十六話
俺が全力疾走で走って、走って、端に行った頃。
なんか、翅を使うとかチートなことして、俺に追い付いた天使が言った。
「終わったからこい。勿論歩いてですけれど」
そんなクソムカつく文言を吐いてから、また再び飛び去った。
*
な、なんだよ。俺こんな走って来たのかよ。軽く三キロ程度はあるような、ないような。俺は戻ってくるなり、バテバテになっていた。
「やあやあ。遅かったじゃないですか」
くすっとほくそ笑んだ笑みを浮かべる天使。一発良いか?俺を拳を握る動作をした。
「はいはい。いきってんな。てか、喧嘩は後でよ。メイドさんたちが待っているから」
「メイドさん?」
ああ。なんか戦っていたな。そんな人も。それは、馬車の前だったか。
そうそうこれこれ。その馬車は大半が大破していた。さぞかし、豪華な馬車だろうことが一目で伺えた。まさかこれでは。
「何しているんですか。こっちですよお」と天使が呼んでいた。
呼んでいた先にはより、豪華な馬車があったし、大きな軍隊の隊列すらもあった。どういう事態だ?
「もともとドラゴンが出たことを報告するために先に逃げた方がいるらしいのよ。その呼びに行った人のあれが今到着したってこと」
「へえ」
「その人も、なんで当主様を連れて逃げなかったのは謎だよね」
「当主様?」
「チハヤさんに話したって無駄だったわ」
癪に触って仕方がない。
「まあ。良いわ。馬車に乗り込みましょう」
俺は促されるまま、乗り込んだ。
乗り込むと、女の子が二人。メイドさんと、お嬢さんって感じの妖艶な方が座っていた。
メイドさんは俺に睨んだような気がしたが、お嬢さんは微笑んで、言葉を発した。
当然俺は何も分からなかった。
俺は頓珍漢でいると、天使が挟まって出た。
「******」
「ああ。旅のお供だよ」
「****」
お嬢さんは俺の方に話を振ったと思う。
うん。それぐらいしか分からなかった。だって言葉がやっぱり通じない。
「ああ。この人この国の言葉を話せないんですよ。私たちはもっと遠方の方から来ましたから」
天使は天界。俺は地球。遠方の定義が絶対食い違っている。
「*******。**」
ビックリしたようにそのお嬢さんは頭を下げ、申し訳なさそうな顔をした。
「*******」と訳の分からぬ一言を俺に告げ、馬車に備え付けられている収納スペースに手を伸ばした。
「*******」と多分「あーでもないこーでもない」くらいのニュアンスのことを言った。そう言いながら、ぽいぽいものを投げ捨てていった。
暫くして、お嬢さんはついに何かを見つけた。
「******」
俺に向けて何かを話した。その何か分からぬものを。形はネックレスのようだった。
掛けていいのか?これは。
俺がもたもたと考え倦んでいると「掛けて見てと言っているんですよ」と助けを出してくれた。
「分かった。分かった。掛けるが?」
俺はそういって掛けた。
「……」
「……」
「なんなんこれ?」
「さあ?なんですか?お嬢さん」
「********」
「ちょっと待ってみろと」
「はあ」と何も期待できない中、このネックレスから魔法陣が映し出された。
「わっ。なんだこれ」
俺には不安感が募る。
「******」
「動かないでくださいと言っていますけど」
「ああ。そうなのか」
やがて魔法陣が俺を完全に包み込んだ。やっぱり不安になる。
不安になると言うか、なんかエネルギーを送られている感じがして……。なんだ、これ意味の分からぬ言語が……。
う、う。死にそう。
「ああああ。なんか吐きそう。吐きそうなぐらい情報が来ている」
俺は悶えて、暴れる。
「えっ。ちょお。え?吐かないでくださいよ?」
「おい。そこの、そこのお嬢ちゃんは俺を殺そうと……」
「ん?そんな訳がないのですが?」
「ん……?」
あれ。お嬢さんの言葉が聞こえるんだが。理解できるんだが。
なんか理解できる途端俺の内なる吐き気が無くなった。
「なあ。俺さあ。急に天才になったのかも知れない」
「そんな訳ないでしょう?」
「聞こえているんですね?じゃあ成功ですね」とお嬢さんは言った。
「そのネックレスは言語変換ですよ。一番安い一か国バージョンで、この帝国語だけですが事足りはするでしょう」
ほう。そんな便利な道具があるのか。最高だな。前世に持ち込んで富を形成したい。
「へえ」
俺は素直に感心した。
「いや、ちゃんとお礼をしなさいよ。頭下げて、ありがとうって」
そう言いながら無理矢理天使は俺の頭を鷲掴みにし、頭を下げさせた。正当なことであるから俺は変に反抗がしづらかったが、もうちょっとやり方があっただろ。阿保が。
「そんなにしなくて大丈夫ですよ。仮にも命の恩人の連れなのですから」
「私もご当主様と右に同じく」
仮にも……ですものね。
「良かったですね。その程度で許してもらえて、普通なら死刑ものではないですか?」
「そんな程度ではないですよ。わたくしどもも、慈悲がありますから」
ハハハッ。二人は笑って分かり合った。そこから俺は疎外されている。
俺は無礼千万だと思いつつ話についていけもしないので、適当に「慈悲?お前は慈悲にでも与えるほど偉い立場なのか?」と質問した。
メイドさんが軽蔑した目で見ているようだ。寧ろご褒美……。
天使が呆れながら「失礼なこと言うんじゃないですよ。殺されますよ?」と焦る。
何が何だか分からない。
「まあまあ。いいですよ。それくらい。というか、この方にわたくしの身分を明かしていないのが悪いのですから」
「でも、しかし、状況判断的に答えは一つでしょう。それも考えられない愚か者と言うことで殺……」
「そうです。創造主様の仰ることは絶対的なものです」
なんだ。このメイドさんは。頭おかしいんじゃないか?天使のこと擁護し過ぎだ。天使と言うのはもっと叩けば埃がハウスダストになるレベルで出てくるような奴だぞ?
「面白い方ですね」とお嬢さんは優しく微笑んだ。
「面白いですか?ただただこの人が頭悪いだけですよ」
天使は俺の地位をどれほど下げたがるのだ。天使と冠するのをやめろよ。
「ハハハ。それでもいいでしょう?わたくしが面白ければいいのです」
「そうですか……」
「さて、この方には先に言いましたが、自己紹介しましょうか。わたくしはテスラ=ロイジアナ。この中央ロイジアナ州を所有する貴族の当主ですわ」と。




