第4話 「闇の教団」
訓練場に緊張が走った。
「闇竜ゼルガード復活を掲げる集団……。」
ベルズ3世の表情が険しくなる。
マーグルが兵士へ尋ねた。
「被害状況は?」
「監視塔は半壊。」
「守備隊は応戦しましたが、多くが負傷しています。」
兵士の報告に、その場の空気が重くなった。
ヤンバルが低い声で言う。
「とうとう動き始めたか。」
ティンクルも不安そうだった。
「嫌な予感がする……。」
紫苑は小さく手を握る。
異世界に来てまだ一日も経っていない。
なのに世界の危機に巻き込まれている。
まるで現実感がなかった。
しかし兵士たちの真剣な表情を見ていると、これは本当に起きていることなのだと理解できた。
ベルズ3世は全員を見渡した。
「王国軍を招集せよ。」
「北部監視塔へ調査隊を派遣する。」
「はっ!」
兵士は急いで走り去った。
するとマーグルが前へ出る。
「陛下。」
「俺が行きます。」
ヤンバルも頷く。
「俺も同行しよう。」
ベルズ3世は少し考えた後、許可を出した。
「頼んだぞ。」
「必ず情報を持ち帰れ。」
「了解!」
二人は敬礼した。
その時。
紫苑が口を開く。
「僕たちも行きます。」
周囲が驚く。
「紫苑!?」
涼子も目を丸くした。
マーグルは首を振る。
「駄目だ。」
「危険すぎる。」
「でも。」
紫苑は真っ直ぐ前を見た。
「僕たちがこの世界に来た理由を知りたいんです。」
「それに、ずっと守られてばかりじゃ何もできません。」
静寂が流れる。
ベルズ3世はしばらく紫苑を見つめていた。
そして微笑む。
「立派だ。」
「だが無茶はしてはならん。」
「マーグル。」
「はい。」
「紫苑たちを同行させよ。」
「しかし陛下!」
「経験も必要だ。」
ベルズ3世は静かに言った。
「ただし最前線には出すな。」
マーグルはため息をつく。
「分かりました。」
ティンクルが喜ぶ。
「冒険だー!」
「遊びじゃない。」
ヤンバルが即座にツッコミを入れた。
「うっ。」
一時間後。
紫苑たちは出発した。
馬に乗った兵士たち。
荷車。
補給物資。
小規模ながら本格的な調査隊だった。
紫苑と涼子は王国軍の馬車に乗せてもらっている。
窓から見える景色はのどかだった。
草原。
森。
湖。
まるで絵本の中の世界。
しかし誰も浮かれた様子はない。
敵の存在が分かっているからだ。
「ねえ紫苑。」
涼子が小声で言う。
「どうした?」
「怖くない?」
少し震えている声だった。
紫苑は正直に答える。
「怖いよ。」
「だよね。」
「でも。」
紫苑は笑った。
「涼子がいるから大丈夫。」
涼子は少し照れる。
「何それ。」
「本当のこと。」
「もう。」
二人は少しだけ笑った。
その様子を見ていたティンクルがニヤニヤしている。
「仲良しだねー。」
「うるさい。」
二人同時に答えた。
夕方。
調査隊は北部監視塔へ到着した。
しかし。
そこにあった光景に全員が言葉を失う。
「酷い……。」
監視塔は半分以上崩れていた。
壁には大きな爪痕。
周囲には焼け焦げた跡もある。
兵士たちが負傷者の手当てを続けていた。
マーグルの顔が険しくなる。
「これはただの盗賊じゃないな。」
ヤンバルも地面を調べる。
「魔力の痕跡が残っている。」
「強力な闇魔法だ。」
すると一人の負傷兵が近づいてきた。
「隊長……。」
「大丈夫か。」
「なんとか。」
兵士は震える声で話し始めた。
「あいつらは突然現れました。」
「黒いローブを着た集団です。」
「そしてリーダーらしき男が叫んでいました。」
「何を?」
マーグルが聞く。
兵士は唾を飲み込んだ。
「闇竜ゼルガード様の復活は近い、と。」
「その男はどこへ?」
「東の森へ逃げました。」
ヤンバルが地図を広げる。
「東の森……。」
「黒霧の森か。」
ティンクルが青ざめる。
「えっ!?」
「知ってるのか?」
紫苑が尋ねた。
「黒霧の森は危険地帯なんだよ!」
「昔から魔物が多くて誰も近づかないの。」
マーグルは腕を組んだ。
「なるほど。」
「奴らの隠れ家としては都合がいい。」
その時だった。
突然。
バサバサッ!!
空から黒い鳥が飛んできた。
「敵襲!?」
兵士たちが武器を構える。
だが鳥は途中で黒い煙へ変わった。
そして。
煙の中から一枚の紙が落ちる。
ヤンバルが拾い上げた。
「手紙……?」
そこには赤い文字でこう書かれていた。
勇者へ。
目覚めの時は近い。
我らは待っている。
黒霧の森で。
闇竜ゼルガードの名のもとに。
全員が息を呑む。
紫苑は背筋が寒くなった。
なぜ敵が自分の存在を知っているのか。
異世界へ来たばかりなのに。
マーグルが紙を握り潰す。
「完全に挑発だな。」
ヤンバルは紫苑を見る。
「どうやら。」
「お前は思っていた以上に重要人物らしい。」
夕暮れの空が赤く染まる。
黒霧の森の方角から、不気味な風が吹いていた。
そして森の奥では――
黒いローブの男が不敵に笑っていた。
「勇者よ。」
「ようやく見つけたぞ。」
その瞳には紫色の不気味な光が宿っていた。
第5話へ続く。




