『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』321
「それじゃ、また後で合流するんよ」
王宮で一泊して翌日、王宮を出てからパーティーをふたつに分けた。昨日話し合って、ここに残るグループと、イオの街に向かいホツナルさんの本を見に行くグループに分かれることになった。
「少ししたら向かうから。またねー」
萌黄先輩が、乗合馬車の駅に向かう未黒先輩たちに手を振って見送った。私も同じく手を振って見送る。今日の私は猫の姿じゃない。
ここに残ったのは、萌黄先輩、紫帆先輩、黄里先輩、蒼奈と私。
今日この日に行われる、重要なミッションのために残った精鋭たちである。
「僕はアカネのブレーキ役だからね」
隣を歩く蒼奈と手をつなぎながらネプラスの街を歩く。ミッション決行の時間にはまだ早いので、街中を散歩中だ。
「私たちは、もう少し宮殿でゆっくりしていてもよかったかもしれませんね」
「全員で揃って出る方が、送り出す側も良いのではないかしら?」
「まぁ、朝ごはん食べてから出ますって黄金音が言っちゃったからね。一緒に出るのがちょうどよかったんだよ」
早朝とはいえ朝ごはんを食べた後の時間なので、日が昇ってからはそこそこ時間が経過している。そのため、街を見渡せば半分近くが店を開いている。そのほとんどが食品を取り扱っている店だ。
「そういえばネルイの街では、お土産用の工芸品の店は、夕方以降の乗合馬車が来るまで営業してた。営業開始が遅いのかも」
「食べ物は馬車の中で食べるから売れるけど、お土産はあわただしく買うものじゃないからね」
旅人の多くは馬車や船の出発時間に縛られて行動するから、お土産のように吟味して買うものは、馬車に乗る必要がないときに手に入れるんだとおもう。
食事は、宿屋で食べるか外で食べるか選べるので、宿屋で食べないことを選んだ人を相手に商売をするため、朝早くから食べ物のお店が開いているんだろう。
「どうしよう。こっちも食べ物にする?」
「いいんじゃないかしら? 私が教わった料理も甘いものでしたので、そういったものを選べば喜ばれるはずですわ」
先に向かっていったメンバーは、マーレさんから受け取ったお菓子を手土産にイオの街へ向かった。いつもお世話になっているから、何か持っていこうって相談して決めた。
その話し合いの結果、私たちのグループはネプチュン王国に売っているお土産を買っていくことになった。王宮の食べ物が珍しいのは確かだけど、マーレさんから受け取ったものだから私たちが贈った感じが薄い。そのため、他国の王都で売っているお土産も良いと思った。
何をお土産にするかは、店を見てから決めようって話だったけど、お土産屋が開いていないとは思わなかった。この状況だと、食べ物一択になる。
「食べて無くなるのが良いとは思うけど、どうなのかな?」
「冒険者のお土産としては、寂しい感じはしますね」
シェリマさんの家は頻繁に通ってるから気にならないけど、冒険者が誰かの家に寄った場合は、次に会いにいけるかどうかはわからない。ましてや、この初期時代は蘇生が戦争時代ほど手軽ではないので、別れたらそのままってこともありえる。
そうなると、お土産として渡すものは形に残る物が良いのかもしれない。
「昼過ぎか夕方に来てみましょうか。お店の品を見てから食べ物かどうか決めましょう」
紫帆先輩は、すぐ近くのお店で売られている飲み物を眺めながら話をまとめる。ほとんど透明な液体だけど、うっすらと中に何か入っているようで、中身がキラキラしている。氷ではなさそう。
綺麗だなーって思ってるうちに、紫帆先輩はその飲み物を購入。
「――甘くて冷たいに振り切った飲み物ね。中はくず餅のようなものかしら」
その感想を聞いて気になったから、いそいそと購入。コップを手にした時点でひえひえなのが伝わる。なお、黄里先輩は紫帆先輩が感想を話す前に、すでに購入していた。
蒼奈と軽くコップを当ててから、ひと口飲む。甘くて冷たい! 完全にシュガーシロップの味で、それ以外の風味は全くない。砂漠の多いこの地方で、この飲み物はピッタリかも!
5人とも同じものを飲みながら街をうろついて、とりあえず冒険者ギルドに入る。依頼を率先して受ける人は、始発の乗合馬車に間に合わせるために依頼を受理するため、依頼掲示板の依頼数はかなり減っていた。
様子を確認したかっただけなので、冒険者ギルドの雰囲気を確認して外に出る。
「そろそろ時間かな?」
「行きましょう!」
黄里先輩の言葉に全肯定する。今日の一番の楽しみ!
道案内をする黄里先輩のすぐ後ろについて、見失わないように進む。隣に蒼奈が並んでさっきと同じように手をつなぐ。
周りを見ながら街を進むと、黄里先輩が目的のお店を指さした。
「ついたよ、猫カフェ」
「猫カフェ!!!」
駆け寄ろうと足が動いた瞬間に、蒼奈が握っている手が引っ張られた感じがしたから足を止めた。紹介してくれる黄里先輩を追い越してお店に入るところだった。
店の雰囲気は素晴らしい。猫の顔の輪郭をした木製の看板に壁には猫のイラストが描かれている。遮光か雨戸かに使われる木製の窓には、猫の足形が点々とついていて非常に可愛い。
建物の造りが他の建物と同じく石材中心なので、大きな変更は加えにくいけれど、猫の良さを出すためにできる限りのことはしているように見える。店のオーナーも、窓枠を猫の窓枠に変更したいに違いない。
入り口近くの地面付近の壁に、眠った黒猫のイラストがあるのを確認してから、入り口のドアを見る。猫のドアプレートが可愛い! えっと『閉店にゃ またきてにゃ♪』……? 目をこすって再度確認――変わらない。
「えぇぇぇええええ!!! にゃんでぇぇぇえ!!!!!」
「あれ、お店やってない? 今日って休みじゃないよね?」
「イロリさんに確認は取りましたが、今日は営業中のはずです」
そう! あらかじめお店がやってるかどうかや、開店時間を確認して万全の状態で来たのに!
ドアの前まで移動してドアプレートに近寄る。ドアプレートはドアの内側から固定できるようになっているのか、触っても動かない。悪戯や窃盗対策されててよし!
じゃなくて、お店やってないの!?
「うううう」
入りたいけど入れない、かといって、中にいる猫ちゃんに迷惑はかけられないから、扉を叩いて中にいるかもしれない店員さんを呼ぶのもよろしくない。
いや、猫ちゃんが病気なのかもしれない。それなら、納得だ。人と接触することが多い猫ちゃんは、日々ストレスがかかっていてもおかしくない。お医者様に見てもらって健康を取り戻してくれるのが一番いいに決まっている。
そう思うんだけど、目の前の入れない猫カフェを見ると、はっきり言ってものすごく残念だ。せめて一目だけでも見たかったのに!
扉の前でがっかりした後で、店の周りを少しうろついて、壁や窓をチェックする。
「アカネ、よくないよ」
窓を覗き込もうとしたところを蒼奈から止められる。それはそう、覗きは犯罪だ。
「ごめん、ありがと」
蒼奈に手を引かれて離れる。すっっっっっごく残念!!
そう思っていると、黄里先輩が躊躇なく玄関をノックする。
「はい、どうしましたか?」
しばらくしてから、入り口は開かないけど中から声が聞えた。店員さんだ!
「先日王宮へ猫を借りたキリです。イロリさんはいらっしゃいますか?」
「あぁ、あの時の。少しお待ちください」
声が遠ざかる。せめて、猫ちゃんをひと撫ででもさせてもらえないだろうかと期待が高まる。いや、籠に入った状態でもいいので見せてもらいたい!
しばらくすると、店の裏側から来たのか、建物の横から猫のエプロンをした女性がやってきた。
「キリさん、こんにちは。あのときはありがとうございました。先日もコガネさんがいらして謁見の機会をいただきました」
「こんにちは、イロリさん。こちらこそ助かりました。本日はお休みでしょうか? 猫カフェで過ごしたい仲間を連れてきたのですが」
この方がイロリさんか! ファンタジー世界に猫カフェという超越的文化を生み出した天才は!
「えっと、そうですね。本来は今日も通常営業だったのですが、朝から予定が大きくずれてしまって……」
『彼女たちなら入れても良いと思いますよぉ』
イロリさんが出てきた方向から、マーレさんが現れた! この街ならマーレさんは何処でも出現できそうだけど、さっきまで猫カフェに入っていたような雰囲気がある。主に、猫耳カチューシャをつけているところが!
それに、中へ入ってもいいって! さっすがマーレさん!
猫カフェは海外にも多数あるようで、どこの国でも猫に癒されたい人は多いようです。この世界で猫カフェは、この店だけになります。




