二十一話
「うん……ああ。眠たあ」と俺は珍しく自力で起きた。久々だった。
前世は可愛いメイドに起こしてもらったが、この世界に来てから大体天使に起こしてもらっているからな。
何か悪い予兆かもしれないとか思ったが……単純に寝すぎただけだと簡単な方程式を解いた。
それでもこの宿はとてもいい。何といってもベットがいい。もっと寝ていられる。船が欠航になったことは結構よかったのではないかと思う。もう何日もこうしている。前世を思い出してしょうがない。
これも癪に障るけれど、あのイプシロンのおかげだった。
俺は金を無くしたけれど、代わりにイプシロンが結構持っていたので、貸してもらったと言う所存だ。因みに天使は奢りとか言われていた。どういう差別だ。
「おいいい。チッハヤさあああーん。起きてくださいいいい」
非常にテンションの高い天使が入ってくる。
朝から有害だ。
とても母親みたいで鬱陶しい。反射的に「死ねや。ババア」と勝手に出てくる。
「酷いですね……」
「そうプログラムされているんだ」
「なら仕方ない」と妙に納得した。すんなり受け入れる天使は気持ち悪かった。
「ちゃんと寝られましたか?」
「十時間しか寝てないわあ」
「それ高校生の一番役に立たない自慢じゃないですか」
「いいだろ。役に立たないことを話さなければ雑談もできないだろ」
「なんですか?朝からディベートするんですか?めんどくさいですよ」
「確かにだ。朝はゆっくりとモーニングを食べたい」
「名古屋でも行ってきなさい」
「行けたら速攻で帰っている。だから帰せ」
「ずっと言っているでしょう。無理だと」
「ホントに無理なのか?」
そんなに無理無理いうものだからこいつが冗談で言っているだけなのかもと思って不安になる。
「いや……そんなことも。私が天界に帰れたらできると思いますよ」
「あああ」
俺は膝から崩れ落ちた。絶望感に苛まれた。
「なんですか。そこまで絶望されると、私が悪いみたいじゃないか」
「お前が悪いんだよ左遷天使。左遷されてなきゃお前はここにいないんだよ。そして、俺がこんなクソみたいな能力で苦しまなかったんだよ」
「自業自得ですね」
「何についてだ。馬鹿が」
「はあ?」と朝から俺らは馬鹿な争いをしていた。一々疲れる生き方をしているとしか思えなかった。
「創造主様。そんな愚かな雄など相手にしても有益ではありません」
「はっ!?」とばっとそちらを見れば、イプシロンがドアにもたれ掛かっていた。
丁度女性ファッション雑誌の表紙みたいな感じだ。
「いいや、これはこのあばずれが夜這いしてきて、俺は襲われていたんだよ」とあることないことを言う。
「何言ってんですか。馬鹿ですか」と天使は破裂音なみの強い口調で俺に殴りかかろうとしてくる。
これは身を翻して、防御態勢を整える。
「馬鹿ですね。馬鹿の言うことなど、誰も耳を傾けるわけがありませんよ」
イプシロンは呆れるようにそう呟いた。
「そうだ。そうだ」と同調の合いの手を入れている天使の方に俺は怒るべきなのだろう。
「で、どうしたんですか。こんな朝早くからここに尋ねて来たのは。チハヤさんの部屋なんて毛嫌いしてこなかったじゃないですか。だから別で払って貰ったのだし」
「ああ。それは……」
「待って当てる。えっと……。ようやっと航路が復活したとか」
「創造主様。それではないです」
「ああーもお。最悪ですよ。やっぱり王国側から行けばよかったですよ。チハヤさんがこっちがいいと言ったばかりに」
「何言ってんだ。お前。お前が結局決めたんだろ。あーあ俺そこで決めなくてよかったああ」
「煽ってんなああ」
「ちなみにですけど、帝国王国間の国境は今ちょっとしたいざこざがあって通行禁止ですけども」とイプシロンはとても不審なことを言った。
「ということは、どっちみちどう転がっていもこの国から出られないらしいですね」
私のせいではないと意気揚々に言った。そんな感じで言われても困るんだが。責めるに責める口実がない。
「じゃあ。何のために?違う朗報?」
イプシロンはぶんぶんと首を振った。勿論横に。なんでもかんでも朗報な訳がないだろう。
「朗報というよりも悲報です。ちょっと大変なことになりましてね……」
「大変なこと……?ですか?」
「これを見てください」とか言った癖に天使にしか丁度見えないくらいの角度で紙を見せた。
さりげない差別過ぎるだろ。さりげなくが一番傷つくんだよ。
まあ。見せられてたところで文字が書いてあったなら読めないのだが。
「あ……」と天使が声を漏らす。
それと大体同じくらいに外で物凄い大爆発が起きた。
天使やイプシロンは反射的に腰を低くする。俺は何が何だか分からないので、その状態を何とかしようと窓の外を覗いた。
今、今の話だ。手前のおそらく三階ほどあった建物が、崩壊していた。
急に異世界ファンタジーにありそうな展開だと思った。




