『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』331
~~~アカネ~~~
ギンガと話をした後は、地面に伏せてじっとし続ける。猫五感のスキルに何か大きく反応があるわけじゃないけど、どうにも猫ヒゲが妙な感覚を感じ取ってぴくぴくしている。
砂の地面に伏せたままなので、最初はお腹が熱かったけど今はちょうど良い温度になっている。このまましばらくは過ごせそうだけど、いつ動けるようになるかは正直よくわからない。何しろ、相手の気配がわからないからね。
猫五感を使い続けてるんだけど、使い方としては、前にプルトさんで理解した気配がわからない人の気配の探り方を試してる。
難しいんだけど、気配を探すんじゃなくて、気配のない空白地帯を探すように意識を持っていくことで探すことができる。
この探し方は相手がすぐ近くに居るのなら、気配がある人を探すのと大きく変わりはないんだけど、距離が離れれば離れるほど周囲の環境に紛れ込みやすくなって、気配を探す以上に難易度が高くなる。
――あ、猫五感のレベル上がった。レベル9に上がったけど、どうだろ……。
うわ、少し違和感ある場所がわかるようになった。ここから距離はあるけど、姿を見せずに移動できるほど遠い距離じゃない。
覗き見ることはできるかな?
うっすらと目を開けて、周辺の地形を確認。気配がない方向は、右の方にある小さな岩山の向こう側だ。見るにはこの岩を上るか迂回する必要があるんだけど、ちょっと目立ちすぎる。
うーん。猫が見つかったところで、問題はあまりない気がしてきた。
移動する準備として、龍に貰った首輪の上にスカーフを巻くように布を巻く。これで遠目からではわからないはず。毛並みは周囲の環境に紛れた色の薄い茶トラ猫なのを再確認。よし、思い切って見てみよう!
猫五感と猫潜伏を切らさないまま、獲物を狙うように這って岩山を迂回するように向かう。こっちが動いたからといって、相手がこっちに移動してくる様子が無いのは助かる。
迂回して見える場所から、気配の消えた相手を覗き込む。
忍者! あと、嫌な人が居た!
さっと踵を返して反対側に歩いていくと、気配がこっちに近寄る感じがした! 振り返って相手がこっちに来ているのを確認。偶然かと思ったけど、目が合ったので慌てて走って逃げる!
数秒走って逃げてから振り返ると、忍者がさらに距離を詰めるように走ってきてた! 速すぎる!
そこからは、【走り】と【猫適応】スキルを全力にして逃走する。猫の本気の走りなら逃げきれるはず!
猫適応よりレベルが低い走りスキルの効果が先に切れたので、止まって後ろを振り向くと、忍者は追いかけていなかった。あの猫に冷たい嫌な人は、忍者の遥か向こうにいる。
忍者が追いかけてくる様子はないので、猫らしく進行方向を斜めに切り替えて、岩陰に隠れられるところを目指す。
岩陰に入ったところで、これからどうするか考えながら、座り込んで毛づくろいをする。誰も見ていないならログアウトするのが良さそうかなと考えていると、ふわりと浮遊感があった。
「猫違い――いや、同じ子か?」
あ、プルトさん。相変わらず気配消すのが上手ですね……。
プルトさんは私を抱えて、忍者の方へ移動する。追いかけなかったんじゃなくて、プルトさんが居るから止まったのか。
「捕まえたでござるな」
「猫を正面から追いかけるのが間違ってる。怖がらせて途中から必死で逃げてたぞ」
「子猫だから追いつけると思ったけど、意外に速かったでござるよ」
「猫にだってスキルはあるからな」
抱えた私の喉を撫でるプルトさん。言われてみれば、母親代わりのあの大きな猫にもスキルがあったから、普通の猫にもあっておかしくはないか。
ぼんやりとそんなことを考えて、現実逃避をする。正直、これからどうすればいいのか、いい案が思い浮かばない。
プルトさんの指が、スカーフの中の首輪に触れる。前に鑑定されたときと同じ性能の首輪だと気がついていそう。
「それで、結局はあの冒険者――プレイヤーしか居なかったわけだが、どうする?」
遅れてやってきたケレスさんが話しかける。猫にはあまり興味がない? それとも話題に出したくないほど猫が嫌いですか?
「あの場に居たプレイヤーのうち、数人は知った顔だ。目的はなんとなくわかるが、とりあえずは保留。あれを直されたとしても、過去と同じようにプレイヤーはしばらくしたら消えるから、そのあと対処すれば問題ない」
過去が300年前と言うことなら、確かにプレイヤーは消えている。ゲームサービスが開始してそれほど経っていないので、プレイヤーが過去に居た期間はそれほど多くない。それに断言はできないけど、同じゲームをプレイヤーが長年やり続けるには限界がある。ゲーム内時間で300年は不可能じゃないけれど、それを達成するのは何十年か未来の話だ。
「その猫、鑑定では普通に見えるでござるな。またギルドに保護するんでござるな?」
あ、これは前の流れと同じかも。というか、忍者さんは前に私が連れていかれた時はいなかったから、こういう保護猫活動は普段からしているのかも。
「いや、少しだけ部屋で保護する。ギルドへ連れて行くのはそのあとでいい」
首輪をカリカリと触りながら答えるプルトさん。また何か調べられるのだろうか。
「珍しい。普段ならすぐにギルドへ渡しますよね」
「動物好きで猫好きでござるからな。こういった姿もよく見かけたでござる」
「言われてみれば、そんな記憶もありますね」
忍者と猫嫌いの話を聞きながら、動物好きのプルトさんに親近感がわく。影の記憶にもあったけど、動物が好きなのは今でも変わらないんだなぁ。
「マケマケはこのまま監視だよね。ケレスはどうするの?」
「私もこのまま監視しています。修復後の結果も知りたいですからね」
「そう。じゃあ私は戻るから」
プルトさんは、ふたりに軽く手を振って別行動をする。行き先は街っぽい。
移動方法は、ゆっくり歩くんじゃなくて、距離が長いスキップだった。1歩で数メートル進む上に、移動速度がかなり早い。移動直前に何か魔法を唱えてたから、移動魔法の何かだと思う。
当然、こんな速度で移動しているプルトさんの腕から逃げ出す気はない。着地はできると思うけど、加速した状態で地面に降りても無事では済まなさそうだし、ダメージを受けたあと逃げられるとは思えない。
アカネ:プルトさんに捕まった。今は街へ移動中。
シホ:無事なのかしら?
アカネ:今のところ大丈夫です。プルトさん、猫好きみたいなので。
ミカン:なるほどな。正体はばれてたりするのか?
アカネ:首輪から、前に捕まった時の猫と同じか、関連があると思ってるはずです。
ギンガ:首輪は外さなかったの?
アカネ:鑑定の阻害効果があるからね。首輪を外すと、プレイヤーって即座にばれる気がする。
モエギ:そっか。じゃあ、今はまだごまかせてる感じなんだね。
アカネ:多分。ただ、冒険者ギルドで迷子として渡すんじゃなくて、プルトさんの拠点かどこかに連れていかれるようです。
シホ:帰還石はあるわよね? 何かあったら逃げなさいよ。
アカネ:はい。あ、それと、封印地にプルトさんの仲間が監視しています。忍者のマケマケさんと、猫嫌いのケレスさん。恐らく、王笏が元に戻されるところまで予想して見ているはずです。
ミカン:となると、妨害でもするのか?
アカネ:封印が戻っても、数年後に壊せばいいって感じで行動してるようでした。
ギンガ:それじゃあ、予定通り王笏を戻せるかも!
モエギ:代官屋敷の職員さんもついてきてくれると良いかもね。正式な依頼として監視員が来てくれた方が安全かもしれない。
この時代は、帰還石があるから戦闘による死亡率が非常に低い。そのため、口封じとして誰かを殺そうとしても、すぐに復帰してしまうから意味がなくなる。
代官屋敷の誰かがついてきてくれるだけで、王笏の修復を妨害され殺されたとしても、代官屋敷の人と一緒に生き返ることができるので、誰が妨害したかが明確になりやすい。
あ、建物に入った。プルトさんの拠点かな? 連絡を中断して、こっちに集中しよう。
小学生の頃に体験しましたが、猫を追いかけると途中で倍の速度まで加速します。大人の猫は100mを8秒程度で走りますが、スキルのあるこの世界ではさらに速くなります。茜は子猫ですが種族が普通の猫とは思われてないので、違和感は薄いです。




