『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』326
「シェリマさんが繰り返し使って覚えた方が速い気がするんよ」
「そうかもしれませんが、それだと私だけが教えられる範囲で終わってしまいますから」
自分以外の人も使えるようにしたいのか~。魔法の本を使った形式だと覚えていない人も使えるから、一般に普及するには良さそうだよね~。
「魔法を覚えてから、魔法の本を作るのは難しいの~?」
「難易度は高いですね。私も将来それができたらいいと思います。未来の私は、魔法の本を作ってましたか? 魔法を解説する本ではなくて」
うーん。『根源魔法概説』とかは書いてた気がするけど、あれって解説本だから、読むだけで発動する魔法の本とは違う気がするな~。
「作ってたって話は聞いてないね~」
「それでは、やはりここで書いておくべきでしょう」
そうしてシェリマさんは、本を書き写すことに集中する。質問を続けて邪魔をしてもよくないから、シェリマさんを見守っておこうかな~。
「チャコは探索魔法どうなった?」
「あとは座標の魔法を覚えるところまで来たけど~、ホツナルさんがいないからもっと後かな~」
目的の座標がわかる魔法は、ホツナルさん経由で教えてもらうことになってるんだよね~。イオの学校から妖精の国に入ってクォックちゃんに教えてもらってもいいんだけど、もう夕方近いし、今日行く必要はないかな~。
黄金音先輩とシェリマさんは、それぞれやることがあるので書斎で作業中。蜜柑先輩も読めないなりに、動物の本と見比べて手伝いをしている。あたしはなにをしようかな~。
「ふたりには、音声魔法というか、通信に関わりそうな魔法を探してほしいんよ。ソウルリンクの記述がどこかにあるかもしれないんよな」
適当に本を眺めていたあたしとギンガに、未黒先輩がお仕事を割り振った。やることができた~!
ふたりとも「はーい」と返事をして、書庫の中にある音声魔法っぽい項目の本を調べることにしたよ~。
音声魔法を使いたいわけじゃないから、訓練方法の本は関係ない。発動後の利用方法や魔法そのものの研究が書かれている本を探して調べることにするよ~。書庫と言っても個人所有の部屋なので、図書館よりも蔵書数が少ないから、目的の本はすぐに何冊か見つかった~。
あとは読むだけなんだけど、難しい本だからなかなか読み進めることが出来ない。専門書って眠くなるよね~。
「シェリマー」
しばらくすると、外からシェリマさんを呼ぶ声が聞えた。チュリアさんっぽい声だ~。
顔をあげると、まだ日は出ているけど空はかなり暗くなっていた。ずいぶん集中して本を読んだみたい~。
「あら、皆さんいらしてたんですね」
「おじゃましてます! ギンガです!」
「こんにちは。いらっしゃい、ギンガさん。シェリマの母のチュリアです」
蜜柑先輩もチュリアさんと挨拶をして、すぐに読書に戻った。いつも通りマイペースだ~。
自己紹介をしてからチュリアさんが誰かを探すようにして書斎にいる全員を見回す。
「しほちーなら、後から来る予定なんよ。明日か明後日になるはずなんよな」
椅子に座って本を読んでいた未黒先輩は立ち上がって、チュリアさんへ向き直る。
「そうなんですね。それでは、今回も数日滞在するのですか?」
「お願いできますか? 書庫の本で調べたいものがあります」
黄金音ちゃんも立ち上がって礼をする。なんとなく、あたしもしゃんとするような姿勢になった~。
「もちろん。あ、でも人数が多いと寝室が足りないですね。チャコさんは専用のお布団があるのですけど」
妖精用の布団なので準備するのも簡単らしく、あたし用の布団はこの家にあるんだよね~。この家に限らず、この世界の人たちは妖精用の家具を用意しがちだよ~。
「いえ、屋根があるだけでも助かります。それに、途中で冒険者ギルドで依頼をするかもしれませんから、こちらで泊らない人も出ます」
ログアウトして現実の学校に行くと、ゲーム内の時間がずいぶん流れるんだよね~。そんなときのために、冒険者ギルドで依頼を受けてどこかに行くっていうのは都合のいい言い訳になるんだよ~。
「そうでしたか。でも、できるだけ用意はしておきますね」
「ありがとうございます」
人数が増えそうなのに、泊るのを許してくれるのはかなり優しいよね~。家が広くっても、沢山の人を泊めるのは大変だからね~。
「何かお手伝いするよ~」
「そうですね。では、チャコさんには庭の植物に妖精の魔法をかけてもらいましょうか」
本の調査も大切だけど、お世話になる家のお手伝いはした方がいいからね~。
チュリアさんに案内してもらって、庭のいくつかの木に魔法をかけることになった。丈夫に育つといいね~。
庭の木を巡りつつ探索魔法の練習も並行して訓練をした。一通り終わってから家に戻ると、ギンガが夕食のお手伝いをしていたよ~。
「ギンガはエルフの料理を習うの~?」
「お皿とか並べるだけ!」
料理そのものは手伝ってないみたいだね~。紫帆先輩は同じエルフだから教えてもらってただけで、ドワーフのギンガは関係なさそう~。
「エルフの料理を他種族が作っても、同じものは作れませんからね。ギンガさんへ同じように教えても、別の物になります」
理由を聞くと、精霊を見る目を持つことが、エルフの料理を作れる条件みたい~。レシピを見て作るだけじゃなさそうなのが、伝統料理っぽいな~。
途中でシェリマさんが合流して、台所で料理を作っていた。前も見た光景だけど、エルフの料理を覚えるのは、エルフの義務みたいなものだからね~。
「ホツナルさんは出かけてるとして、サリアスさんも家にいないの~?」
テーブルの上に並べるスプーンの数が、今いる人数の分しか用意されていない。まだサリアスさんと会ってないけど、ご飯食べないのかな~?
「お母さまは、議会で会った友人と食事に行かれたので、今日は戻ってきません。明日の朝には戻ると聞いてます」
なるほどね~、と聞きながら、できる範囲で夕食のお手伝いをギンガとする。
準備が整ったら、あたしとギンガで書庫にいる先輩たちを呼んでから、揃って食卓に座った~。
「コガネちゃん! 解読はどうなったの?」
「多分だけど、少しは読めそうな予感はあるかな。都市名の文字を教えてもらったのが良かったのかもね」
「あの本って読めるの!?」
「まだ少しだけどね」
立ち上がったシェリマさんは、チュリアさんに「座って食べなさい」と注意されて椅子に座る。解読の進まなかった本が読めるようになるのは、やっぱり衝撃的なのかもね~。
「そういうことなら、ホツナルに連絡しましょうか。魔法を使えばすぐにでも伝えられますよ」
「お願いします」
チュリアさんには、ホツナルさんに連絡を取る手段があるんだね~。魔法を使うってことだから、パーティーとかソウルリンクとは別の手段で連絡をするのかも~。
「叔母さまはよくどこかに行くので、自分に連絡が必要な時のために専用の魔法の道具を作ったのです。書斎に保管してあるので、それで連絡を取りましょう」
「その道具は、ホツナルさんにしか連絡は取れないんよ?」
「はい、叔母さま専用に作られています。対象を限定することで、制作にかかる時間を短縮して、必要な魔力を節約しています」
魔法の道具を作るときは、使用者を限定したり条件を足すことで制作に関わるコストを色々減らすことが出来るみたい~。少し興味はあるけど、制作時間もずいぶんかかるみたいだから、プレイヤーが気軽に作るようなものじゃなさそうだよ~。
食後も、黄金音先輩と蜜柑先輩は翻訳、シェリマさんは魔法書の書き写しに没頭し続けたからか、見かねたチュリアさんに寝なさいって注意されてたよ~。
ドワーフはドワーフで、専用の料理があるはずです。少なくとも、酒造の技術は伝わっているでしょう。各家庭で自家製の酒があってもおかしくないと思います。




