041:異常事態
いつもお読みいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
※7/8 少し修正しました。
アーススパイダー四体を討伐後、道なりに進んでいくと、右折ルートの分岐点へと到達する。
右折すれば、このダンジョンの中央を突っ切ったのち、左回りルートへ。真っ直ぐ北に向かえばダンジョン内を右回りで進むルートになる。
どちらに向かうべきかな……。
この階層では、ダンジョン内を満遍なく踏破し、制限時間まで何度か周回したいと考えている。どちらのルートを選んでも、このダンジョンの特徴上、八の字を描くように周回できる。
どちらへ向かっても、最終的にはそう変わらないけど、ある理由から、オレは北側のルートに向かうことを伝える。
「ヒカル様、この先に進めば『ビッグスパイダー』との遭遇が最も多いとされる地点に近づくこととなりますが、問題はございませんか」
確かにビッグスパイダーは難敵だ。
オークと同等の力量を持ち、耐久力に至っては倍程度あると言われている。だけどドロップ品が格別なんだよな……。
それに、難敵とは早めに遭遇し、戦闘を体験しておきたい。
「難敵だからこそ、早めに対峙しておきたいんだよね。遭遇したときは、オレも覚悟を決めて全力を尽くすよ」
「まあ! ご期待しておりますわ」
満面の笑顔でそう答えながら、オレの袖を摘むヒメ。それはさすがに反則だろ!
「ちょっとヒメ! ヒカル! こんなところでイチャイチャしない!」
「ヒメのめんこいアピール、エグいわー」
「そんなのではございませんわ!」
なんか、いたたまれないな……。
「それじゃ出発! フォーメーションBね」
そう伝えてオレが歩き出すと、ミクとアネゴの二人は「もうっ」とかぼやき、ヒメは微笑みながらオレの後を歩き出す。
ほんの数メートル進むと魔物が向かってくる気配。
アーススパイダーだ。
だが、どうも先ほど遭遇した時よりも、さらに動きが違って見える。
今まではその場に留まり、こちらが近づくと襲ってきていた魔物が、生息しているという感じではなく、こちらの存在とは関係なく一目散に向かってきている感じだ。まるで何者からか逃げているかのごとく。
しかも、二メートル弱もある巨体で、八つの足をワサワサと高回転で動かしながら猛スピードで向かってくるので、正直動きがキモイし怖い。ぴょんぴょん跳ねまわっての移動ならば、少しは可愛げがあるんだが……。
近づくアーススパイダーに対して、素早く膝撃ちで散弾グレネードを発射し、ミク、アネゴが追撃して難なく討伐完了。
「なんか嫌な予感がする……」
「だよね……」
この奥で一体何が起きているんだ。
「また来ますわ」
ヒメが警戒の声を上げる。
再びアーススパイダーが一体だけ、猛スピードで向かってくる。まあ、いくら早いったって、一体だけならオレたちの敵ではないけどな。
難なくアーススパイダーを討伐し、再び奥へと進んでいく。結局、あと僅かで合流地点に到達するまでに、何度も同じような遭遇戦が繰り広げられ、最終的には、アーススパイダー二体、ポイズンスパイダー二体を討伐し、【魔石Lv2】×2【魔石Lv3】×2を手に入れた。
「一体何が起きているんだか」
「何かから、逃走してるって感じ?」
「確かにそう見える……」
アネゴの分析に、オレも同意する。
もし予想通りだとすると、一体何から逃げているんだろうか。かなり格上の魔物が現れない限り、魔物同士でも争うと思うんだけどな。
実際、ゴブリンとグレイウルフが争っているところに遭遇してるし。
ということは、確実に格上の魔物がいるってことなのか。まさか、この先にビッグスパイダーがいるとかなのか?
ビッグスパイダーが大暴れして、それが脅威で他のスパイダー系の魔物が逃亡してるとか考えたくない。
「ビッグスパイダーはこの階層で最も脅威な魔物とはいえ、他のスパイダー系の魔物が逃走するとは考えづらいですわね」
ヒメも思うところがあるのか、ダンジョンを進みながらつぶやく。
「場所的には、この先つよつよパーティーが無双中とかワンチャンあるかもねー」
いやいや、それはないだろう。ヒメやアネゴのインターン先チームなら、それこそワンチャンあるかもだけど。
「とにかく先に進もうか。行けば何か分かるだろう。ただし警戒は高めで!」
「「「了」」」
少しだけ恐怖心はあるが、分岐点を飛び出したりしなければ、超至近距離での遭遇戦ってのもありえないだろう。盾を持たないオレたちからは、それは絶対避けなければならない。
T字路? 若干Y字路とも言えそうな分岐地点手前に到達する。
オレたちは北西の方向からの到達で、東へ向かうとB4階層とオレらが来た分岐点方向へ向かう分岐点へと繋がり、南西へ向かうとこのダンジョンの中心地辺りへと繋がるが、移動開始前に先の様子を伺う。
今回は慎重を期して、二の腕に装着した端末を取り出し、今まで放置……というかオート追跡モードにして、オレの周辺を周回していたドローンを手動モードにして、分岐先へ向かうよう操作する。
動画保存の容量確保のため、音声を念のためオフに切り替える。
東方向は敵影なし。南西方向は……ポイズンスパイダーが一体と、その脇にポイズンスパイダーより二回りほど大きくて、全身ががっしりとしたスパイダー系の魔物が、どこかのチームと戦っているようだ。
ん? なんか人数が多いぞ。二チームがこの先に集結しているのか?
しかも、戦闘状態に入っている先にも何やら魔物がいるようで、挟み撃ちになっている状態だ。
ここからだと先の魔物の姿は確認できないが、挟み撃ちはさすがにヤバ目だ。
どちらかのチームは確実に黒原たちのチームだが、さすがにスルーってわけにはいかないか……。
オレは手動操作していた端末をホルダーに収納しながら次の指示を出す。
「この先で『赤城サンブレイク』と『堕天使の翼』が交戦中。両通路から挟み撃ち状態なのでサポートに向かう」
「げー、黒原たちもいるのね」
「不本意ながら」
「上がんねっ」
「サポートは探索者の義務でございますから」
そう言いながら、最後にため息をつくヒメ。まあ、そうなっちゃうよね。とは言え『サンブレイク』の見殺しこそ不本意だ。
「それじゃ……」
「キュェェェェェーーーーーー!」
移動の合図を出そうと言いかけた時、遠くの方から超音波を思わせる甲高い、魔物から発せられたと思われる声が響き渡る。
「た、待機! 構えっ!」
分岐の通路手前で、オレは膝撃ちで魔銃を構え、ミク、アネゴもオレの後ろで魔銃を構える。そしてヒメは、最後方で魔法発動の用意をしている。
いったい何の叫び声だったんだ? そう考えるのもつかの間、目の前の通路をポイズンスパイダーとビッグスパイダーが、こちらの通路には見向きもせず、八本の脚をばたつかせながら目の前を通過していく。
さっきの叫び声に驚き、逃亡しているようにも見える。
つまりは、ここに来るまでの間、逃亡しているように見えた魔物の元凶が、この先にいる魔物ってことなのか。一体どんな魔物がいるんだ……。
このまま放置すれば、また救援先が挟み撃ちになる。再び挟み撃ちをされないよう不安材料を取り除くぞ。
「ビッグスパイダーを追撃する!」
「えっ、そっち?」
「り、了」
早々に走り出すオレの後を、若干戸惑いながら後に続く三人。
スパイダーの逃走スピードはそれほど早くないため、余裕で追いつきそうだ。
何ならここから射撃しても命中しそう。特にビッグスパイダーは大きいためか、八本の足がバタついていて、速度がものすごく遅い。
なんというか、ビッグスパイダーの走行は空回り感丸出しだ。
ビッグスパイダーとは10メートルもない距離まで近づいたため、散弾グレネードをビッグスパイダーに向けて一発発射し、討伐はミクとアネゴに任せる。
かなりの至近距離で散弾を当てたため、かなりの魔弾が命中しているはずだ。あとはミクとアネゴが数発も命中させれば、討伐完了するはず。
オレはビッグスパイダーから距離を取るようにして、ポイズンスパイダーを追う。ポイズンスパイダー程度なら、挟み撃ちになっても大事には至らないとは思うが、ここは念のため討伐を完了させた。
それと、せっかくなのでオレが討伐して激レアドロップ品を狙ってみたい。
万が一ドロップすれば、オレたちのチーム運用の幅が一気に広がるんだ。主にヒメが中心に。
ポイズンスパイダーとの距離は約20メートルある。散弾を使用するより、二十式魔銃で連射する方が効果的だな。
オレはフルオートにセットして数発連射する。
三発ほどの魔弾の発射でトリガーを戻す。
魔弾はポイズンスパイダーにすべて命中して、ポイズンスパイダーの動きは一気に鈍くなる。
そこでもう一連射……。
魔弾が命中するよりも早く、ポイズンスパイダーはドロップ品を残し消滅する。
おっ! やったー!! スキルジュエルボックスがドロップしているぞ。
なるべく早く引き返そうと、ジュエルボックスの中身は確認せず収納する。おあとの楽しみってことで……。
ちなみに、ミクとアネゴの手によってビッグスパイダーの討伐も完了。【魔石LV3】がドロップしていた。
二人はかなり不満顔で「ヒカルっちだけずるい」とか、「くやしー」とか口にしていたけど、ビッグスパイダーのドロップ品は、ほとんど【魔石LV3】だから、それが普通だからね。
オレは不満顔の二人をよそに【魔石LV3】を回収し、未知の魔物が待つ二チームの元へと急いだ。




