第1話 「光の扉」
六月のある日。
午後の授業が終わり、生徒たちは次々と教室を後にしていた。
「紫苑、帰ろう!」
元気よく声をかけてきたのは幼なじみの藤野涼子だった。
藤崎紫苑は教科書を鞄にしまいながら笑う。
「少し待って。今日の課題を確認してから。」
「真面目だなあ。」
「優等生だからね。」
「自分で言う?」
二人は顔を見合わせて笑った。
学校を出ると、夕焼けが街を赤く染めていた。
「そういえば、来週テストだね。」
「うん。」
「勉強教えて。」
「また?」
「また。」
「仕方ないな。」
そんな他愛のない会話をしながら歩いていると――
突然。
空が光った。
「えっ?」
「なに!?」
巨大な光の輪が空に現れた。
ゴォォォォォ!!
まるで空間そのものが裂けるような音。
周囲の人々も騒ぎ始める。
「なんだあれ!」
「隕石か!?」
「逃げろ!」
だが次の瞬間。
光の輪から白い柱が降り注いだ。
紫苑と涼子は逃げる間もなかった。
「紫苑!」
「涼子!」
視界が真っ白になる。
そして――。
二人の意識は途切れた。
「うぅ……。」
紫苑が目を開ける。
そこは見たこともない草原だった。
青い空。
巨大な木々。
遠くには空に浮かぶ島まで見える。
「ここは……?」
「紫苑!」
涼子が駆け寄ってきた。
「よかった!」
「無事だったんだ。」
二人が安心したその時。
草むらから小さな光が飛び出した。
「見つけたー!」
「!?」
光の正体は手のひらサイズの少女。
羽を持っている。
「妖精?」
「妖精じゃないよ! 妖精のティンクルだよ!」
少女は胸を張った。
「ティンクル?」
「そう! あなたたちは異世界から来た勇者候補!」
「勇者?」
「異世界?」
紫苑も涼子も混乱していた。
ティンクルは慌てた様子で言う。
「詳しい話は王様のところで!」
「王様?」
「ベルズ3世!」
その名前を聞いた瞬間。
地面が揺れた。
ドォォォン!!
「な、何!?」
遠くの森から巨大な影が現れる。
四本足の怪物だった。
全身が黒い鱗で覆われている。
「魔獣だ!」
ティンクルが叫ぶ。
怪物は紫苑たちへ向かって突進してきた。
「危ない!」
その瞬間――
ドン!!
巨大な槍が飛んできた。
魔獣の目の前に突き刺さる。
「そこで止まれ!」
現れたのは鎧を着た半魚人。
青い肌。
筋肉質な体。
巨大な槍を構えている。
「王国軍隊長マーグル!」
ティンクルが叫んだ。
その後ろから現れたのは銀色の毛並みを持つ狼人だった。
「間に合ったようだな。」
鋭い眼光。
大剣を背負っている。
「王国軍副隊長ヤンバル!」
マーグルが笑う。
「ティンクル、そいつらが例の勇者候補か?」
「そうだよ!」
ヤンバルは紫苑を見つめた。
「なるほど……。」
魔獣が再び咆哮する。
グォォォォ!!
「話は後だ。」
ヤンバルが剣を抜く。
マーグルも槍を構えた。
「お前たち!」
「は、はい!」
「王国まで走れ!」
「えっ?」
「ここは俺たちが引き受ける!」
魔獣との戦いが始まろうとしていた。
紫苑は拳を握る。
何が起きているのか分からない。
だが一つだけ確かなことがあった。
ここはもう、自分たちの知る世界ではない。
こうして――
藤崎紫苑と藤野涼子の異世界冒険が幕を開けた。
第2話へ続く。




