第10話
「見つけた」
そう言って私は走る速度をさらに上げた。大勢の人で作られた人混みの向こうで、彼女が見えた。
何か言った。
彼女が何か言ったような気がした。口が動いたからそう感じたのだが、次の瞬間には彼女の顔は引き攣っており、どうでも良いこととなった。
先制を仕掛ける。私はこの極端に閉鎖的な場所で取りまわしやすい拳銃を取り出した。サイトに彼女を合わせ引き金を引こうとし、そして引いた。
それは、ゆっくりと銃口から飛び出し、真っ直ぐに進んでいった。少量に火花を撒きながら飛んでいくそれを見ているうちに、徐々に、徐々に何かが崩れていく。
そんな感覚を最後まだで知覚することはなく、私は次の行動に移った。
彼女が銃を取り出した。短機関銃。両手で持ったそれを狂気じみた様子で構えている。あちらもサイトが合っている。
––––––すぐにくる。
その直感を信じ、私はすぐに人ごみの中に身を潜めた。その直後、短い銃声が連続して聞こえ始めた。そして人の悲鳴とどよめきが起こった。
私は止まらずに動いた。音が私を追って来ている。
おそらく私の放った一発目は彼女に届かなかったのだろう。その証拠に、悲鳴の始まりは彼女の攻撃の開始より早かった。
早く終わらせたい。そういう望みがつらなってきた。
彼女は乱射しているからだ。当たっても怪我はしないとはいえ、人からしたら恐怖だろう。人混みが低くなり始めた。盾が腰丈の高さになれば、そこを走り抜けることは困難になる。
人が動かなくなるから進めなくなることもだ。
うまく隙間を見つけられない。走りながらは狙いにくい。だけど止まれば終わる。
–––––歯痒いな。
そうして、立っている人は3人となった。私と彼女、そして、一人の男性だ。
そのグレーのフードをしっかり掴み、腰骨あたりに拳銃を突きつけている。その男は私のジャケットを頭から被って視界を私に奪われていた。
「へぇ、そう言う手も使うんだ」
彼女はそう言った。私はそれをどんな風に言っているのかは見えなかった。見えなくてもわかる。いつでもやられる。
手短に行こう。
「ごめんね。死にはしないから、少し我慢して。私の言うことに従って」
私は、その男性の耳元でそう囁いた。その人はジャケット越しにも伝わる頷きを見せた。
「そうだね、今は勝たなくちゃならないから。少し倫理とかけ離れてもするしかないんだ。」
今度は彼女に向かっていった。
「汚いね。殺したいなぁ」
彼女のそう言う発言の後、沈黙が流れた。そして私は、この男性に指示を出した。その瞬間、彼女の引き金が引き絞られ、先ほどよりも強く、固く、速い銃弾の連射が始まった。そして私たち二人は、一歩ずつ歩き始めた。
彼女は先のあの弾道が嘘のように正確に、直線的に飛んできていた。男性からは短い呻き声が聞こえている。
少しずつ、少しずつ、距離を積める。
「死ね」
一歩
「死ね、死ねぇ、、!」
また一歩。推定10mはあるだろうその距離を無くしていく。
至極冷静に、着実に、無駄な思考を排除するように、私はいつもに戻っていた。
瞬きをするたびにクロノスタシスが起こり、全てがゆっくりに感じる。いつしか、彼女の悲痛に変わった叫びも聞こえなくなっていた。
––––––––こんなもんか。
「ありがと。」
私はその男性を、蹴り飛ばした。男性に似つかわしい高めの悲鳴を上げながら前に倒れていくそれを眺めながら、私は銃を構えた。
その男性の体当たりをまともに受けた彼女は、「どけ」とその体の1.5倍はあるだろうそれを、必死に受け止める。そしてその彼女の邪魔がなくなった時、私は回り込んで、彼女の左肩甲骨付近に銃口を突きつけた。
彼女の顔の約半分ほどが、彼女が振り返ったことにより見えた。あっけらかんといったような、驚愕といったような表情だった。
私はその表情を堪能するでもなく、この戦いの終止符を打った。




