074:黒原の命運
更新遅くなりました。
お楽しみいただければ幸いです。
黄昏の月の後を追って、黒原たち五名と二名の指導者は、ついにB9層へと到達した。
「9層に入れば追いつくと思ったのですが、奴らの姿が見当たりませんね……。黒原さん、このあとどうすれば……」
サブリーダーの井地北は、予想外のことに戸惑いながら黒原に問いかける。
「あ、あいつらが無事に通過したんだ。オレたちも先に進むぞ! なに、あいつらが露払いをしてるんだ。層魔物も出ないだろう」
「はあ……それならいいんですが」
井地北は、しぶしぶ黒原の意思を受け入れ、歩き出した黒原のあとを追う。
他のパーティーメンバーと指導員も、それに続く。
黒原は、黄昏の月に追いつくため、速度優先で歩みを進める。
歩くというより、小走りに近い。
ダンジョンを進むうえで、それは明らかに軽率な行為だ。
「黒原様、移動速度が速すぎます。もう少し周囲を警戒しながら進まないと危険です」
指導員のリーダーである鈴高が、黒原に注意する。
だが、黒原は移動速度を変えず、ダンジョンを進んでいく。
「いけません!」
「チッ」
鈴高にさらに強い口調で注意され、黒原はようやく進む速度を緩める。
だが、黒原の表情には、何一つ納得した様子がない。
「この調子じゃ、いつまでたっても追いつけないぞ……」
黒原のぼやきを無視し、鈴高はサブリーダーの丸川と二人で、周囲を警戒する。
すると、十メートルほど前方の岩陰から、ホブゴブリンが一体現れる。
「魔物です!」
鈴高は、魔物出現の報告とともに、腰のロングソードを抜く。
それに続いて、丸川は杖を片手に、攻撃魔法の準備を行う。
「鈴高さん、ちょっとまずいかもしれません」
丸川がそう告げる。
一体かと思われたホブゴブリンの後ろから、さらにホブゴブリンが次々と現れ、合計四体。
「黒原様。隙をついて、ホブゴブリンに爆薬スキルを使用してください!」
言い終わるとすぐに、鈴高はダッシュでホブゴブリンへと向かい、先頭のホブゴブリンを一刀両断。
さらに、その後ろに続くホブゴブリンを一撃で倒す。
そのタイミングで、その隣のホブゴブリンに、丸川が放ったファイアーボールが命中する。
ホブゴブリンは残り一体。
鈴高が最後のホブゴブリンに攻撃を仕掛けようとした、その時だった。
何かに気づいた鈴高が後方へと目を向け、ロングソードで飛翔物を払う。
後方から弓矢で攻撃されたようだ。
黒原たちの後方に、二体のゴブリンアーチャーが目に入る。
そして、さらに二体が姿を現し、四体のゴブリンアーチャーが、今まさにこちらに攻撃しようと弓を引く。
「くっ!」
今更ながら、黒原に任せて無警戒で進んだことを後悔する鈴高。
どうするべきか思考を巡らし、黒原に提案する。
「黒原様。撤退しましょう。今なら、後方のゴブリンアーチャー四体を退ければ、撤退可能です」
「いや、このまま先に進むぞ!」
提案を無視し、黒原はホブゴブリンへと走り出し、スキルを使用して攻撃する。
ホブゴブリンは、数秒後に爆発し、その場に倒れ込んだ。
それを合図に、黒原のパーティーメンバー四人も、黒原に続いて走り出した。
「く、黒原様!! 丸川、後方のゴブリンアーチャーの処理を頼む」
「承知した」
鈴高はうんざりした表情を浮かべながら、黒原たちの後を追う。
「お待ちください。無警戒で走るのは危険すぎます!」
黒原たちに鈴高の声は届かない。
少しパニックにもなっている。
ただ、無警戒でのダッシュにいいことがあるわけがない。
しかも、爆発スキルによって大きな音を出したばかりだ。
このフロアにまだ魔物が生息していたとしたら、どう考えても音の方へと集まる可能性が高まる。
案の定――。
大きな影が横切り、黒原たち五人は吹き飛ばされてしまう。
「うぎゃぁぁぁぁーーーーーー!」
鈴高の目の前で、魔物に吹き飛ばされる五人。
「ゴ、ゴブリンキング……」
ゴブリンキングの出現に唖然となる鈴高。
自分たちのパーティーメンバーが揃っていれば対処可能だが、丸川と二人だけでは討伐は難しいと判断した。
黒原たちのパーティーが協力的なら可能性もあるが、パニックに陥っている現状では、足手まといにしかならない。
「黒原様! 立ち上がってください!!」
黒原に声をかけ、ゴブリンキングと黒原たちの間に割って立ち塞がる。
鈴高は、ロングソードで何度か攻撃を仕掛けるが、薄皮一枚切る程度で、効果の高い攻撃には至らない。
「黒原様! 今のうちに早く!」
鈴高の声で、若干意識を取り戻す黒原。
身を起こすと、少し先の壁際に、幅五十センチ、高さ百五十センチ程度の窪みを見つける。
(あの場所なら、身を隠せるかもしれない……)
黒原は立ち上がり、窪みを目指して歩き出す。
だが、吹き飛ばされたダメージで片足が痛み、移動のスピードが上がらない。
ゴブリンキングと戦闘中の鈴高へ目を向けると、その後方にはシャドウウルフの姿が見える。
移動しながら見たため、正確な数は掴めないが、おそらく五~六体はいる。
「くそっ! なんで俺がこんな目に……」
毒づく間に、シャドウウルフが黒原たちに気づき、走り出す。
本能で、より弱っている黒原たちへと向かう。
どうやら、正確には五体だったらしい。
シャドウウルフは、黒原のパーティーメンバーに一体ずつ襲いかかる。
黒原の足にもシャドウウルフが噛みつくが、爆薬スキルによって、数秒後にシャドウウルフは破裂する。
その爆風で、運よく窪みの方へと吹き飛ばされるが、下半身に痛みが走り、うまく歩くことができない。
匍匐前進のように這いながら、窪みへと向かう。
「黒原さんー。こっちの魔物もなんとかしてくださいー」
振り返ると、サブリーダーの井地北を筆頭に、腰野、巾着月の四人に、シャドウウルフが一体ずつ覆いかぶさっている。
黒原は、それぞれのシャドウウルフに爆薬スキルを使ったあと、再び窪みへと向かい、なんとかたどり着く。
急いで身を隠すため、窪みの中へと身体を投じるが、どうやら奥行きは百センチにも満たず、うつ伏せのままでは身体を隠しきれない。
「黒原さん! 俺たちもお願いします!」
「お、いや……」
黒原が戸惑っているうちに、シャドウウルフから逃れたパーティーメンバーが、次々とその身体の上へ覆い被さる。
だが、窪みに身を隠しても、魔物から完全に身を隠せているわけではない。
しばらくすると、覆い被さったパーティーメンバーから悲鳴が上がる。
どうやら、魔物の追撃にあっているらしい。
「くそっ! くそっ! なんでこうなったぁー。全てあいつのせいだぁーーーーーー!」
絶望の淵で毒づく黒原。
百パーセント逆恨みであり、筋違いだ。
そんな中、誰かがこの戦闘に介入してきた気配を感じる。
その気配は、確実に指導者の鈴高とは違っていた。
そこで黒原は、意識を手放した。




