十八話
「ここがわたくしの屋敷ですわ」
あー。
あー。でかいくらいしか感想が思いつかない。
始めにモノノベ財閥の社長の屋敷に行ったときに抱いた感想だ。俺を殺したあの社長。というか全然あの社長の家の方が断然大きかったな。これが資本主義が進み過ぎた社会か。
だから、俺のリアクションは薄いものだった。
天使のリアクションも薄かった。
「あれ……。驚かないんですか?」
「いや、別に……。ですね」と天使は微妙な反応をした。
「おい、天使。ちょっとは気を使え」
俺は小声で天使を小突いた。
「いや、だって。私の職場、ほぼ惑星一個分ですから」
「あー」
それはちょっとリアクションに欠けてしまうわ。
俺はお前の職場が惑星一個分あると言う証言の方がビックリしたわ。
「まあ、中に入ってください。歓迎しますよ」
調子を狂わされたテスラは、何とか話を進めようとした。
天使の不甲斐なさに飽き飽きする。俺を棚上げしているなんていう文句は受け付けません。
「行きましょ。行きましょう」
歓迎するという言葉に反応して天使は舞い上がりながら言った。欲望に忠実である。それは天使が嘘をつけないと言う特性なのだろうか。そもそも嘘をつくなよと言いたいところであるが。
俺も歓迎という言葉に弱く天使同様色々考えてしまう。俺らは促されたように建物の中へと入っていた。
建物の中は表側の質素な雰囲気とは違い豪華絢爛で、煌びやかな内装をしていた。輝き過ぎて逆に居心地が悪いと感じてしまうものだ。
案内された通り廊下を進んでいるとやっぱり意味の分からぬ壺や、絵画が欠けてある。
どこの世界の権力者はこうやって飾らないと気が済まないのか。とどうせ自分も金持ちならばそうするのに、あたかも庶民を貫き通すかのように心の中で批判を浴びせた。
「ここの部屋です」
テスラが翻って言った。自室らしい。
扉を開けると適当に豪華なソファがあって遠慮なく俺は座った。
「お茶でも出してくださいな」とテスラはドアの外に向けていった。「わかりました」イプシロンの声が返ってくる。
ほーん。そっちが厨房なのかとか、絵画とか色々とキョロキョロとしてしまう。
「恥ずかしいからやめてください」
「いや、さっきまで豪華な作りだったのにここだけ質素な作りは何故なのかと思った」
「ああ。それはわたくしが極東の思想に影響されたからですわ」
極東……。日本中国韓国。そんな感じの国が存在するのか?まさかね。
でも、「極東に行ってみたい」そんな気持ちは抑えられなかった。
「そうですか。良いでしょう。行ってもいいですよ?お金出してあげますよ」
テスラは軽く了承した。椀飯振舞。
俺は拍子抜けした。天使も同様だ。何か裏があるのではないかと思うくらいには好待遇だった。
「ただし、お願いを聞いてくれたならいいですよ」
ん?なんか条件を提示して来たぞ?ほら、裏が……。
「なんですか?」
恐る恐る俺は聞いてみる。
彼女は木製の戸棚から一つの手紙を取り出した。
「この文章をシリアレンタのある人に渡して欲しいのです」
シリアレンタ。なんか聞き覚えのある単語だ。天使が言ってたようななんだか……。
「なんですか。これは」と天使はすぐさま言い返した。
「まあ。それは…貴方たちが知るところではないですね」
「教えろよ。くそが」
「無理な話です」
頑なに話そうとしない。
「そんな言えないことなのか?」
「そんなにしつこいようならあなた方を政府に渡しますよ」
「え?」
ぎくりと俺らは背筋が凍った。
「何のことですかあ」と天使は惚けた。
超分かりやすく。言わない方がましなぐらいに。
「いや、もう情報は回って来ているのですよ?こういうの早いですから。わたくしは助けてもらって恩義がありますから、匿いますけど結構リスキーなことをしているんですよ」
「感謝します」
「わたくしも、内政というものがあって、それらを納得させるためにも何か理由付けをしなくてはいけません。だから、お願いしていいですか?」
圧がある。圧しかない。本当は俺らにこういうことをさせたいがために襲われていたのではないかと疑ってしまう。
おい。天使何とかしろよ。俺は目線をやった。
「わ、分かりました」
圧力に負け了承した。ええ。
俺はするつもりもなかったので、「お前ひとりでやれよ」と突き放した。
そこをゴールとして目指していた俺でもこんな面倒なことは引き受けたくないんだ。
「いや、一緒に来るでしょう?結局どっちがやっても同じでしょう」
「まあ。そうだな」
「では、これは引き受けてくれるのですよね」
「結局なんですか?」
「えっとですね。お金はこれだけでいいですか?一週間分くらいの交通費が入っています」
「マジ?お賃金?」
天使は露骨に興奮を露わにした。現金主義者の天使。並ぶことのない文字がここで邂逅している。
そんなところでさっきのメイドさんがティートローリーを引いてやって来た。
「ご当主様。お茶を淹れてきました」
「ありがとう」
「あれ?ご当主様。この方々にあの手紙を任せるつもりなのですか?」
「まあ。それが安全策でしょう」
「確かに、指名手配犯ならそういうことがあったって違和感はさほどないでしょう。特に、男の方はどうでもいい。最終的判断はご当主様の本意に」
イプシロン?イプシロンさんよお。俺の扱いやっぱり酷くないかい?
「そして、つかぬことをお伺いしたいのですがよろしいでしょうか。ご当主様」
「なんでしょう。言って見なさい」
「私もそちらに付いていきたいのです」
「ほう」
「私は創造主様に救われました。そして創造主様をして来た我が人生と致しまして、ともに道を歩みたいのです」
「なるほど……」
へ?天使に付いていきたいとか言う判断をするのか?全く健常者の判断ではないぞ。それは。
「まあ。いい。長期休暇を与えるようなものか。わたくしが当主になってから一日経って休んでいないだろう。一気に与えるのと一緒です」
「あ、ありがとうございます」
このあと俺らはこの屋敷を追い出された。メイドさんが俺らの仲間に加わった。
あれ?俺ら恩人なんだよな?
お茶も結局出されず、追い返されたような気がするのだが。
権力者と言うものはやっぱりこういうものなのか。ライトノベルのようにべたべたと色々優しくされたないのか。
まあ。封建的な世界だ。これがこの世界の常識か。
その洗礼を受けたようだ。
「で、ところで訊きたいのですけれど、シリアレンタへの道筋はどこなんですか?」
「右に同じく」
「じゃあ右じゃないですか?と、言うか話しかけないでください。私に話しかけていいのはご当主様と創造主様だけです」
なんだ。このメイド全く使えねえぞ。
友好度が足りないとかではない。不愛想で適当、俺へのあたりが特段強い。
百合気質のあるやつで男に優しいなど聞いたことないから俺の摂理にもあっている。でも、可愛い、黒髪のメイドで犯しがいがあるのでいいと思う。
にやにやと色々想像が膨らむもんだ。
「人間よ。気持ち悪いですよ」
「そうそう。気持ち悪いぞ人間」と同調する天使。なんだ。こいつ。
「チハヤって名前があるんだが?」
「ああ。失礼でしたね。私に。同じ種族なだけで最大の汚点ですもの」
「確かにい」
最大限の同意をした。うんうんと頷きすぎて首が取れそう。
「でも、今時、シリアレンタに行くのは結構億劫なんですよ」
「……?」
どういう?
「なぜチハヤさんはこっちを見るんですか?悪くないですよ?」
まあ。悪くはないだろう。しかし、なんか不穏な空気がする。
「憂鬱で気が進まなくても創造主様のままに」
そして二歩三歩歩いたかと思えば止まって空高く手を挙げた。
キキイイ……。と、馬車が止まった。
この世界は馬車を呼ぶスタイルがタクシーじゃん。
それを尻目に俺は馬車に乗り込んだ。
どう億劫なのか一切の説明をしてくれないのかよ。ちょっと怯えて来たのだけれど。え、戻っていい。戻って。いや、そうしたらお金が没収されるかも。
それは嫌だな。だったら、下衆らしくお金でも眺めよう。
ん…?ん?あれ……。
お金忘れてきちゃった……。




