060:リベンジ
ヒールスパーダーが生息するB5へ向かう前に、まずはB4の踏破か。
ダンジョン省やネットで拾える情報があるとはいえ、B4の階層はオレたちにとって未知の領域だ。
川越ダンジョンまつり決勝で侵入できる階層がB3までに設定されていたのは、上位ランクの高校生であれば、そこまでなら安全が担保できる範囲と見越してのこと。
つまりは、B3よりも深い深層であるB4からは、ダンジョンの管理側からすれば安全圏から逸脱したエリアということだ。
本来、危険な領域に侵入するとなれば、当然指導者が制止する。
そのための指導者だ。
だが、アイさんはオレたちの行動に対して、特に制限をかける気はない様子。
つまり、オレ達にはまだ、ここは安全圏だと判断してるってことか。
B4は今までの階層とは少し違い、中央に開けたフィールドが存在して、なおかつ隠れられるような箇所が点在している。
しかも、この階層ではゴブリンが連係を取るため、かなりトリッキーなフィールドになっていて、単体ではザコ扱いをされるゴブリンたちが、非常に危険な存在へと変貌する。
……なんだけど、ドローン導入の結果、待ち伏せしている場所がすべて明らかになっているため、正直ヌルゲーと化している。
なんか、ゴブリンたちゴメン……。
遠方に三体のゴブリンが姿を現し、こちらに石を投げ込んでくる。
反撃のため、オレ、ミク、アネゴが魔銃を構えた途端、三体のゴブリンは撤退していく……。
なるほど。この三体は囮で、オレたちが後を追わせて、罠にかけようって魂胆か。
ドローンで既に確認した配置は、この奥の空間の奥側にアーチャーゴブリンが四体、手前側にウィザードゴブリンが三体いる。
おそらく、この先にオレ達が侵入すると、さっきの囮ゴブリンが奥へ引き込むため逃げていく振りをし、追いかけたオレたちを奥のアーチャーが狙撃。アーチャーとオレたちが戦いだしたら、後方からウィザードゴブリンが攻撃してくるって感じか?
中央への侵入口で中の様子を伺うと……さきほどの囮ゴブリンが中央辺りに立ち止まっている。あの場所から、再び囮役になるつもりなんだろうけど……。
ミク、アネゴ、ヒメにはハンドサインで、ヒメ以外が先行して突入し、突入と同時にウィザードゴブリンを攻撃する旨を知らせると、三人から『了』のハンドサインが帰ってきたので、移動開始のサインを送り、オレ、アネゴ、ミクの順で突入する。
それを見た囮のゴブリンたちは、注意を引こうと騒音を立てはじめるが、すべて無視して振り返って上方へ銃口を向ける。アネゴとミクがオレに続く。
そこにはドローンの情報通り、ウィザードゴブリンが三体、驚きを隠せない状態でこちらを見ている。
ゴブリンって、あんな感じで驚くんだな……と考えながら、中央のウイザードゴブリンを狙い、三発発射すると全て命中し撃退。オレに続きアネゴは左側、ミクは右側のウィザードゴブリンを攻撃し撃退する。
狙いが外れた残りのゴブリンたちには既に連携がなくなり、各々勝手に動き出す。
正面の囮をしていたゴブリンたちは、三匹共がこん棒を振りかざし、こちらに突進してくるので、オレが散弾グレネードで撃退。
その間、アーチャーゴブリンが矢を放つが、ヒメがオレたちの前にファイヤーウォールを出して防御し、アネゴとミクがアーチャーゴブリンを攻撃する。
三体倒したところで、そこにオレも参戦して残りの一体を通常の魔弾でとどめを刺す。
ドローン情報では、周囲に魔物の情報は表示されなくなっている。討伐完了だ。
「おつかれ様。この階層はこれで終了だな」
「そうですわね……」
そう答えながら、ヒメは何か言いたげな様子をしている。
「ヒメ、どうかしたか」
「先ほどアーチャーと対峙した際に、風系の魔法があれば便利かと思いまして……」
「狙いを反らすとか?」
「はい!」
なるほど……。
「じゃあ、次は小手指ヶ原にいこかっ。あそこの鳥系は風魔法をドロップするはず」
「帰りに駅ビルのショートケーキタルト買いたいな!」
アネゴとミクが微妙に暴走中なんですが……。まあ、近々いろんなダンジョンに遠征はしたいし検討するか。
若干話は逸れたが、B4での意見を交わしながら、オレたちはB5へ向けて足を進めた。
☆☆☆
「いよいよリベンジだ」
なんて思いながら進むと、この階層でもゴブリンたちの待ち伏せに遭う。
ただ、B5はB4と構造が違い広いエリアがあるわけではなく、B3より上の階層より少し広めの通路で構成されていて、基本は進むごとに遭遇戦が繰り返される。
しかし、ゴブリン系魔物と遭遇する数が多い。
遭遇戦になる度に7〜8体のゴブリン系魔物と遭遇し、ここまで3度ほど遭遇戦が繰り広げられた。まあ、ピンチになることはなかったんだけどね。
そしてついにBOSSルーム前へと到着。
川越ダンジョンは二カ所のBOSSルームが存在する。この場所であるB5FとB10Fの二カ所だ。
BOSS戦を前に状況の確認だ。
魔力量問題なし。魔銃への魔力チャージ済。体力の消耗も余力十分。
メンバー全員ともに問題なし。
アイさんに目線を送り目が合うと、ゆっくりと頷くアイさん。
問題なしのサインだ。
今回の作戦は全員に共有済みだ。
全員の顔を見渡すと、決意の表情で互いに頷くのを確認し、オレがBOSS部屋の扉に触れると、扉がゆっくりと奥側に開いていき、先行モードになっている4基のドローンが部屋へと飛び込み、オレたちもそれに続く。
中央に位置するヒールスパイダー。しゃがんでいるのか? そこからゆっくり立ち上がるように動き出す。
なんか、まるでゲームのボス戦開始と錯覚するな……。
まずは、オレが散弾グレネードで動きを止める。
散弾グレネードがヒールスパイダーに命中すると、予想通りノックバックを起こし、少しの間制止する。
見た感じ、飛散する魔弾の半数以上はクリティカルの命中補正が入ってそうだ。
散弾グレネードは単発なので、次弾を撃つ前に魔力のチャージが必須なため、一呼吸空いてしまうが、その間はアネゴとミクが撃ち続ける。
アネゴとミクの魔銃ではノックバックは起きないが、それなりにダメージを与え続けることは可能だ。
その攻撃に並行して、ヒメが【ヘイスト】【プロテクション】【ブレス】をオレたち三人にバフ系の魔法を使い、それが終わるとヒールスパイダーにデバフ効果の【ハイポイズン】【スロウ】を使用する。
三度目の散弾グレネードが命中し、ヒールスパイダーがノックバックした瞬間、突然異変が起きた。
ヒールスパイダーの動きが停止し、その場でヒールを使用しだした。
「は、早くないか? いや、今がチャンスだ。攻撃続行!!」
一通り魔法をかけ終えたヒメも攻撃に加わり畳みかける。
『『チャージ!』』
魔弾を撃ち尽くしたアネゴとミクが魔力をチャージするための掛け声。その掛け声によって、その間攻撃が停止することの伝達のためでもある声掛けだ。
チャージが終了するまでの間に、散弾グレネードが二度命中する……。
「あ、あれ? ヒールスパイダーの動きが停止している?」
停止したヒールスパイダーを見ていると、ジュエルボックスに変わってしまった。
どうやら、予想を超える速さでヒールスパイダーにダメージを与え、あっという間に絶命させてしまったようだ。
ヒールよりも多くのダメージを受けたんじゃ、たまったもんじゃないな。
『ヒカルっち瞬殺かよ』
『はやっ』
『討伐完了ですわね……』
攻撃力アップの効果がここまで絶大だとは思ってもみなかった。
どれくらい効果があったのか検証が必要だな……。
予定ではヒールスパイダーの討伐を完了したら、今日は終了する予定だったけど、まだ余力はありそうだな……。




