十九話
この一週間か、ちょっとスマホがないからよくわからないけれど、特筆すべきことはなかったとさせてください。
まあ忘れたい記憶なのだが、俺がお金を置いてきたのを適当に伝えると、首を絞められたくらいだ。
これはまあなんと言おうとも天使が悪い。天使が貧乏とか言う属性を付けたからこうなっている訳だ。
見事な責任転嫁をしたせいでイプシロンは助けてくれず、そんなことをしなくても助けてはくれないだろうから、コテンパンにされるのは当然だった。
なんだよ。アイツ。殴られたところが馬車が揺れるたびにヒリヒリと響く。くっそお。覚えてろよと思い復讐心を数日にわたってのセクハラ三昧で済ませた。
もっと殴られて、揺られるたびに骨折レベルに痛かった。
ようやくと言ったところだ。市街地に入った。
「まもなくですか?」
「なんですか。話掛けないでください」
イプシロンは俺の返答などお構いなしとそっぽを向いた。なんだよそれ。それが俺に話しかけたときのテンプレートなのか?
数時間ちょいちょい話したじゃないか。あそこで仲良くとかなっていないのか?それ故かもしれないが。
「なんですか。黙らないでもらってもいいですか」
いや、違うかったわ。仲良くなれねえわ。天使と同じで。
「やーい。嫌われてますねえ」と天使が煽って来た。
周りに、まともな人が居ない。男嫌いと、何かと煽る天使。メンバーガチャ最低の異世界ものでしょ。これも天使のせいと言えばそうである。俺しか居ないのか。天才が。
「なんか悪寒の走るような考えをしませんでしたか?」
「いいや。何も」と否定をする。
しかし、その言葉は天使には届いておらず、かぶせるようにこう言った。
「なんですか?あれは」と、指を窓にくっつけた。
「ああ……。ああ、創造主様、これは……」とぎこちなく、窓の外を一瞥したイプシロンが言った。
どういう事態だと思い、俺は窓の外を天使を押しのけ見た。
群衆が、役所に向けて看板を掲げている。いわゆるデモをしていた。
「なあ。天使。なんて書いてあるんだ?」と俺は肘の下にいる天使に尋ねた。
「こんなのも読めないのですか?魔道具で読めるようにしてもらったんじゃないんですか?」とあしらうように話す。
「リスニングもスピーキングも出来るんだが、なぜかリーディングやライティングができない」
何故なんだ?なんて中途半端なと思ってしまう。
ああ。もしかして、一番安いグレードだからか?
リーディングとライティングは要らないだろうと?それは困ったものだ。もしこれがアラビア語や中国語、あまつさえ日本語ならばほぼ終了していたところだ。
「まあ。この帝国語アルファベットとほぼ一緒であるからすぐ覚えられますよ?教えてあげましょうか?」
「お前に教えてもらうなんて御免だな」
「と言うことはそこのメイドさんに教えてもらいたいと?」
「え……。創造主様の申し上げることは全て実現させて頂きたいのですが……。これは神からの知れんとか何か……」
彼女はゴミを見る目をした。ゴミ以下だと思っていそうであるが。今に始まったことではないけれど、酷い言われようだ。
「あのデモの中に入れてそいつは政府の人間だ。と叫んであげますよ?多分殺されますけど。気持ち悪い」
「なんですか。あれはそいういデモなんか?」
「シリアレンタ独立。政府の人間は許さない。増税やめろって書いてありますね。前の日本と一緒じゃないですか?」
「そんなこと知らないことだが?俺は税金など全て社長に払って貰ってた」
「トコトンクズですね」
「お前に言われたかねえよ」
「まあ。こんなデモの様子を見ていますと、日本と言うより寧ろチハヤさんの世界で言う韓国やフランス見たいですよ」
「はあ」
「心なしか、この風景も芸術性を抜いたパリのように見えますよ」
「芸術性を抜いたパリは何だよ」
「デモでしょう?貴方が一番分かっている」
「五月蠅いってことか」
「よくわかりましたね」
「殺すぞ」
「創造主様。まもなくつきます」と、俺は居ないもの扱いかよ。
やっぱりこいつは人の心がない。ちょっとしか関わっていないのにこんなに冷徹無比なんだもの。
俺が何か言い返してやろうとすれば、「はい。着きました」と俺の口を塞ぐように言った。
暫くすると馬車の揺れが無くなり、扉が開いた。
先にイプシロンが降り、天使を迎えた。
俺は存在がいないように扱われた。え?ナニコレ。差別ですか?差別なのですか?
こんな封建的な世界なのに百合属性のある人に差別されているのは初なんじゃないですか?非常に不名誉なんですけど。
「着きました。ここがシリアレンタ州、州会議所です」
どうぞというように天使をエスコートした。
その扱われ方に天使は天界を思い出したのか有頂天になったような顔をしていた。どや顔だ。鬱陶しいたらありゃしない。
「ここであれを渡せばいいんですよね」と、天使は大切に胸の辺りで抱きかかえていた封筒を皆に見せるようにする。
「そうです。州知事ではなくて副州知事に渡すんですよ?」
「ええ。勿論」
「そもそも、イプシロンが渡せば俺ら要らないだろ」
「なんですか。話掛けないでくださいでください」
「お前俺と喋るときそれしか喋らんなあ。もっと愛想よくしろよ」
そう言った瞬間もっと愛想が悪くなった。目力が強くなった。
「貴方が渡せばよかったんじゃないですか?」と天使が俺と同じ質問をした。
「まあ。私はご当主様に近いですから。足元ついてはいけないんですよ」
「そうですか。それなら納得です」と頷いた。
なんで、天使の時は返答するんだ?男嫌いにもほどがあるだろう?
もう反抗として、手紙の中身を見てやろうかと天使の持っていたものをさらりと取って、びりびりびりと封筒の封を開ける。
「てめえエ。何をしてんだああ」とイプシロンは飛び蹴りを顔面にかましてきた。
「な、何をするん」
俺はとても引いた。イプシロンに
天使はもっと引いていた。俺に。
「チハヤさんないわあ。何してるんですか」とか。
「好きな人に意地悪する心理と同じなんですか?小学生ですか?」とか。
後ろから野次を飛ばしてくる。ムカつくが、そんなものを相手にしていられない。
「やっぱり、男の人は嫌いです。死ねばいいと思います。ねえ。創造主様もそうお思いになるでしょう?」
「そーだねー」
適当な相槌。ギャルがネイルを見ながら話を聞くぐらいのトーンだった。
おいおい。俺に落ち度はあるけれど、気になるものを渡すからだろう。
てか、開けるとも言っていなかった筈……。
色々と言い訳を考えたけれど、別にしっくりと納得できそうな論理を作り上げられるとは思えなかった。
ああ。俺は悪魔に殺されるんだ。天使は天使として役に立たないけれど、helpと俺がそちらの方に目をやったなら、あいつはあいつで、手紙を触っていた。いや、神を持っていた。そっちの方が良くないんじゃないか?
「天使……何をしているんだ?」と俺は恐る恐る言葉を発した。
「え…?独立支援要請……」




