042:ダンジョンブレイク
いつもお読みいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
逃走状態のビッグスパイダーとポイズンスパイダーの追撃戦に勝利した後、急ぎ二パーティーが共同で戦闘しているであろう地点まで、急いで戻る行動を取るオレたち。
そう遠くまで離れていなかったので、わずかの時間で視認できる距離まで移動することができた。
ここからでは、今のところ敵の姿を確認することができないが、間違いなく『赤城サンブレイク』と『堕天使の翼』との混成チームだ。見る限りでは、かなり苦戦しているようだな。
うーん……赤城サンブレイクたちをサポートするのはいいけど、黒崎たちは何かやだな……。しかし、黒崎たちだけなら分からないでもないけど、赤城サンブレイクのメンバーが揃っていて苦戦するとは、一体どんなヤツと戦っているんだか。
彼らが戦っている相手を確認しようともう少しだけ近づいて見る……!!!
「あれはヒールスパイダー?」
「間違いなくヒールスパイダーですわね」
オレのつぶやきに被せて、ヒメが断言する。やっぱり勘違いじゃなかったかー。
この魔物は二階層下のボス級魔物で、特徴は外装が厚くてダメージが通りづらい。しかも自身の耐久度が半減するとヒールを掛けて自身の耐久度を回復させるという厄介な魔物だ。
「なんでこの階層にヒールスパイダーがいるんだ。たしか、二階層下の階層主って言われてる魔物だよな……」
「恐らくはダンジョンブレイクかと思われます」
「まじ? だとしたら、この階層に来た時の爆音が関係あるんじゃね?」
ダンジョンブレイクとは、ダンジョンの一部に亀裂が生じて別な階層と繋がってしまうことで、地震等の衝撃により発生すると言われている。
その亀裂を通じて、その階層では本来存在しないはずの格上の魔物が移動することがあるため、ダンジョンブレイクの可能性がある場合には、ダンジョン入場時には事前に警告されるんだが、おそらく今回は完全にイレギュラーで発生している。
おそらく、この階層進入時に起きた大きな破裂音と地響きが関係している……ってことは、黒原のヤツが爆破で貫通させたってことなのか?
はぁ……いったいあいつらは何をしているんだか。呆れかえるんだが……。
「あの魔物って、今のオレたちで討伐できるんだろうか」
「相当厳しいかと思われます。あの外装を通過してダメージを与えられるのは、サンブレイクのリーダー沼田様くらいでしょうか。しかも、最も外装が薄い関節をピンポイントで当てる必要がございます。動いている魔物へのその行為は、相当敷居が高いかと……」
ヒメの分析はさすがに的確。
よしんばダメージを与え続けられたとして、ヒールスパイダーはダメージ蓄積がトータルの半分を超えると、ヒールを使ってダメージを全快させてくる。しかも四〜五回は回復好意を行ってくる。
討伐まで気力を維持するのは、相当きついはずだ。オレたちが参加してもギリギリ倒せるかどうかって感じだろうな……。
試しにこの位置から小銃を構えて二連射六発の魔弾を射撃してみる。
六発とも命中したが、ダメージ判定されたのは六発中三発のみ。おそらくクリティカルヒット判定時のみダメージが入る感じか? オレの運値は高いため50パーセントくらいの確率でクリティカル判定される。ただ、クリティカルでもダメージは一ポイント入るだけ。
鑑定眼でヒールスパイダーを鑑定してみると、三ダメージほど増えているのが分かる。
むむむん……。
ヒールスパイダーの最もポピュラーな倒し方は、すべての足を切り落として身動きできない状態にして、硬度が低いお尻の付け根の部分に剣や槍などを使い串刺し状態にするのが王道だ。
ヒールスパイダーは、この状態で何度もヒールを使い続けて、最終的に絶命させる、かなりえぐい方法なんだけど、オレたちの武器の性質上、その方法を取ることはできない。一番攻撃力の高いサンブレイクのリーダーの大剣での攻撃でも、現状では簡単に切断とまではいかないだろうな。
今回は討伐をあきらめて、撤退するべきだ。ただ、今のままでは撤退するのも難しいので、まずは援護するか。
「オレ、ミク、アネゴは狙いやすい位置に移動後、ヒールスパイダーを攻撃。ヒメはオレたちにブレスのバフを!」
「「「了」」」
ヒメのブレスが掛かったので、できうる限り連続射撃で援護する。あと少しヒールスパイダーにダメージを与えられれば、位置的にヒールをかけるため一時撤退するはずだ。
2MP分の魔弾30発を撃ち終えると、ヒールスパイダーのダメージが半減まで削れたようで、岩陰……ダンジョンブレイクを起こした穴と思われる中に一時撤退していき、そのタイミングでサンブレイクのリーダーがこちらに近づいてくる。
「援護、感謝する!」
「無事で何よりです。一体どうしてこの階層にヒールスパイダーが存在しているんですか」
赤城サンブレイクのリーダー沼田さんは高校二年、一年先輩なので、一応敬語で返答をする。いや、敬う相手であれば、年齢に関係なくリスペクト対応になるんだけどね。
オレの率直な質問に対して、沼田さんが端的にまとめ上げた内容を共有してもらう。
その内容を要約すると、黒原たちとビッグスパイダーとの戦闘の最中、ビッグスパイダーが穴に隠れたところを爆破スキルを使い追撃を行った。ところが、その爆破音で周辺の魔物を呼び集めてしまい、集まった魔物たちと混戦状態になる。『堕天使の翼』全滅の危機のところで、サンブレイクが合流し助太刀に入る。全滅の危機からは救われるが、魔物の数が多すぎて膠着状態になる。そんな中、今まで穴の中に隠れていたビッグスパイダーが飛び出し挟撃されたかに見えたその時、更に穴の中から追うように魔物が一体飛び出してくる。それがヒールスパイダーだ。
絶体絶命を超える絶体絶命の状況で命運が尽きたと思ったが、出現と共にヒールスパイダーの咆哮により、集結した周辺のスパイダーは恐れおののき四散し、ヒールスパイダー対赤城サンブレイク+堕天使の翼の共同戦線へと展開し今に至る。
「なるほど……それで、その後どうします?」
「撤退一択だ。なあ、黒原君!」
「ああ……」
おお。黒原でも、さすがにサンブレイク沼田さんの話は素直に聞くのか。ただ、不満なのが丸わかりだ。本当はまだ戦いたいのか他人に仕切られるのが嫌なのか……おそらく後の方だろうな。
「ただ、どうやって追撃を防ぎながら撤退するかがな……どうにか足止めできればいいんだが」
そうなんだよね。ヒールスパイダーは三メートルほどある巨体の割には、移動速度が非常に速い。通常の移動時でも人間の走行速度と同等かそれ以上の速度で移動することができるため、足場が悪いダンジョン内の移動では到底勝ち目はない。現在の位置的に、追いかけられれば間違いなく追いつかれ、犠牲者が出るのは不可避だ。
足止めか……。
あっ! あいつのスキルを使えばもしかしたら可能かも。ただ、あんまり頼りたくないんだよな。そもそも協力してくれるかどうか。
「なあ、黒原……」
「なんだよ!」
やっぱめんどくさいヤツ。だけど、こいつの態度にはいい加減慣れてきたんだよね。
「おそらくできないとは思うんだけどさ、お前のスキルで天井の岩を爆破して下に落とすことってできるか?」
「はぁ!?」
「ほら、あれだよ。天井に氷柱っぽい感じで垂れさがってる岩を、爆破で落とせないかなと思ったんだけど、さすがにそんなに威力はないか」
天井を指差しながら、少し煽り気味に言ってみると、まんまとオレの思惑に乗ってくる。
「ふん、バカにすんなよ。あんな程度の岩程度、簡単に落とせるぜ!」
「本当か? でもビッグスパイダーが穴に隠れた時、その中を爆破したけど破壊まではいかなかったんだよな」
「ち、違っ。あれは少しセット位置が奥過ぎただけだ」
ほうー。ある程度、セット位置を調整することが可能なのか。
「沼田さん、一つ考えがあるんですけど」
「うん、聞こう!」
この位置から見て後方、つまり東方向へと向かいその突き当たりは、南に進むと次層へ北へ向かうと大回りをした後この層の入口へと通じる通路へと到達する。その通路へうまく引き込めば、魔物を通路と通路の間に閉じ込めることが可能だ。
黒原の腕次第ではあるんだけどもね。
「だが、退却中の隊列をどうしたものか……。大盾のうちのサブリーダーと自分がしんがりを受け持つが、二人ではこころもとない。しかもメンバーの一人がポイズンスパイダーの毒で、行動が制限される状態なんだ」
毒を食らったメンバーがいるのか。まあその程度なら問題ない。
「ヒメ!」
「承知しました。キュア」
ヒメの魔法で、ポイズンスパイダーによる攻撃で毒状態になっていたサンブレイクパーティーのメンバーは、難なく状態異常から回復する。
「おお! 助かった。これで撤退の懸念の一つは解決した。このお礼はダンジョンからの帰還後にさせてもらう!」
「困った時はお互い様なので。それと、撤退時の支援はオレもサポートに回ります。自分の武器なら、相手をノックバックをさせることが可能なので、足止めの貢献はできますので」
「それはありがたい。是非お願いする!」
退却の方向性がおおよそ決まり、あらかた撤退のフォーメーションが決まったので、再度ヒールスパイダーが現れるまでその場で待機する。
思惑通りうまくいけばいいんだけどな……。




