『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』335
~~~アオナ~~~
学校から帰宅して、着替えや水分補給をする。家の前で別れた茜は、ネプチュン王国に向かう途中なので、すぐにログインするそうだ。
僕の場合はエルフ一家の家なので、それほど慌ててログインする必要もない。学校へ行く前に放り込んだ洗濯物が乾いていたので、タオルなど共用品は専用の棚に収納し、自分の衣類などは部屋に運ぶ。
今日は衣類とは別に枕カバーとベッドのシーツを洗ったので、それを枕やマットレスにかけて、シープにログインする準備を整える。ログイン中は長い間ベッドにお世話になっているので、ベッド周りの環境は非常に大切。VRの黎明期はベッドの環境が悪かったようで、多くの人が体を悪くして歩行困難になった人がよく話題にあがっていた。
現代はベッドも改善され、VRの身体スキャンも性能が上がったため、健康的に過ごすことができる。
家のセキュリティを確認。今は自宅に僕だけなので、異常が無いかチェック……よし。やることも終わったので、ログインするか。
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エルフ一家でお借りしたベッドで目が覚める。疲労やらなにやら、ステータスが全快しているので、良いベッドだとわかる。全員が同じ部屋でログアウトしたわけではないので、僕が最後かはわからないけど、同じ部屋で寝ていたキリ先輩は既に起きているようだ。
起き上がり、リビングに移動すると未黒先輩がサリアスさんと話をしながら食事をしていた。
「おはようございます」
「おはよう、よく眠れた?」
「はい、おかげさまで疲れも取れました」
サリアスさんにお礼を言うと、未黒先輩が手招きをして隣の椅子に座るように促している。
「あおりん、おはよう」
「おはようございます。コガネ先輩は?」
椅子に座ると、未黒先輩が目の前に取り皿とスプーンとフォークを出してくれた。中央の大きな木製の皿に盛りつけてあるサラダを、自分でよそって食べるスタイルのようだ。
「まだ寝てるんよ」
サラダフォークとサラダスプーンを使って、中央のサラダを僕の取り皿に取り分ける。パンも別の皿にあったので、手に取ると薄くスライスされていた。サンドイッチにするのが良さそう。
マヨネーズのようなソースをパンに塗って、その上にレタスのようなものや、トマトのようなもの、キュウリのようなものをのせた。
「これ。チーズもあるんよ」
差し出された皿には、薄く切られたチーズがいくつもあったので、トングでつまんでサラダの上にのせ、パンで挟み込んだ。
「いただきます」
手を合わせてから、パンを両手で持ってかぶりつく。――パンがおいしい。サラダやチーズもおいしいのだけど、パンがすごくおいしい。
見た目は斜めに切ったフランスパンだから、中身は軽いと思っていたら、予想以上にみっしりと詰まった食感。近いのはバタールか? 焼いた小麦独特の甘い香りが強く感じられるため、サラダやチーズの味に負けてないどころか、パンだけでうまみを発揮しているように感じられる。
試しに、パンの端の部分だけ食べてみる……物足りないな。いや、甘さはあるしおいしいけど、先ほど感じたおいしさからすると少し後退した気がする。
「サラダと組み合わせることで、おいしさが発揮するらしいんよ」
何度もこの家でパンをいただいている未黒先輩から説明を受ける。パンの香りはサラダによって味が引き立つらしい。チーズはアクセントとしておいしさをプラスするけれど、パンの甘さを引き立たせることに大きく貢献はしないらしい。
「なかなか面白い娘だね」
おいしいサンドイッチを半分ほど食べたところで、サリアスさんが僕を見ながらそう言葉にする。面白い所を見せたか?
「どんなところがですか?」
「ヴァンパイアにしては、ずいぶん健康的で警戒心が無い。規則正しく朝に起きるとは思わなかったな」
言われてみれば、夜に活動するヴァンパイアの生活リズムは今から眠ってもおかしくない。昼間に出歩ける能力を持っているから気にしていなかったけど、本来は日中にうろつくヴァンパイアは普通ではない。
「活動時間はそうですね、普通とは違う自覚はあります。警戒心は、他のヴァンパイアはもう少しあるんでしょうか?」
朝起きて食事をしただけなので、注意するところはなかったと思う。それに、この家は仲間がよくしてもらっているので、警戒するようなことは無い。
「知り合いのヴァンパイアは数名いるが、彼らは食べ物を口にする直前に、食材から何かを吸っていたな。それで食事が安全かどうか判断できるようで、どのような場面でも無意識にやっていたぞ」
そんなことできたのか。食べ物が安全かどうかを意識したことはなかったけど、現実にここで生活している人は気を使っているのかもしれない。僕らの場合、毒があったとしてもリバ石で復活できるから、そのあたりの警戒感は薄い。
「そうなのですね。僕は見分け方がわからないので、吸収しても判断できるかはわかりません」
味が変化するのか、回復値の減少か。どちらにせよ何を感じ取れば危険だと判断できるかの指針がないので、吸収したところで意味がない。
「それに、吸収すると味が落ちるので、食事では使いたくないです」
そう答えてからサンドイッチにかぶりつく。うん、やっぱり食事はおいしいほうが良い。スカスカのごはんを食べる気にはならない。
「ふふっ、そうだね。食事はおいしく食べたほうが成長できるからね」
ちらりとサリアスさんを見てから、口にサンドイッチをほおばっているので、返事の代わりに数回頷く。
全て食べきってから、お茶をいただいて「ごちそうさまでした」と手を合わせる。
「アオナさんは、魔法中心の戦い方をするんですよね? 武器は杖ですか?」
「はい。ワンドを使っています」
ストレージからワンドを取り出す。名称はゴールドワンドで、店売り商品だ。魔法使いが使う武器にスタッフとワンドがあるのだけど、スタッフは近接戦闘や防御も可能な身長ほどある長い杖で、ワンドは指揮者が使うようなタクト程度の小さな杖だ。
ワンドは、制作に使う素材の量が杖よりはるかに少ないので、高品質の素材を使っても杖より安価になる。そのため、杖と同じ価格の商品でもワンドの方が性能が優れている場合が多い。
もちろん、武器にかけられた魔法の効果によって価格は変わるので、素材だけで価格が決定するわけじゃない。それでも店売りの場合は、素材の良しあしが性能を大きく左右するから、購入の指標にはなる。
「魔法は、主に遠距離攻撃?」
「そうですね。接近戦は不得意なので」
近寄っても、攻撃も回避もできないから、前衛の邪魔にしかならない。魔法は遠距離から攻撃できるので、仲間の後ろに居るのが当たり前となる。
「ヴァンパイアの種族の特徴として、魔法の能力が優れているのはもちろん、身体能力もかなり優秀で、直接戦闘を鍛えたヴァンパイアは他の種族を圧倒することが多いのです。素質だけならアオナさんもあるでしょうから、完全に後方で控えるのは少々もったいないかもしれません」
ステータスを確認してみたけど、戦闘用のステータスはしていない。筋力も体力も耐久も1桁なので、戦えるようにみえない。
「鍛えてないので身体能力がかなり低いです。近接しての戦闘は難しくないでしょうか?」
「そうですね、常に先頭に立つのは難しいかもしれません。けど、短時間だけなら前に立つこともできると思いますよ。もうかなり昔ですけど、普段の筋力が子ども程度しかないヴァンパイアが、戦闘では前に出て戦えるほど強かった人もいましたから」
「肉体魔法を使ったとかではなくて?」
「ヴァンパイアの特性でしょうね」
物語のヴァンパイアに、細身で力が強いって表現を見たことある。ヴァンパイアの筋力補正は高めだから、近接戦闘に特化した人であればその効果が感じられるだろうし、僕の場合はほぼ振ってないので、恩恵は薄いと思っていた。ステータスとは別に強化ができるのであれば、それを試してみてもいいかもしれない。
アジア大会のマラソンを見に朝から出かけたのですが、先頭の選手が通過する時間をAIに聞いたところ、ほぼその時間で通過したため応援がはかどりました。




