第11話
血の花が咲いた。生臭い、鼻を刺すような臭いを放ちながら、彼女の左肩甲骨付近から咲くそれは私の右腕を徐々に濡らしていった。
引き金を引いた瞬間に始まった、時間が遅く感じる感覚がまだ抜けない。
花が、私の後ろに抜けた。全身を生ぬるくべっとりした感覚が、私を襲った。それが引き金となり、私は一気に現実に戻された。
服が赤黒かった。髪も重かった。足元は赤くなかった。それを確認した時に赤黒い髪が見えた。
彼女の方を見た。レンガを敷き詰められた道に倒れているのが見えた。血溜まりができていて、うつ伏せのせいで顔が見えなかった。
息はしていなかった。それだけは確かで、他に何も感じなかった。
「おーい、シアー!」
ミレイの声が聞こえた。声の方を見るとミレイの後に続くワカも見えた。
「大丈夫だった?」
私の元に駆けつけた彼女は、そう聞いた。その横でワカは「もう無理」とその小さな肩を揺らしていた。私はミレイの質問に、「うん」と短く返し、名も知らない彼女を指差した。
そこにはもう彼女はいなかった。気づけば私の服も髪も、彼女の血が抜け、元の色を取り戻していた。
「そこにいたんだね」
私はミレイに頷いた。ミレイはその彼女がいた場所に向かって歩き始めた。そして膝をついた。
「…」
ワカが息を呑むのが見えた。私は、なんとなく何が起こるのかわかった気がした。その予想に反さず、ミレイはその場に膝をついた。そして、指を絡ませて握った手を顔の前に持って来た。
祈っていた。ただひたすらに、彼女を追悼するように。そこだけが空気が変わっていたように感じた。
ワカも動いていた。ミレイの隣に座り、手を組み合わせていた。
いつの間にか先ほどのように人が歩いていて人混みができ、戦闘の起こる前のような雰囲気の中、そこだけは違った。
人々が不思議の目を向ける中、私は、ただただそれを眺めることしかできなかった。




