『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』324
猫カフェで粘る茜を引っ張り出して夕方の街並みを歩く。エルフの皆さんんへお土産を渡すために、どれがいいか店をめぐりながら良さそうなのを選ぶ。
ちなみに、王様は比較的早めに猫カフェを出ていったのだけれど、彼もまた帰りたくはなさそうな反応をしていた。王子様と護衛の人に連れられてしぶしぶ出ていった感じだ。
「これどうかな。猫の陶器」
お土産屋に並ぶ商品を眺めていた茜が、陶器で作られた猫の置物を選ぶ。ぱっと見で40センチある。
「お土産で渡すには大きすぎじゃないかな。小物か、実用品が良さそう」
「あー、大きい陶器だと割れたとき困るもんね」
そういうわけじゃないけど、納得してくれているのならそれでいいか。
この店は猫の商品が並んでいる店ではない。ごく普通のお土産屋に、偶然猫の陶器が置いてあったのを茜が選んだだけだ。まぁ、このサイズなら嫌でも目にはつくだろうけど。
「コースターは使いやすいですかね」
「数は買えそうですわね」
黄里先輩の手にしたコースターを見ると、植物で編まれた本体に布で縁取りをしたものだった。布の色が何種類もあるため、全色選ぶと10種類は買えそうだ。
「お皿はどうだろ。ほら、このガラスのお皿綺麗だよ」
「ガラスって、この地域の特産でしたよね。お土産としてはいいかもしれません」
砂漠の砂からガラスが作られるかどうかは別として、この国のダンジョンにガラスの原料となる素材がドロップするらしい。そのため、それを加工して作られる商品がこの国の特産になっている。
「砂時計があるよ。ガラスと砂で特産品っぽくていいかもね」
「鏡もいいんじゃないかしら? 何枚かあっても困らないですし」
特産品で条件を絞っても、候補がいくつも出てくるから迷う。どれを買っても、この地域の物だからお土産としては良いと思う。
「装飾も特徴があるといいよね。この国っぽいのを選びたいな」
この店だけじゃなくて他の店も周ることにする。方向性はガラス製品とおおよそ決まったから、あとは装飾や実用具合を選ぶことにする。
お土産屋として営業している、ガラス製品を多く取り扱っている店にも顔を出した。
当然ながら小さく整形された猫の人形に興味を示す茜。あの猫、背中がずいぶん長い気がするけど、何かに使うのだろうか。
猫以外にも手のひらに乗るガラス細工が非常に多くある。これだけ小さなガラス製品を作れる技術に感心した。
「このあたりのガラスの器にしますか? 小さいけど底が深いので、テーブルの中央に置いても見劣りしなさそうです」
「そうだね。邪魔になるほどじゃなさそうだし、模様も綺麗だよね」
ガラスの皿を複数枚購入しても良かったけど、何枚購入すればいいかわからない。それなら、1枚だけでも十分活用できそうな皿を購入すればいいってことにした。
「こちらのグラスも良いとは思いますけど、そちらのが気軽に受け取ってくれそうね」
紫帆先輩が持っている底が丸みを帯びたグラスも、使いやすそうでよさそう。けど、これも皿と同じく数が決められなかったようだ。グラスには細かな模様も入っているので、良い値段がしたのかもしれない。
「ガラス製品はこれだけでいいかな?」
「お土産だから、これだけでいいんじゃないかな。後は買うにしても、食べ物が良いんじゃない? この器に似合いそうなのがいいけど」
萌黄先輩は、お土産に決めた皿を手に取り、お店の店主さんに渡す。お土産用なので、箱に入れてもらうようにお願いをしていた。
支払いも終わったので、お皿をストレージに入れてお店を出る。
明日までの宿は、宮殿を利用してもいいとは言われたけれど、お断りをした。
「動物の多い国だからね。街だと夜中に猫の集会が見えるかも!」
という意見もあったけど、それが主な理由ではない。
基本的にログアウトするためだけに宿を借りるから、複数の使用人の目があるお城よりは、誰も気にしないような街の宿のが都合がいい。風呂や食事はお城の方が豪華だけれど、それよりお早めにログアウト休憩をとるのも重要だ。
お店を出た後は、別のお店でフルーツを購入する。試食をしたうえで柑橘系の果物を複数個購入した。これもお土産だ。
そのあとは、あらかじめ予約をしておいた、猫カフェ近辺にある宿に入る。外で食事をしてくると宿に伝えて出たので素泊まりだ。案内された部屋に入り、5人で雑談をした後はログアウト。
休憩後にログインしたら翌日になっていた。ログアウト時間を短めにした茜は、猫の集会こそ見に行ってないけど、窓から猫の喧嘩を見ることが出来て満足したらしい。
5人そろったところで宿屋を出て、宮殿へと向かう。入り口で目的を伝えると、別室へ誘導された。前に入った、謁見のための待合室ではなかった。
しばらくすると案内をしてくれるメイドさんが現れたので、後ろをついていく。前と同じように、どこかの建物に到着した後は案内の人が交代して、同じように中を案内してもらう。
案内された部屋にたどり着くと、メイドさんが扉を開けて中で待つように言われたので、部屋に入りソファーに座って過ごすことにした。
茜もソファーに座っているけど、ヒトの姿でこれほど長期間過ごすのは珍しい。猫カフェで王様に王宮へ来るように言われたときの姿のが良いため、猫の姿になるのを断念していた。この件が片付いたらすぐに猫に変わりそうだ。
マーレさんが来るかと思っていたら、別の女性が部屋に訪れた。宮内大臣の補佐官をしているナナスルさんで、離宮の管理者を決定する権限があるのだとか。
「離宮において、王笏の補修をする役職が決まっていません。誰も直すことができないので、任命することすらできませんでした」
王笏が王国の手元にあっても、直すことが出来なかった。それは、王子が直接出向いても難しかったこと、茜が直したらそれが王子の功績になったことからもわかる。
「皆様は他国の所属と伺っていますが、王笏を修復できる数少ない方でもあります。我が国に助力をしていただけると陛下から伺っていますが、よろしかったでしょうか? 所属国から何か制限などありませんか?」
ナナスルさんの話に、僕らは顔を見合わせる。どちらかと言えば僕らの方がお願いをする感じだと思っていたけれど、向こうからお願いをされる形になっている。
モエギ:特に国から制約はないよね?
キリ:マーキュリの貴族とは何も交流がありませんからね。出身というだけです。
アオナ:逆に、これを受けたら制約があるかもしれませんから、返事の前に聞いたほうが良いかもしれません。
モエギ:あ、そうだね。聞いてみる。
「今のところ、こちらには制限がありません。もしそちらと契約をしたら、何か制限はあるのでしょうか?」
「活動に関する制限はありません。ただ、常勤していただけるわけではないので、固定の報酬はありません。修理や点検時に報酬を支払うこととなります。点検も定期的に必要ではありません。100年以上何もしなくても問題なかったと記録にもあるので、もしかしたらこれからも修理を必要としない可能性もあります。そのため、壊れた場合に連絡を取ってお呼びするかもしれませんが、それ以外の制限をかけることはありません」
呼び出されたら修理に向かい、報酬はその都度貰う。それ以外は完全な自由であれば、今の状態と変化がないと言ってもいい。
「点検のためであれば、離宮へ自由に出入りも可能となります。宿泊をお望みであれば、最寄りのイアドの代官屋敷に申請すれば離宮で宿泊も可能です」
ナナスルさんは書類を3枚差し出すので読んでみた。修理・点検の活動内容が書かれた書類、活動の自由を保障する書類、契約書類。王宮で本格的に仕事をするのであればもっと書類が必要になるけれど、僕らの場合は割と簡易的な感じらしい。
「契約ですが、私たちの誰が契約をすることになりますか?」
「修復をできる方であれば、何人でもお願いします」
マーレさんの王笏を持っているのは、ここに居るメンバーは紫帆先輩と茜だけ。萌黄先輩や僕なら、今から王笏を取りに行けば手に入れられるだろうけど、まだ入手していないので修理ができるとは言えない。
そのあたりを説明したら、修理できるようになったら、後日また改めて契約することも可能とのこと。
念のため王笏を見せてほしいと言われたので、紫帆先輩と茜が王笏を取り出して確認してもらった。
「それでは、こちらをお持ちください」
契約をする紫帆先輩と茜の前に、指輪が差し出された。この指輪を見せれば自由に入れるそうだ。
「何らかの理由で離宮が封鎖されていた場合、どのようにすればいいですか?」
「イアドの代官屋敷にご相談ください。封鎖の指示を出すのは代官ですから、その指輪を見せれば通行許可証をいただけるでしょう」
それを聞いて安心した。この指輪の存在を、その辺の兵士が知っているとも思えない。兵士にもわかるような書類を作ってくれるのは助かる。
問題なさそうなので、紫帆先輩と茜のふたりは契約することになった。
茜が手に取ったガラスの猫の人形は、カトラリーレストです。家で猫の箸置きを使っていますが、あると便利ですね。




