二十六話
「昔、昔。遥か昔の話であります。
名前もつかない物語であります。
人類は今よりも魔王軍の侵攻に頭を悩まさていました。
なぜならば、吸血鬼がいたからです。それは突然現れました。
時空の狭間から生まれたともいうのです。
吸血鬼は厄介でした。
殆ど弱点がないらしいのです。
刺し殺そうとしても、急速に再生するし、捕らえて煮詰めても、何ともならない。更に質の悪いことに吸血した人間を操れる。加えて屍であっても操れると言う伝承があります。
なんせ物語の途中で勇者が見るも無残に惨殺されていますから。世の中の印象としては魔王より恐ろしいと言った印象でしょう。
そんな感じの化け物だから、人類は殺すことを諦めました。
諦めた末に逆転の発想で生かしたまま行動不能にしようと考え始めるのです。その解決策が封印でした。
一度上手く封印をできそうな場面があったのか、封印を試みました。当然、失敗しました。
しかし、吸血鬼からの初の攻防戦から、およそ百年は経過したころでしょうか。
勇者もとい、魔女が現れたのです。
魔女は何やらよくわからぬ魔術を使うのです。この世界の人々が見たこともない不可思議極まりない魔術を。
それでようやく吸血鬼は封印されたのです。
その不可思議極まりない人類最強と言っても過言ではない能力であっても殺すには強すぎた。殺せなかったということでしょう。
霧散した血で赤いスライムが生まれ、若干強くなってしまったみたいなものもあるので、相当でしょう。
そういう伝承だったはずです。
その魔女の子孫が立てた国がこの帝国であると聞き及びました。
この国の人なら誰でも知っていることですよ」
………。
あの、スライムってそういう意味だったのか。クソが。吸血鬼め。と、怒りがこみ上げて来たけれど、そんな感情がどうでも良くなるほど気になったことがあった。
「なあ。時空の狭間ってなんだ?」
俺は天使に話掛けた。
「あー。確かそんなこともありましたね。世界のバクみたいなものですよ。それをくぐると別の世界に行けるという……。あっもしかしてそれで元の世界に帰ろうとしましたか?無理ですよ。絶対に。確率的にゴミみたいですよ。チハヤさんには能力不幸があるから本当に絶対に無理ですよ」
考えはお見通しか。でも、不幸じゃなかったら行けたのかも。結局お前のせいか。
クソ。
「創造主様。参考になりましたか?」とついには不安そうに天使を見つめた。
俺はならなかった。帰る手がかりだと思ったのに。
どうせ色々と脚色されている。この国の皇帝がこの国の民を偶像崇拝させるための格好の物語でしかないのだろう。
実際はもっと泥臭くてつまらない倒し方をしたに違いないとしか感じなかった。
「なりますよ。ええ。なります」
天使はそう言った。俺と対称的である。何やら思いついた風らしい。
「前例に倣え。封印しましょう」
「それは前提だろ?」
「え?」
「いや、それ以外を見つけるために話してもらったんでしょう?」
「ああ。それもある納得できる」
あほすぎる。それぐらいすぐ思いつけよ。
「じゃあ。話してもらって悪いけれども、封印と言うことで、まとまったのか?」
「そうですね」
「封印と言うか……そんなこと現代っ子の俺が知るわけないだろ。なんだ?お札とか貼るのか?それとも呪術師デモ呼ぶのか?そんな人脈俺にはないぞ?」
「チハヤさんにはもともとそんな期待していませんから。私、この私しか役に立たないと思いますから……」
気の障る言い方しかできないのかこいつは。というか、その言い方だと、イプシロンも使えないと言うことにならないか?
「打開策としてはこれなんですね」といいながら、棒状で先端にとりもちがあると言った何かを取り出した。
「なんだ。それ。どこから出した?」
「これは、天界のアイテム。犯罪者ほいほいですね。犯罪者であれば、すぐさま引っかかります」
なんだこれ。見たことあるような……。
「ゴキブリホイホイかよ。いくら、吸血鬼が黒っぽいからあんまり封印効かなそうな吸血鬼であるが、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。私が楽…じゃないくて仕事を効率化させるために上司からくすねて…借りて来た一品ですよ。天界でも結構レヴューが高いですから、大丈夫ですよ。私から能力を取り上げられても道具は取り上げられなかったんですよ」
色々と不穏な単語が聞こえたが……。でも、この道具、何かとボロボロのような。
「こんなのだが大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないですか?私がくすねる……借りるときに、上司が怒って…じゃないくて説明してくれた時に隠した…感謝してバックに入れたからじゃないですか?」
隠す気ゼロだろその物の良い方。下手過ぎやしないか?堂々としていた方がましだ。
「まあ拙い言い訳だけども、いいわどうするんだ?これで」
「チハヤさんが後ろから捕まえて欲しい。ほら不意打ちの方がいいでしょう」
「確かにだ」
そういうことは考えが及ぶ。嫌いじゃないぞ。
「じゃあ。これで、天使が吸血鬼を弱らせて、俺が捕まえると。そこまで戦えるのか?」
「当た棒ですよ」と天使は堂々と言い張った。それほど自信があるらしい。その時は不安しかない。
瓦礫のもとから立ち上がり、吸血鬼のいるところへ向かうつもりらしい。
「ちゃんと作戦練ってからの方がいいだろ。そうやって突っ走るから、失敗するんだろ」
俺はきつく言い放った。
結局手段を決めただけで、どうするのかが決まっていない。無力でも作戦次第で戦局はいくらでも変わるのだ。
「え……?」と天使は嫌そうな顔をした。
強いて言うならという感じで、「チハヤさんは私の近くに来ないでください」と言った。
「は?意味わからんこと言うなよ。当たり前だろ」
流石の俺でも許せない。狭量の俺でも許せない。
「いやいや。だってチハヤさんの能力が……」
「ああ。そんなことか。お前のせいだろ」
「貧乏は今関係ないとして、魔力も私は天使だから魔力とは別の力も使えるので関係ないとして、三つ目の不幸がですね……。天使な私であっても不安です」
「いや、不安って、お前が色々操作してやったんだろ。引っ付いてやる。肌身離さずくっついてやるううう」
「おい、きしょいですよ。どっか行ってください。私は今から強大敵を倒しに行くんですよ」
俺は腕を掴み足を引っ張ることにした。今に気持ち的に吸血鬼はどうでもよい。目の前の天使よりも可愛い吸血鬼に方が好きだ。
「仲いいのはいいのですけど、ちゃんと封印しに行ってくださいね?」
「どこが仲いい様に見えるんだよ」
「全てでしょう?」とイプシロンは言う。
嫌な冗談をいう。その意見は天使と俺は同じらしい。そこも嫌に感じたが。
「まあ。チハヤさんは全く役に立たないけど、私は何とかしますから、応援してください」と吐き捨てて行って、再び吸血鬼にところに向かうのだった。
こいつ一々余計な一言が多すぎる。




