『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』338
昼食後は魔法練習。チュリアさんの指導によって、多重詠唱や遅延発動の方法を、黄金音先輩と蒼奈が教えてもらってるよ~。
一応、使い方の話を聞いてるんだけど~、魔力操作が必要だから、あたしには使えないっぽい~。ピクシーは他の種族よりも魔力が純粋だって聞いたから、勢いでできるかな~って思ったけど無理だった~。やっぱりスキルの恩恵は大きいみたいだね~。
それでも最後まで説明を聞き終えてから、別のところへ移動した。いつかできるかもしれないな~って期待しつつ聞いてたんだけど、この後は実践するだけだから、今のあたしには関係ないからね~。
やることがないから、探索魔法や魔力感知の練習をしていると、玄関の方で音が聞えた~。
「あ、ホツナルさんだ~」
待望のホツナルさん! 手を振って歓迎するよ~。
「お、チャコちゃん! あの本が読めたってホントか!?」
「少しだけね~」
玄関には、すごく大きな荷物を背負ったホツナルさんが居たよ~。リュックサックとショルダーバッグを入り口にどさどさ置いてから、片手に鞄を1つだけ持って、本宅に入らず横の庭への通路を通って足早に書斎へ向かっていった。
「あ、叔母さまお帰りなさい」
未黒先輩と模擬戦をしていたシェリマさんが、横を通過するホツナルさんに気が付いて声をかける。
「解読した本は?」
「コガネさんが知っているはずです。あちらでお母さまと魔法の練習してますよ」
シェリマさんが、手のひらを庭の奥へ指し示す。
「ありがと!」
ホツナルさんは、バタバタと走って魔法の練習をしている場所へ向かった~。
「コガネさん! 解読は!?」
「あ、ホツナルさんお久しぶりです」
黄金音先輩は、魔法の練習を中断してホツナルさんに向き直る。
そんな黄金先輩の手をホツナルさんが手に取る。
「久しぶり! で、解ぐあっ!」
ホツナルさんの顔を、チュリアさんが片手で鷲掴んだ~。
「ホツナルちゃん? 帰ってからそのまま来たんでしょう? まずやることは?」
音は聞こえないけど、ミシミシって音が似合いそうな雰囲気してるよ~。
「――お母さまへの報告と荷物の整理です」
「そうですよね」
チュリアさんの手から解放されるホツナルさんは、立ち上がると「コガネさん、また後で」と言葉を残して本宅へ戻っていった。チュリアさん、強い~。
「コガネさんは、もうしばらくはここで練習していましょう。今からホツナルの所に行っても、旅の片づけの手伝いをさせられるだけですから」
「わかりました」
ホツナルさんの行動を熟知しているのか、コガネ先輩にくぎを刺している。あたしも、数日ここでお世話になったからわかるんだけど、ホツナルさんはそういうところあるって思うな~。
玄関に向かったホツナルさんを追うように玄関側へ移動すると、置きっぱなしだった荷物はそのままで、開いた扉の向こうではホツナルさんがサリアスさんに話をしている姿が見えた~。
「チャコさん、どうしました?」
玄関の隙間から中を見ていたら、シェリマさんがすぐ近くまで来ていた。
「ホツナルさんがサリアスさんと話してるのを見てる~」
怒られてるって雰囲気はなさそうだね~。サリアスさんが普通に娘の話を聞いているだけの感じがするよ~。
「あぁ、帰宅した報告ですね。私も旅行をした後はお母さまに報告していますよ」
シェリマさんは玄関扉の隙間から中をちらりと覗いてから、玄関前に置いてある荷物を拾い上げる。
「書斎に持っていくの~?」
「はい。弟子ですので」
あ~。黄金音先輩と違って、シェリマさんは弟子だから、荷物の片づけも仕事のうちなのか~。
荷物はシェリマさんが全部抱えて移動しているので、手伝いも必要なさそう~。荷物の中身が気になるから、一緒に書斎へ移動~。
書斎へ移動したシェリマさんは、ショルダーバッグを最初に開いて、中から布を取り出した。服かなって思ったら、布の中から小さな古い壺のようなものが出てきた~。なんか、歴史の授業で見た、なんとかナスって名前の壺によく似てるかも~。
「見た目はただの壺ですけど、これは魔法の道具です」
壺を棚に置いてあった木箱に入れながら説明してくれる。
水分限定のストレージのような効果の道具みたいで、見た目以上の水分が入れられるみたい~。壺の中に入れる水分の種類も、複数に分けて入れられるようで、ホツナルさんは水だけじゃなくて、お酒を何種類か入れているのだとか。
「どちらかと言えば、叔母さまはお酒専用で使っていますね。飲み水は水魔法で出せますが、お酒を生み出すような食料魔法は覚えてないので」
「水魔法だとお酒は生み出せないの~?」
「水魔法でもアルコールを生み出すことはできますが、味をおいしくする効果は食料魔法でなければ上手くいかないですね」
水魔法だと、実験で使うようなアルコールが出てくるみたい~。それはさすがに、飲用ではないよね~。
お酒だけじゃなくて、甘いジュースとかも食料魔法があれば生み出すことができるんだって~。なんか、食料魔法って優先して覚えた方がいい魔法かもって思うよ~。
「食料魔法って便利そうだけど~、よく旅をするホツナルさんは覚えてないんだ~」
「どの魔法もですが、実用に足るレベルにあげるのは大変です。叔母さまなら、食料魔法のレベルを上げる時間を、他の魔法のレベル上げに使うはずです。食料だけなら街で買えますし、その方が種類も豊富ですから」
食糧難な世界じゃないからね~。少し移動すれば街にすぐ到着するような世界だし、お金さえあれば各地のおいしいものを食べられるんだから、食料魔法をわざわざ覚えて旅をすることってないのかも~。
食料魔法を覚えるのは、やっぱり街の調理人とかそういった食品を扱う専門の人が多いみたい~。蒼奈はなぜか覚えてるけどね~。
その他にも、筆記用具のようなものや何かを測量するよな小さな道具を幾つか取り出して、机の引き出しに入れていった~。
リュックサックも開いて、中から紙の束を取り出しては、机の上に並べていく。こっちは研究資料っぽい~。内容を見ていいかどうかわからなかったので、シェリマさんが整えているのを眺めているだけにしたよ~。
そうこうしていると、書斎の入り口から音が聞こえ、ホツナルさんの姿が見えた。
「シェリマ、いつもありがとうね」
書斎の入り口にあるコートハンガーに上着をかけてから中に入る。手に持った小さな鞄は、机の上にぽんと置いた。
「いつもの道具は戻しました。資料は日付ごとに分けただけです。それ以外はそのまま鞄に入っています」
「助かるよ」
ホツナルさんは、シェリマさんから鞄を引き継いで整理を始める。いつもの道具をシェリマさんが片づけたってことは、今取り出してる棒や箱は、普段の持ち物じゃないってことか~。
「そういえば~、探索魔法覚えたよ~」
見ているだけなのも暇なので、スキル取得の報告をする。
「お、それじゃあ魔法が覚えられるってことだね」
「うん。後でおねがいしま~す」
「了解、これを片づけてからだね。姉さんに小言を言われるから」
あれだけ優しいチュリアさんが小言を言うくらいなんだから、よっぽどなんだね~。多分、何度も荷物をそこらに置きっぱなしにした前科があるんだと思う~。
行き先のわからない荷物を運び終えて、鞄がふたつともペタンコになったところで、シェリマさんが鞄を片づけて、ホツナルさんが椅子に座る。
「それじゃあ、解読した本は――」
「叔母さま、チャコちゃんはずっと待ってましたが?」
シェリマさんが横目でじろりとホツナルさんをにらむ。
「あー、急にチャコちゃんに魔法教えたくなった。今からでいいかな?」
「は~い。おねがいしま~す」
この世界の人は、妖精をないがしろにはしない文化なので、妖精を待たせたのなら、後回しにできることはすべて後回しにします。




