二十五話
天使が逃亡したのは、町の中ではなく、もう壊された建物が集中したところで、地下室だった。
吸血鬼は殺戮を目的としているから、もう殺戮を完了させた地域には踏み込まない。そう考えてのことだろう。
一回、町へと繰り出し、そこから方向転換をしたのだから、間違いない推測だ。
そういう所はなぜか頭が回る天使だ。その脳の一パーセントでもいいから、吸血鬼を何とかする方向で頼みたいのだが。
「おおおおおおおおい、天使いいいいいい。なんで逃げるんだ?意気揚々と大口叩いておいて、恥も外聞もないじゃねえか」
「逃げるは恥だが役に立つんですよ。戦略的撤退です」
「戦略?お前に戦略なんて一切合切存在しないじゃないか」
「だから……私が考えなしで突っ込んだのは誤りますよ。ごめんなさい」
ほう。プライドの鬼高い彼女が謝るんて珍しい。
「いあね……」と急に日本語に切り替えた彼女。
「遠距離攻撃ができると知っていたら、もうちょっと考えたましたよ?あのまま戦っていたジリ貧確定じゃないですか」
「かと言って一度も挑戦せずに逃げ帰って来たと」
「挑戦したら死にますよ?天使にも死という概念があるんですよ。まあ廃棄処分と言い方をしますが…」
「なんなの?天使は物同然なのか?」
「そうですよ?天使は廃棄されない限り、無限に働き続ける。お人形さんなのです。廃棄された天使はこの永久の年月をかけても一人だけだったらしいんですけどね」
天界も以前の地球と変わらず大変ブラックな環境だったらしい。俺がモノノベ財閥ではなかったら、酷い目にあっていたと考えると背筋が凍り付く。
「まあ。良いじゃないですか」
「作戦を考えましょう」と再び帝国語へ戻す。
イプシロンにも作戦を募るらしい。三人寄れば文殊の知恵と言うが、一人ポンコツが含まれているので、二人で考えるしかない。
「イプ氏は何かありますか?」と他力本願に天使は場を進行させる。
「……特に何も…思いつかない……なんて言ったて、吸血鬼はほぼ最強な生物ですからね……」
「そうなの?」
「いや、知らんよ。でも、アニメや漫画でも吸血鬼は最強に描かれることが多いぞ」
「アニメや漫画は知りませんが、なんせ一国を亡ぼしたり、一発の攻撃によって小島を消したり……」
「それと戦おうと言うのか?真面目にですか?」
色々話を聞いていくと彼女は怖気づいてくる。のそりのそりと逃げようとしたので、適当に捕まえておいた。
「そうだ。イプシロン。それでも、人間は一度封印に成功しているんだろ?こういうときは前例に倣うのが一番効率がいい」
「まあ。それがいいでしょう。話掛けないでくださいよ」
「じゃあ。なんか伝承とかないんですか?」
「それが……。あるにはあってないこともないですけど、なんせ千年も前ですからね。様々脚色され、歪曲された物語しか残っていません。それでもいいなら聞かせましょうか」
「そうしてください。私が倒さなければならない気がするので、少しでも情報がある方がいいです。ください」と天使の切実な願いから、その物語は始まった。




