044:騒乱の会場
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※7/16更新しました
少し話はさかのぼる。
会場のメインモニターには、『赤城サンブレイク』がビッグスパイダーと戦う様子が映し出されていた。
『赤城サンブレイクのリーダーが見事な攻撃! ダメージを受けたビッグスパイダーは、どうやら一旦回避するために、洞窟状の穴の中へと待機したようです!』
ダメージを受けたビッグスパイダーが、穴の中へと撤退していき完全に身を隠した様子が映し出されると、会場で観戦している人々のどよめきと歓声が広がっていく。
逃走したのか一時的な退避なのかは分からないが、赤城サンブレイクのメンバー5名は再戦に備え準備をしていると、黒原たちのチーム『堕天使の翼』が近づき、何やらスキルを使用する。
その数秒後、ビッグスパイダーが隠れた先と思われる場所から轟音が響き渡り、ビッグスパイダーが逃げ込んだ洞窟状の穴からは煙が噴き出してくる。
『これはよろしくありませんね。他チームが交戦中の魔物に対して攻撃し、横取りの行動をとったと判断される可能性がある行為です!』
会場では、その行為に対してブーイングが広がる中、ドローンの映像には、ビッグスパイダーが隠れていた穴から飛び出してくる姿が映し出される。
その状況に『赤城サンブレイク』『堕天使の翼』共に攻撃態勢に入るが、さらに同じ穴からビッグスパイダーより一回り小柄なスパイダー系の魔物も飛び出し、会場は一気に盛り上がり、それを煽るようにアナウンサーはテンションを一段上げて実況する。
『おおっと! ビッグスパイダーに続いてポイズンスパイダーまで現れました! どうやら穴の中に潜んでいたようです!』
二体の魔物に対しようと身構える『赤城サンブレイク』と『堕天使の翼』のメンバーたち。ところがビッグスパイダーとポイズンスパイダーは、人間を襲うことなく横をすり抜けて逃走していく。
『おや? い、一体どういう状況でしょうか……。魔物たちは戦闘せずに、全員の脇をすり抜けていきました』
その状況に『赤城サンブレイク』『堕天使の翼』のメンバーは唖然とし、逃走する魔物たちを見送っていると、魔物たちが飛び出してきた穴から、もう一体の魔物が飛び出してきた。
ビッグスパイダーよりもさらに大きくごついスパイダー系の魔物だ。
『こ、こ、こ、これは、まさかヒールスパイダーか!?』
実況者は出現した魔物の姿に驚愕し、絶叫しながら魔物名を告げる。
本来ヒールスパイダーの出現階層は、この階層より二階層下だ。しかも、二階層下でも相当出現は稀で、その階層まで辿り着ける探索者でも、討伐出来るかどうか分からないボスクラスの魔物だ。
この階層を探索するレベルの探索者の装備では、到底太刀打ちできる相手ではない。
ヒールスパイダーにダメージを与えるほどの装備は、高額過ぎて入手することはほぼ不可能なのだ。
ヒールスパイダーの登場で、会場の雰囲気は一変する。
『この階層にヒールスパイダーとは!? 本来この層では登場しない魔物の登場で、各チームは無事にダンジョンを脱出できるのでしょうか!』
会場でモニターを観戦していた博士とオニクも困惑する。
「これって大丈夫なんでしょうか」
「さっき、この階層に輝くんたちのチームも侵入していたよね」
その隣で観戦していたアイさんは、その会話をよそに携帯でどこかへ連絡を入れる。
「はい、はい……。では、早急に準備いたします」
すっと立ち上がり、近くにいた藍澤さんのインターン先のリーダー上杉さんへと伝える。
「上杉様。救援のため招集がかかりましたので失礼いたします」
「了解した。ということは、俺にも召集が掛かるはずだな」
そう言いながら立ち上がると、そのタイミングで上杉の端末へ招集通知が届いた。
それに気が付いたアイさん。
「では、後ほど入口で。博士様、ニクオ様、本日はこれで失礼いたします」
「はい、お気をつけて」
「ニクオ……。微妙に僕の名前が違うんですが……」
そう言い残し、アイさんはダンジョンへ入る準備をするため、ダンジョンのアイザワが用意した控室へ向かった。
川越ダンジョンをベースにしている藍澤さんのインターンでもある上杉さんも、駆け出していったアイさんに続き、準備のため腰を上げる。
☆☆☆
準備を終えたアイさんや上杉さんを含めた、総勢十名がダンジョン入口に集合している。その中には、小手指ダンジョンをベースに活躍する、アネゴのインターンである新田さんの姿もある。どうやらアネゴの活躍を見るため、こっそりと会場に来場していたようだ。
「おお! 新田君も来ていたんだな」
上杉さんも新田さんと知人だったようで声を掛ける。
「教え子の初イベントだからね。上杉君もそうだろう?」
「そうだな。聖女とまで言われている藍澤君が選んだパーティー……どんな活躍をするのか、期待しかないだろう」
「ハハハ、確かにな!」
集まった上位探索者たちには、ダンジョン内に入った学生たちを救援すべく、作戦実行の指示が通達される。
「皆さん、緊急時で細かな作戦等の指示ができない状態な為、上位の探索者様の各自の判断にお任せしますが、学生たちの救援を最優先でお願いいたします!」
その言葉と同時に、集められた上位探索者たちはダンジョンへと侵入していく。
「では上杉様、わたくしは先行して最深部へと向かわせていただきます」
「君が先行するなら、救援の成功率は大幅に向上するだろう。よろしく頼む」
ちらっと上杉に目を向けた後、無言で駆け出しダンジョン内を先行する。どうやら、アイさんは元々、斥候としての能力が飛び抜けていて、かなり名を上げていた探索者だったらしい。
その背には、現役時代から愛用しているショートソード二振りを背負っていた。
☆☆☆
先行したアイさん。遭遇する魔物も問題なく討伐……ほぼ瞬殺していき、どんどんと先へと進んでいく。
危なげなく、あっという間に救援対象のB3へと到達する。
(ようやくB3か。とりあえず最短距離を進むか……)
戦闘していた箇所がどこかは、アイさんは完全に把握していた。
ダンジョンのアイザワで開発中の、ドローン映像と連動するゴーグルを装着している。今回のイベントは同社が協賛しているため、配信映像をリアルタイムで受信しながら進んでいた。
アイさんが到着した頃には、『黄昏の月』もすでに合流しており、黒原による最初の落石が成功し、撤退戦が行われている真っ只中だ。
最初に落石させた通路の裏側に到着したアイさんは、周辺の様子を伺う。
(あの隙間から向こう側へ抜けられそうだけど、どうやらヒールスパイダーの閉じ込めを狙っているのね。なら、邪魔はしない……えっ?)
撤退戦を行っている三チームの配信が、途中で切断されてしまったのだ。
(いったい何が起きたの?)
若干思考したのち、状況確認を行うため、上方にある隙間から向こう側へ抜けようと、アイは岩山を登り始める。




