042:ダンジョンブレイク
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※7/8修正しました。
逃走状態のビッグスパイダーとポイズンスパイダーを追撃したあと、急ぎ二つのパーティーが共闘しているであろう地点へとオレたちは急ぐ。
そこまではさほど距離がなく、すぐに戦闘の様子が視認できた。
ここからでは敵の姿は確認できないが、間違いなく『赤城サンブレイク』と『堕天使の翼』との混成チームが戦闘している。
見る限り、かなり苦戦しているようだ。
うーん……『赤城サンブレイク』をサポートするのはいいけど、黒原たちは何かやだな……。いや、心底嫌だ……。
しかし、黒原たちだけならまだしも、『赤城サンブレイク』のメンバーまでもが参加している戦闘で後手に回っているとは、いったいどんな数の魔物と戦闘しているんだ?
この時点でオレは、魔物が数の暴力で圧倒され苦戦しているんだと思っていた。
そこへ加勢しようと、もう少しだけ近づいて見ると……。
オレは思わず声をあげてしまう。
「あ、あれはヒールスパイダー?」
「間違いございません」
オレのつぶやきに被せて、ヒメが断言する。
やっぱり勘違いじゃなかったか……。
ヒールスパイダーが、自分たちよりも遙かに格上の魔物だと認識しているアネゴは呆然。それを知らないミクは、何事かしらといった感じでほぼ無反応。
この状況で、平常心でいられるってのは幸せなことだぞ。ミク。
ヒールスパイダーは、二つ下の階層でボスモンスターとして出現する魔物だ。
外装が厚くてダメージが通りづらい。
しかも、やっとの思いで与えたダメージを、あざ笑うかのように自身にヒールを使い耐久度を回復させてくる。
ダメージを与えづらいうえ、一定以上ダメージを受けると回復を行うという、なんとも倒すまでに時間がかかる、めんどう極まりない魔物だ。
「なんでこの階層にヒールスパイダーがいるんだ。たしか、二階層下の階層主って言われてる魔物だよな……」
「恐らくはダンジョンブレイクかと思われます」
「まじ? だとしたら、この階層に来た時の爆音が関係あるんじゃね?」
ダンジョンブレイクとは、ダンジョンの一部に亀裂が生じて別な階層と繋がってしまうことで、地震等の衝撃により発生すると言われている。
その亀裂を通じて、その階層では本来存在しないはずの格上の魔物が移動することがあるため、ダンジョンブレイクの可能性がある場合には、ダンジョン入場時には事前に警告されるはず。
つまり今回は完全にイレギュラーで発生している。
おそらく、この階層進入時に起きた大きな破裂音と地響きが関係している……ってことは、黒原のヤツが爆破で貫通させたってことなのか?
はぁ……いったいあいつらは何をしているんだか。呆れかえるんだが……。
「あれって、今のオレたちで討伐できるのか……」
「相当厳しいかと思われます。あの外装を貫通してダメージを与えることができるのは、この中ではサンブレイクのリーダー沼田様くらいでしょうか。しかも、最も外装が薄い関節をピンポイントで当てる必要がございます。動いている魔物へのその行為は、相当難しいかと……」
ヒメの的確な分析に絶望感しかない……。
よしんばダメージを与え続けられたとして、ヒールスパイダーは受けたダメージの総量が半分を超えると、ヒールを使ってダメージを全快させてくる。しかも四〜五回は回復行為を行ってくる。
討伐まで気力を維持するのは、相当きついはずだ。オレたちが参加してもギリギリ倒せるかどうかって感じだろうな……。
試しに、今の位置から小銃を構えて二連射六発の魔弾を射撃してみる。
六発とも命中したが、ダメージ判定が出たのは三発だけ。おそらくクリティカルヒットした時しかダメージが入らない。
オレの運値なら、クリティカル率は50パーセントくらいある。だが、クリティカルでもダメージは一ポイントしか入らない。
鑑定眼でヒールスパイダーを鑑定してみると、HPが三減っている。
むむ……。
ヒールスパイダーの最もポピュラーな倒し方は、すべての足を切り落として身動きできない状態にして、硬度が低いお尻の付け根の部分に剣や槍などを使い串刺し状態にするのが王道だ。
ヒールスパイダーは、この状態でヒールを何度も使わせ、最終的に絶命させるという、かなりえぐい方法なのだが、オレたちの武器の性質上、それを実施するのは不可能に近い。
おそらく最も攻撃力が高いサンブレイクのリーダーでも、大剣では簡単に切断まではできないだろう。
今回は討伐をあきらめて、撤退するべきだ。
ただ、今のままでは撤退するのも難しい。まずは援護するか。
「オレ、ミク、アネゴは狙いやすい位置に移動後、ヒールスパイダーを攻撃。ヒメはオレたちにブレスのバフを!」
「「「了」」」
ヒメのブレスが掛かったので、できうる限り連続射撃で援護する。
あと少しヒールスパイダーにダメージを与えられれば、位置的にヒールを使うため一時撤退するはずだ。
2MP分の魔弾30発を撃ち終えると、ヒールスパイダーが回復に入るラインまで削れたようだ。
岩陰……ダンジョンブレイクを起こした穴と思われる中に一時撤退していき、ヒールスパイダーが姿を消したことを確認すると、サンブレイクのリーダーがこちらへ近づいてきた。
「援護、感謝する!」
「無事で何よりです。一体どうしてこの階層にヒールスパイダーが存在しているんですか」
赤城サンブレイクのリーダー沼田さんは高校二年、一年先輩なので、一応敬語で返答をする。いや、敬う相手であれば、年齢に関係なくリスペクト対応になるんだけどね。
オレの率直な質問に対して、沼田さんが端的にまとめ上げた内容を共有してもらう。
その内容を要約すると、黒原たちは、ビッグスパイダーとの戦闘中、穴へ隠れた相手に爆破スキルで追撃を仕掛けた。
ところが、その爆破音で周辺の魔物を呼び集めてしまい、集まった魔物たちと混戦状態になる。
『堕天使の翼』が全滅しかけたところへサンブレイクが合流し助太刀に入る。
窮地は脱したものの、魔物の数が多すぎて膠着状態になる。
そんな中、今まで穴の中に隠れていたビッグスパイダーが飛び出し挟撃されたかに見えたその時、更に穴の中から追うように魔物が一体飛び出してくる。
それがヒールスパイダーだ。
完全に終わったと思ったが、出現すると同時に、ヒールスパイダーが咆哮を放ち、集結した周辺のスパイダーは恐れおののき四散し、ヒールスパイダー対『赤城サンブレイク』+『堕天使の翼』の共同戦線へと展開し今に至る。
「なるほど……それで、その後どうします?」
「撤退一択だ。なあ、黒原君!」
「ああ……」
おお。黒原でも、さすがにサンブレイク沼田さんの話は素直に聞くのか。ただ、不満なのが丸わかりだ。本当はまだ戦いたいのか他人に仕切られるのが嫌なのか……おそらく後の方だろうな。
「ただ、どうやって追撃を防ぎながら撤退するかがな……どうにか足止めできればいいんだが」
そうなんだよな。
ヒールスパイダーは三メートルほどある巨体の割には、移動速度が非常に速い。通常の移動時でも人間の走行速度と同等かそれ以上の速度で移動することができるため、足場が悪いダンジョン内の移動では到底勝ち目はない。
今の位置では、追いかけられれば間違いなく追いつかれ、犠牲者が出るのは不可避だ。
足止めか……。
あっ! あいつのスキルを使えばもしかしたら可能かも。ただ、あんまり頼りたくないんだよな。そもそも協力してくれるかどうか。
「なあ、黒原……」
「なんだよ!」
やっぱめんどくさいヤツ。だけど、こいつの態度にはいい加減慣れてきたんだよね。
「おそらくできないとは思うんだけどさ、お前のスキルで天井の岩を爆破して下に落とすことってできるか?」
「はぁ!?」
「ほら、あれだよ。天井に氷柱っぽい感じで垂れさがってる岩を、爆破で落とせないかなと思ったんだけど、さすがにそんなに威力はないか」
天井を指差しながら、少し煽り気味に言ってみると、まんまとオレの思惑に乗ってくる。
「ふん、バカにすんなよ。あの程度の岩なら、簡単に落とせるぜ!」
「本当か? でもビッグスパイダーが穴に隠れた時、その中を爆破したけど破壊まではいかなかったんだよな」
「ち、違っ。あれは少しセット位置が奥過ぎただけだ」
ほう……。ある程度、セット位置を調整することが可能なのか。
「沼田さん、一つ考えがあるんですけど」
「うん、聞こう!」
この位置から見て後方、つまり東方向へ進んだ先が突き当たりになっている。
そこから南へ向かえば次層へ、北へ向かえば大回りしたのち、この階層入口へ続く通路へ出る。
その通路を通過したあと、黒原のスキルで上部の岩を落として通路を塞ぐ。
成否は黒原の腕次第だ。
「その作戦を受け入れるとして、退却中の隊列をどうしたものか……。大盾のうちのサブリーダーと自分がしんがりを受け持つが、二人では心もとない。しかもメンバーの一人がポイズンスパイダーの毒で、行動が制限される状態なんだ」
毒を食らったメンバーがいるのか。まあその程度なら問題ない。
「ヒメ!」
「承知しました。キュア」
ヒメの魔法で、ポイズンスパイダーによる攻撃で毒状態になっていたサンブレイクパーティーのメンバーは、難なく状態異常から回復する。
「おお! 助かった。これで撤退の懸念の一つは解決した。このお礼はダンジョンからの帰還後にさせてもらう!」
「困った時はお互い様なので。それと、撤退時の支援はオレもサポートに回ります。自分の武器なら、相手をノックバックさせることが可能なので、足止めの貢献はできると思います」
「それはありがたい。是非お願いする!」
退却の方向性がおおよそ決まり、撤退のフォーメーションがおおむね決まったので、再度ヒールスパイダーが現れるまでその場で待機する。
問題は黒原だ。頼むから失敗だけはするなよ……。




