『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』323
~~~アオナ~~~
もはや使い物にならない茜を置いておいて、別室というか、部屋の隅の方まで移動して王様と話ができる状況を作る。
王様と王子様、警備の人が5名とマーレさん、萌黄先輩、黄里先輩、僕の3名が固まって話をする状況を作った。ひとつのテーブルをはさんで、王様側と僕ら側に別れて椅子に座っている。護衛の人は王様の後ろに立つ人と、横に立つ人に分かれていた。横に立っている人の服装は他の人と比べて豪華だから、ただの護衛ではなさそう。
紫帆先輩は茜のすぐそばで猫と過ごしている。紫帆先輩も猫と一緒に過ごして嬉しそうだ。
「それで、あの短刀を使う予定があるのか? 普通は冒険者が望むような褒美ではない。貴族が自らの家に何かあったときの保険のようなものだ。それも、褒章を受け取れるような名家を守るためのものである」
あぁ、功績をあげて王様から賞賛されれば、嫉妬が生まれるからね。何らかの功績をあげた貴族家を、他の貴族から守るために作られたシステムなんだろう。
使用したら王家へ返還とはあったけど、持つことそのものが抑止力になっているだろうから、実際に使われた機会は少ないのかも。
そういう意味では、冒険者があの短刀を持っていても王様との謁見の権利を手に入れるだけの効力しか発揮しないため、持つ意味が薄い。
「短刀の利用方法の前に、伺いたいことがあります。陛下は、冒険者の中で私たちのような存在、プレイヤーについて何か情報を得ていますか?」
「多少は話に聞いている。ここ数か月の間にいきなり人が増え、それがほとんど冒険者として活動している。種族も多様で性格も一様ではい。好戦的ではあるが理知的なものも多く、思想も様々だ。国家や街への帰属意識は薄く、個々をまとめることは難しい。犯罪を行うものもいるが、それを独自に取り締まるのもまた彼らだと報告を受けている。こちらとしては、自由にさせておけば問題ない対象だ」
多少と前置きを言った割には、色々と調べているようだ。王様という立場であれば、調べないわけにはいかないか。どう考えてもいきなり現れた怪しい集団だから。
「……意外でした。得体が知れないからこそ警戒されていると思いました」
「調べた結果、ほぼ全てのプレイヤーが善良でお人よしだった。人を助けることに飢えているとでも言うのだろうか。もちろん犯罪者もいるが、その者らを調べた限り、満たされた者の犯罪だ。生きるのに必要あって盗みや殺人を犯すのではない。必死さの足らない快楽目的の犯罪など、脅威にはならん」
現実の生活は安定している人が多い。特に贅沢をしなければ、短時間働くだけで生活は可能だ。短時間といっても、体感はどれほどかわからないけど、少なくともシープ上で仕事をしている人は現実の1~2時間で1日の仕事は終了する。
衣食住が満たされている人がほとんどなので、そんな人たちがゲームをしても極端な悪人は出てこない。
さらにシステム上では、ゲーム内では何をしてもいいと考えて犯罪行動を繰り返すと、ログイン制限がかかる。ゲームだけならまだしも、シープタウンにも出入りが不自由になると日常生活に大きく支障が出てしまう。シープタウンが使えないと、日用品の買い物とか、どうすればいいんだろう? 店舗で簡易ログインする店が多いのに。
「ネルイの街は最近発展していますね。あの街のすぐ近くにあるダンジョン目当てでプレイヤーが向かっています。それについては?」
王様は王子さまを見てから、護衛の兵士さんのうち豪華な服をしたを見てから、目の前に座る萌黄先輩を見た。
「ふむ。聞いた話では、別のダンジョンが奥にあり、その向こうにもギルド職員がいるようだ。プレイヤーしか入れないため情報は少なく真偽不明だが、違う時間が向こうでは流れているようだ」
真偽不明……プレイヤーから詳細を聞いていても、NPCには時間移動によって事実を確認することは難しいから、確定させるのは難しそうだ。シェリマさんのように、個人が納得する例はどこにでもあると思うけど、王様への報告で証拠の無い報告はできないだろうから、調べている人が確実な証拠を見つけるまで真偽不明として扱われるんだろう。
「そうか。つまり、向こうで使う予定なのだな」
それでも、王様個人としてはダンジョンの先が未来だと結論付けているようだ。
「はい。誰にも仲介を受けずに、直接伝えたいことがあります」
「仲介……王宮内に信用が出来ぬものがいるのか?」
「そうですね。警戒している人はいます」
「ほう……王と直接話をする理由はなんだ?」
「それはですね――」
未来の王笏が外れていること、それを直したいこと、離宮ユルバンが魔法で壊されたこと、侵入禁止になっていること、王子が離宮を壊した者と懇意であること、それぞれを伝えて、王笏を戻すために王様へ直接話ができるようにしたいと説明した。
「つまり、離宮に入れる理由さえあればいいのだな?」
王様は隣にいる豪華な衣装の護衛に目くばせをすると、護衛の人は「可能です」とだけ答えた。
「よし。その方らは明日も宮殿に来るように。離宮への出入りができるように取り計らおう」
「え」
離宮への出入り。それが問題なくできるのなら、戦争時代の王様に謁見を申し込む必要がなくなる。
「私たちは助かりますけど、よろしいのですか?」
「問題ない。その時代の状況から察するに、マーレが出てこれない状態なんだろう?」
「そうですね。この時代のマーレさんが出てこれなかった期間と違い、長期間封印されている状態だと思われます」
「王家にマーレがいないのは損失だからな。何をおいてもまず王笏を復帰させてもらいたい。そのためには、自由に離宮へ入れる権限をそなたらに渡した方が良さそうだ」
マーレさんが理由か。そういわれてみれば、王宮でも特別な立場のマーレさんに配慮するのは不思議でも何でもない。僕らはマーレさんと親しいから、王様が未来のマーレさんを復帰させるためには、僕らに託すほうが適任なんだろう。
話が終わったのか王様が席を立つ。これから王城へ戻って手続きの仕事をするのだろうか。
そう思っていたら、茜が座っている、王様の元の席へと向かっていった。途中で白猫を拾い上げている。
「父上は動物が非常に好きなんです」
王子様はそう言って、猫を撫でている王様を見てため息をつく。僕が猫と戯れる茜を見る眼と同じだろうか。いや、僕もそれなりに猫が好きになっているから、多少は茜寄りの考えだと思う。
茜の方に行くかどうか、王様と同席して不敬にならないかどうか、色々考えた結果、とりあえず見守ることにする。茜の不敬に関しては何も言われてないから大丈夫だろう。
適当な椅子に座ると、猫が寄ってくるので撫でながらメニュー表を見る。クリームたっぷりシフォンケーキがあるので、それとフルーツジュースをたのんだ。
「トルメルガさんって、猫が好きなんですか?」
「猫に限らず、動物はすべて好きだな。アカネ殿こそかなりの猫好きと見える。他の動物はどうなのだ?」
「猫が一番ですけど、他の動物もすごく好きですよ!」
……王様を名前呼びしているらしい。不敬を通り越した何かが交わされている。茜の隣に座っている紫帆先輩は背中しか見えないので表情がどうなっているか気になるけど、頑張ってほしい。
「猫のおやつメニューがありますね。おやつあげていい子とそうでない子はいますか?」
「本日は貸し切りですので、まだ食べさせていません。どの子も食べられますよ。こちらが好んで食べるおやつの一覧です」
「では購入しようか。アカネ殿とシホ殿は買う必要が無いぞ。店主、彼女ら全員の今日の支払いはこちらが全て持つからそのように。好きなものを注文するといい」
「かしこまりました」
イロリさんが王様に丁寧なお辞儀をすると、背中に猫が飛び乗った。片手で背中の猫を支えながらお辞儀から姿勢を正すのはさすがとしか言えない。
「ありがとうございます!」
紫帆先輩や茜がすぐそばでお礼を言い、僕らも離れたところで席を立ち、お礼を伝えてから座る。
……ケーキの追加注文でもするかな。
王子も動物好きではありますが、接し方は普通です。王様と茜は、お互い動物好きの気配を感じ取っているので、立場を忘れ去っています。不敬とは言われないでしょう。




