第16話 決着の一撃は、実質、二撃
羊の如き黒目の、六つの眼球をギラつかせながら、魔王は語った。
『さて、新たに闖入者が現れたようだが、それが何だという? 人間でありながら我と同様に〝闇の魔法〟を扱えるのは確かに驚きで、〝魔術〟とやらも驚異……だがルーンとかいう貴様とて、大した魔力は感じぬ。我が無限……ではなく有限らしいが膨大な〝闇の魔力〟の前に、敵わぬのは事実――』
まだ勝負もつかぬうちから勝ち誇る魔王に――答えたのは天才魔法使いのルーンではなく、天才科学者たる私、即ちルークである。
「フッ――いいや、もう充分であろう。魔王よ、時間稼ぎは終わったようだ。おまえの〝闇の魔法〟とやらは、いまだ十全に機能しているか?」
『? バフォフォ、何を愚かな、当然で――ハ? ……な、に……な、流れてきていない!? 貴様、まさか――!』
「? え……あの、ルーク様、一体何が……? ??」
焦燥の声を上げる魔王に、エメリナ姫は理由も分からず目を白黒させている。
ならば、私は答えるだけだ――ロジカルにな!
「さあ、ロジカルに答え合わせといこう――そも、魔王よ、おまえがそれほど圧倒的な力を持つなら、その〝闇の魔法〟を揮ってマジカリア国をさっさと攻め滅ぼせばよい。だが、それをしないのは、なぜか――単純に、出来なかったからだ。おまえは〝闇の魔法〟を、魔王城でしか使えない。なぜか? その解は!」
『バ、バフォッ!? そ、それ以上ほざくな――』
「魔法銀――おまえは多量の魔法銀による魔力を利用し、〝闇の魔法〟を実現しているのだろう! その答えさえ予測できれば、ここで時間稼ぎをしている間に……地下深くの鉱脈へ向けて、足の速い先遣隊を走らせ、後詰に兵を投入し、魔法銀を押さえれば良い! 私はこの世界の人間ではないゆえ、そこまで詳しくはないが……アビィ氏、魔王の様子を見る限り、聞くまでもなかろうが、手はずはどのように?」
「はいですニャ、隊員と事前に打ち合わせていた通り、〝風の魔法〟で合図が届いてきましたニャ――意味は、成功。ばっちぐーニャ」
「フム、ということだ。察するに、地下の鉱脈には、おまえに魔力を送る仕組みがあるのだろう……ならばそれを、破壊すれば良いだけだ!」
「ウニャ……仕掛けとか、ぶっちゃけ半信半疑だったんニャけど、ホントにあったんだニャア……魔法陣で魔力、送ってたみたいで、ソレぶっ壊したらしいですニャ」
『なっ、なっ……なぜ、そんなことまで……魔王軍でも我以外には知らぬ、秘中の秘ぞ! き、貴様は一体、何者ッ……まさか、名うての軍師とでも――』
「フッ、バカを言え! この程度、ロジカルに突き詰めていけば、容易に思い至ること! 軍師などではない――私こそ」
問われれば、答えを返そう、ロジカルに――!
「私こそ、天才科学者にして、即ちロジカルの申し子――
パラレル・ワールドよりの来訪者ルーク=アロイス――!」
堂々と名乗りを上げた私に、魔王は小さくよろめきつつ――魔物じみた大口で、ギリッ、と歯噛みした。
『ま、また天才科学者だとか、訳の分からぬことを……しかも、パラレル・ワールドだと……? クソッ、クソッ……おのれ、意味が分からぬ! ええい、もうよい! 供給が途絶えたとて、まだ魔力はある……この上は魔王城を覆い尽くす〝闇の魔法〟によって、我以外の生命を滅してくれよう!』
山羊のような面構えに反し、肉食獣の如き咆哮を上げ、言葉通りに〝闇の魔法〟を発動せんとする魔王に――エメリナ姫が顔を上げ、制止する。
「なっ……ま、待ちなさい、魔王! この魔王城には、あなたの部下たる魔物とているのでしょう!? そんなことをすれば、あなたの仲間まで――」
『バッフォッフォ……大国の姫が、何を間の抜けた発言を! 部下など、あくまで使い捨ての駒! 仲間と思ったことなど一度もないわ――絶対的な力を持つ我さえいれば、事足りる! 部下など失っても、また適当に集めれば良い!』
「なっ……あ、あなたは、何というっ……」
魔王の身勝手な言葉に、エメリナ姫は怒りを滲ませる。だが、そんな必要もないのだと、私は魔法銃を構えながら言った。
「エメリナ姫、こうなってしまえば、もはや言葉は無意味だ。どちらにせよ、かの魔王による〝闇の魔法〟とやらは、封じられるだけなのだから」
「ですがっ! ……へっ? ルーク様、今、なんと……?」
「フム、この私が、ただ一般的な〝魔法〟を再現するために、魔法銃を開発したと? フッ、ハハハッ――エメリナ姫、貴女に〝魔術〟の使い方を提言したのは、誰であるか!?」
「! まさか……まさかっ!」
目を見開くエメリナ姫に、そのまさかだと――私は魔法銃を、まずは一発放つ。
中空で殻を破るように発動した〝炎の魔法〟が、魔王に着弾する、が。
『バフォッ? ……ハッ、この程度の小火が、何だという――』
「続けて。――発した炎に、〝蛇の如く〟と指向性を及ぼす」
『バッ? ……ヌ、オオッ!? なんだっ、炎が風に巻かれて、蛇のようにッ……う、鬱陶しい! 我に纏わりつくなッ――』
「更にもう一発――〝焔の牙〟を放つとしよう」
『エッ。……いっだだだアッチチチ痛いし熱い!? な、なんなんスかクッソ次から次へと~~~!?』
「即ち、魔法銃の連射による――《炎の大蛇》である。フッ、フフッ、〝魔法〟って使ってみると、楽しいであるな♪」
とても楽しい。そんな私に、魔王は怒りを煽られたようだ。
『きっ、貴様っ……末期を悟っての嫌がらせか、コレは!? ええい、もう良いわ! まだ不完全だがッ……今すぐに〝闇の魔法〟を発動させ、貴様らを――』
「フム。さて……私が気を引いている、その隙を。……果たして私が、見逃すであろうか?」
『なっ。……き、貴様……ルーンとかいう魔法使い――!』
「フム。いかにも私はルーン=アローズ。私も〝闇の魔法〟を研究したのは、先ほど証明した通りだが――ゆえにこそ、その力を魔法によって遮断、及び封印する術くらいは心得ている」
『……バッ、バフォなっ……いや、バカなっ……』
「フム。ロジカルに考えて、もし魔法銀の鉱脈を押さえぬまま、魔法の供給が続いていれば――魔王よ、おまえが言う通りの圧倒的な魔力で、我々は成す術もなかっただろうな。無限とはいかぬまでも強大な〝闇の力〟が、今まさしく完全な有限と化したわけだ」
『ッ、や、やめろっ……同じ顔と同じ声で、交互に喋って我を困惑させるのは、やめろォォォォォ!!!』
魔王の悲痛な叫びに、フム、と私とルーンが首を傾げる。
そんな魔王のリクエストにお応えした訳ではなかろうが――エメリナ姫が、毅然とした声音で告げた。
「魔王よ――あなたは絶対的な力を持つ自分さえいれば、他は不要と言いましたね。ですがあなたがそうして追いつめられているのは、この場にいる人間だけの力でなく、鉱脈を押さえたわたくしの臣下たちの……即ち、あなたが軽視した、部下の力もあってこそ、です」
『ッ……こ、小娘が、偉そうに何をッ……』
「お黙りなさい、魔王――いいえ、あなたは王たる者の器ではない。部下とは、一方的に全ての命令に従って当然、などという存在ではありません。それが分からぬからこそ、あなたは軍そのものさえ、制御できていなかった。役職名など、ただの役割を示すもの――絶対的な従属関係だなどと、勘違いするな!」
ばっ、と手を振り上げ、エメリナ姫は意気軒昂に言い放つ――!
「臣下の、部下の、それぞれの意思を尊重し、共に苦労を分かち合う――
最高責任者たる者ならば、部下を慮ることなど当然の責務と知れ――!」
『――――ッ! わ、我は……間違っていた、というのか……? 部下はトップに従って当然と骨すら酷使し、契約を軽んじ、戦が主の職場でありながら傷病手当すら疎かにしていたのが……我は……我は――!?』
(なんか企業同士の経営論バトルみたいになっているな……)
何となくぼんやり考えてしまう私に――今まさに魔王の〝闇の魔法〟を封印せんとするルーンが、声をかけてくる。
「さて、私よ――どうやら魔王の魔力はいまだに精強、最後の一押しが必要らしい。せっかくである、やるか?」
「ああ、私よ――異論はない。別世界の私同士で手を組むなど、二度とはなかろう機会だ。では、やろうか」
フッ、と笑い合った、別世界の私同士が――
片や、科学を改良して作った〝魔法〟を放つ銃を構える。
片や、〝魔法〟に計算式を施す……即ち〝魔術〟を揮った。
「ロジカルにして、マジカルに」
「マジカルにより、ロジカルに」
私の呼吸を知る、私達が、同時に――
「「これにて――――決着である!!」」
このパラレル・ワールドで、最初と最後の一撃を放った。




