なんだ……。」
涼子も目を輝かせる。
「すごい……。」
「夢みたい。」
「夢じゃないよー。」
ティンクルが苦笑する。
「残念ながら現実。」
門に近づくと兵士たちが敬礼した。
「ティンクル様!」
「お帰りなさい!」
「ただいま!」
ティンクルは胸を張る。
「勇者候補を連れてきたよ!」
兵士たちの視線が紫苑たちに集まった。
「おお……。」
「本当に召喚されたのか。」
「噂は本当だったんだな。」
紫苑は少し居心地が悪かった。
「なんか見られてる。」
「有名人みたいだね。」
涼子が小声で言う。
門を通ると、さらに驚く光景が広がっていた。
市場では獣人や人間が買い物をしている。
空には小さな妖精が飛び回っている。
耳の長いエルフらしき人までいた。
「すごい……。」
「本当にいろんな種族がいる。」
ティンクルは得意そうに説明する。
「バズドラム王国は種族の壁を超えて暮らしてる国なんだよ!」
「人間も獣人も妖精も仲間!」
「だから平和なんだ!」
その時。
市場の奥からパンの焼ける香りが漂ってきた。
グゥゥゥ……
紫苑のお腹が鳴った。
「あ……。」
涼子が吹き出す。
「お腹空いたんだ。」
「仕方ないだろ。」
「気絶してたんだから。」
ティンクルも笑う。
「そうだね!」
「王様に会う前に何か食べよう!」
三人は屋台へ向かった。
焼き肉の串。
大きな果物。
見たこともない料理が並んでいる。
紫苑と涼子は目を丸くした。
「これ食べられるの?」
「大丈夫!」
ティンクルが串焼きを差し出す。
恐る恐る食べる紫苑。
「……うまい。」
「本当?」
涼子も一口食べる。
「おいしい!」
二人は夢中で食べ始めた。
店主の熊獣人が笑う。
「ガハハ!」
「気に入ってくれて何よりだ!」
しばらくしてお腹が満たされた頃。
遠くから馬車が近づいてきた。
豪華な装飾が施されている。
兵士たちも道を開けた。
「王宮からのお迎えだ!」
ティンクルが言った。
馬車の扉が開く。
中から白い服を着た執事が現れた。
「お待ちしておりました。」
「国王陛下がお会いになるそうです。」
紫苑は少し緊張した。
「本当に王様に会うんだな。」
「緊張してきた……。」
涼子も同じ気持ちらしい。
二人は馬車へ乗り込んだ。
王宮へ向かう道中。
窓から見える景色はどこまでも美しかった。
噴水。
庭園。
大通り。
まるで絵本の世界だった。
そして十分後。
ついに王宮へ到着した。
巨大な白い城。
何本もの塔が空へ伸びている。
「でかい……。」
紫苑が思わず呟く。
案内された先は謁見の間だった。
赤い絨毯が奥まで続いている。
その先の玉座には、一人の老人が座っていた。
金色の王冠。
立派なひげ。
優しそうな目。
彼こそ――
バズドラム王国国王。
ベルズ3世だった。
「よく来てくれた。」
落ち着いた声が響く。
紫苑と涼子は緊張しながら頭を下げた。
ベルズ3世は微笑む。
「そう固くならなくてよい。」
「わしは君たちに感謝している。」
「感謝……ですか?」
紫苑が尋ねる。
ベルズ3世は静かにうなずいた。
そして表情を引き締める。
「君たちをこの世界へ呼んだ理由を話そう。」
部屋の空気が変わる。
ティンクルも真剣な顔になった。
「近い未来。」
「この世界には大きな災厄が訪れる。」
ベルズ3世はゆっくり続けた。
「闇竜ゼルガード。」
その名前を聞いた瞬間。
謁見の間に緊張が走った。
「数百年前、世界を滅ぼしかけた伝説の魔竜だ。」
「その封印が弱まり始めている。」
紫苑と涼子は顔を見合わせた。
まさか異世界に来たと思ったら、世界の危機の話を聞かされるとは思わなかった。
ベルズ3世は立ち上がる。
「勇者候補である藤崎紫苑。」
「そして藤野涼子。」
「どうか我が国に力を貸してほしい。」
突然のお願いに二人は言葉を失った。
だが、これが異世界での本当の始まりだった。
そして誰も知らない。
紫苑の中に眠る力が、この世界の運命を大きく変えることを――。
第3話へ続く。




