二十三話
「きゃああああ」
「あああああ」
「わあああああ」
「やってやんよおおお」と逃げ惑う市民の中に明らかに異質な野太い声を上げる天使とは気が合わないと思った。
「ヤバい。ヤバいって。別に逃げてもいいんじゃないか?」
壊れた建物の瓦礫を見ながら危機感を持った。
もう、あれだ。ゴジラぐらいの化け物が、暴れまくったような跡をしていた。
そんな奴に単身乗り込み勝てる見込みはあるのか?
砂塵が舞って確認しずらいが、建物の崩れる音だけで、未だ続いていることが分かる。
それがとても恐ろしいくて俺は自然と後ずさりの体制を取るしかない。
「逃げるとか考えないでください」とキリリとした態度で受け答えた。
「私も逃げたくなっちゃいますから。うう…。あんな大口叩くんじゃなかった」と日本語で、弱音を吐いた。
とんでもない二枚舌である。
「俺は関係ないから自分で処理せえ」と気を遣って日本語で対応した。
「は?貴方も関係大ありじゃないですか。黒い紙入れてもいいって言ったじゃないか」
「責任ある訳ないだろ」
「なんですかっ!チハヤさんがなんか考えてくださいよ」
ヒステリックに叫ばれる。これでそっぽ向けられたなら溜まったものではない。
仕方なしに考えてやる。
「町に火でも放てばいいんじゃないか?吸血鬼のバーベキューなるものが食べられるかもしれないぞ?」
「はああ?殺すしますよ?英雄になる気ないですか?」と喚き始めた。
「いやいや。俺はお前の功績で生きていくのが……」
「前世と一緒じゃないですか」
「悪いかよ」
「行きつく先はまた毒殺ですよ」
そ、それは……。あるかも知れない現実的な未来だ。身の毛もよだつ感覚が俺を襲った。
「で、でも。今が大切だ。今も大切にできないなら、無理だ。と、言うことで、イプシロン?逃げません?」
「五月蠅い。話しかけないでください」とデフォルトの返しをされた。
逃げないと言うことでいいのか?いい加減俺との会話を成立させてくれ。
「はいはい。イプ氏は逃げないのですう。薄情な貴方と違ってえ。薄幸にしてやりますよ」
なんの主張もしていないイプシロンの意思を無理矢理捻じ曲げて、都合の良い様に解釈する。その解釈通りに「創造主様が言うならその儘です」と奴隷のようなことを言う。どこぞの異世界ものの女の子みたいだ。
「創造主様が特攻して来いと故意に言うのなら、恋しくも逝きます」と言うのはやり過ぎだ。
天使すらも引いているだろう。
「まあ。そこまで鬼畜ではないですよ。まあ。私は強いですから、どうせ瞬殺ですよ」
「そりゃよかった」
「じゃあ。行ってくるんだが。どこなんです?」
「向こうの方でしょう」
がしゃあん。と轟音を立てて倒壊する建物を指差し、イプシロンが言った。明らかにまずい感じだ。
「そう」と言って、地面を抉り、蹴り上げた。
根気が溢れんばかりと砂埃の上がることの中心に走っていく。ほぼ薬物をやっているやつとテンションの上がり方が同じだが、この際倒してくれるのならなんでも、水なんて差さないことを誓おう。
「よし。イプシロンさん。危ないのでどっか隠れましょう」
「話しかけないでください」とテンプレート文句を吐いた。
まあ。まあ。どうせ俺にはそんな役目しかないですよ。どうせ天使は強いですから。と……思っていた時期もありました。
軽快なステップを踏みながら敵の正面に突き進んでいった天使は一瞬のうちに俺の足元に飛ばされてきた。は?
黒こげだった。大敗北である。
黒こげの天使は、羽が焼けて焼き鳥みたいな匂いがしたのは黙っておこう。
「で、大口叩いた天使は瞬殺か。あんなにフラグ立てていただろ」
「いや……違う…。私は本気を出せないだけ…です…」と中二病みたいなことを言う。
「でも、結果が…」
「違う挑戦した勇気を褒めてください…」
「褒められるわけないだろ。だって……」
お前が戦おうとしていた吸血鬼が多分こっちにいているのだが。
砂埃から、一人の人影が見えるのだ。




