『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』320
書庫での調べものを終えて、砂兎宮殿へと移動する。書庫の外に出るときは、入るとき同様に蒼奈が変身してハムスターになったので、私が蒼奈を抱きかかえ、その私をマーレさんが抱きかかえて司書さんの前を通過した。
書庫のある位置は、お客さんが寝泊まりする宮殿とは敷地の反対側にあるため、外を歩く時間がちょっと長い。暖かい陽射しとマーレさんが歩くことで揺れる振動が心地よく、抱え込んだ蒼奈がもふもふしてるのも合わさり、目を閉じてうとうとしていると「付きましたよ」と声がかかった。
目を開けたら砂兎宮殿の廊下を運ばれていた。蒼奈がさっきまで寝ていたかはわからないけど、きょろきょろと周囲を見ている。
みんなが居る部屋の前に到着すると、扉の前にいたメイドさんがドアを開けてマーレさんが中に入れるようにしてくれた。
やっぱり、マーレさんの立場って不思議な感じだ。
「お待たせしましたぁ」
マーレさんは、入り口よりやや奥にあるテーブルの上に私たちを乗せる。蒼奈はするりと私の手から離れて移動し、部屋に知り合い以外がいないか確認してから人の姿に戻った。
「おかえり、収穫はあったんよ?」
「少しはありました。翻訳のきっかけになるといいのですが」
蒼奈が中心となって、書庫で調べた成果を発表する。それほど多くはないけれど、今後の考察の役に立つんじゃないかな?
「少しは解読スキルが反応するかもね。言語体系は似ていると思うし」
黄金音先輩も、固有名詞の読み方が分かったのは解読に役立つと言ってくれたので、調べてきたかいがあった。
「話を聞く限り、元の世界は7大陸あったんじゃないか? 各大陸でそれぞれでかい国がこっちの世界に凝縮されたんだろうな」
「ゲームタイトルに関係はしてそうだね。まぁ、本筋と関係ないかもしれないけど」
ゲームタイトルに大陸ってあるんだよね。今の世界だと大陸って感じはしないし、元の世界の大陸がタイトルになったって言われたのなら、そうなのかもって思う。
「みなさんは、これからどうしますかぁ? こちらで泊ってもかまいませんよぉ」
話が途切れたところで、マーレさんが今後の提案をしてくる。数日ならここで過ごしてもいいって話だけど、これ王様と話していた、泊って欲しいって話だよね?
アカネ:王様としては、泊ってほしいみたいですよ。功績ある人が泊らないのって外聞が悪い感じらしいです。
ミク:なるほどなんよ。みんな、今日はここの宿泊でいいんよ?
未黒先輩の呼びかけにみんな同意したので、マーレさんに宿泊のお願いをした。それぞれ個室を貰えるそうだけど、学年ごとで過ごす部屋にしてほしいとお願いして泊ることにした。
「王宮って、何して過ごす場所なんですか?」
『宿泊される多くの方は、庭を散策されてますね。部屋や廊下にある絵画や美術品を見て過ごす方も多いです。仕事を持ち込む方もいらっしゃるので執務室も用意してあります。私たちは、日常を離れて体を休められるようにお手伝いをさせてもらってます』
「王宮の外に出る人はいないの~?」
『遠方より来られた方は、外に向かう様子も多く見られます。希望があれば護衛も付けますが、あまり遅い時間にならないようお願いはしています』
自由行動はできるみたいで安心した。好きなように移動できないのも窮屈だからね。
『風呂の準備はできているので、好きな時間にご利用ください。お食事は少し時間をいただきますので、準備が出来たらお呼びします。ドレスもありますが、普段着で使うような衣服も各部屋のドレッサーに用意してありますので、ご自由にお使いください』
「お風呂があるの? 蒸し風呂じゃなくて?」
『はい。1等級の皆様のために準備させていただきました』
ギンガたちは戦争時代では蒸し風呂に入ったらしい。砂漠が多いこの国で風呂に入るのはかなり贅沢だ。王様が宿泊させたいのは、1等級だとこんな贅沢ができることを、私たちを通じて他の人に伝わるのを期待しているのかもしれない。
宮殿での過ごし方や食事について説明を受けてから、それぞれの部屋の場所へと案内してもらう。
部屋に入ると、ベッドが3つ。まぁ、そうだね。猫は人数に数えないんだから。マーレさんが私のことを理解していても、説明を他の人にすると謁見の前提が崩れるかもしれないからね。それにベッドも大きいから、蒼奈と一緒に使えば問題ない。
庭の散策をするには少し遅い時間だったので、お勧めにあった絵画を見るために部屋を出る。この部屋にくるまでの廊下にもいくつか絵画が展示してあったので、そのときは軽く眺めただけで終わらせたけど、改めてじっくり見ることにした。
ミク:わたしたちは風呂に入るけど、みんなはどうするんよ? かなり広いから全員入っても余裕らしいんよ。
4人で絵画について適当な感想を言い合っていると、お風呂のお誘いがあった。どうせならということで、一緒に入ることにする。
風呂は、話を聞いたときから入りたかった。本を読むときに司書さんから隠れるために床に座っていたから、少し埃っぽくなってるのが気になってたんだよね。
蒼奈は戻るときにも変身したから、埃の行方がどうなったかわからないけど、私はずっと猫のままだったので、毛に埃がついていると思う。
とはいっても、いきなり風呂に突撃するのもどうかと思ったので、後回しにしてたから、先輩たちのお誘いはちょうどよかった。
風呂場まで案内してもらい、中でのお手伝いが必要かどうかを蒼奈が断る。風呂の手伝いをされても緊張するだけだからね。
脱衣所に来ると、2年の先輩がいた。3年の先輩は、既に入っているらしい。
「アカネちゃんは猫のままで入るの?」
猫のまま脱衣所に入った私を見下ろして、黄里先輩が尋ねる。うーん、それは迷いどころなんだよね。
「もし誰か使用人の方が入ってきて、人数が増えていると困惑させると思うんです。ただ、猫のまま入って猫の毛を湯船に浮かべるのも悪い気がするんですよね」
「猫の毛ってかなり抜けるの?」
「時期によってはそうですね。ゲームでどれだけ再現してるかわかりませんが、時々自分の抜け毛を見ます」
「細かく再現してるんだな。ま、気にせず入りゃいいんじゃね? 獣人の国なんだからそれくらいで苦情はこないだろ」
「アカネちゃん以外の猫は、お風呂に入るのかしら? それなら猫の毛が浮いていても普通のことじゃないの?」
「普通は水を避けるのですが、それも猫の気持ち次第ですね。風呂好きな猫もいますから」
かなり昔の猫動画では、風呂に率先して入ってくる猫の動画を多数見かけた。そういった姿はゲームにも反映されていて、風呂好きな猫が時々出てくることがある。
「手伝いを断ったから、入ってこないんじゃないかな? それこそ、マーレさんに事情を話せば対応してくれると思うよ」
「猫でも人でも、問題ないと思う」
「うん。じゃあ普通に入ることにしようか」
猫のまま湯船につかるのもいいけど、せっかく宮殿のお風呂に入るなら普段通りの姿の方がゆっくりとくつろげそう。
子猫化を解くと、割とケモい獣人姿になるので、[シェイプシフト]を使って普段の姿に変わる。これで湯船に猫の毛を浮かべないで済みそうだ。
2年の先輩と、茶子とギンガは先に風呂へ向かっていった。手順の多い私を待ってくれた蒼奈に「おまたせ」と言ってから風呂へ入る。
ふわっと漂う蒸気の先には、大浴場といって良いほど大きな浴槽があった。30人でも入れそうだ。
「あっちにかけ湯がある」
蒼奈が指す方には、浴槽とは別のお湯が溜められている桶があった。ここでかけ湯をしてから入るんだろう。
お湯を体にかけて、軽く汚れを取ってから湯船に入る。VRだと、汗とか垢とか関係ないので、体を洗わなくても付着した汚れを注げば十分綺麗になるから、すぐに湯船に入ることが出来る。
お風呂場を見渡すと、各学年ごとに集まっている。奥には3年生で、左側が2年生。右側に茶子とギンガがいたので、ふたりのすぐ傍に近寄って湯船に浸かった。
「あったかー!」
「ね~」
語彙力を無くしているふたりの近くへ座る。じわじわと体を伝わる熱が気持ちいい。
「あーーー」
うん、これは語彙力無くなる。ぼーっと使ってるだけで気持ちがいい。蒼奈も浴槽の縁に後頭部を乗せて目を閉じてて、かなり気持ちよさそうだ。
しばらく暖かさを満喫してから、適当に雑談をする。ギンガが、先輩から風呂でバトルするゲームの存在を聞いたらしい。動物と一緒に風呂に入れるとか! 機会があればぜひ遊んでみよう。
「背中をお互い流すのって、システムの制限引っかからない?」
話が途切れたところで、シープの接触制限の話になった。基本的な設定で不用意に他人が体の特定の部位に接触できないようになっている。背中を流すのはどうなんだろう?
「フレンドで同性だから、設定でどうにでもなるんじゃない?」
風呂に入りながら、シープのUIを操作する。蒼奈は最初から問題ないとして……いけるかな。
「できそうだねー」
試してみようかってことで、お互い背中を流しあう。
一番大変だったのは茶子の背中だ。茶子がみんなの背中を流すときは、魔法を使えば簡単にできるそうだけど、私たちが茶子の背中を流すときは、小さすぎるから、指先でどうにかタオルの形を整えて洗うしかない。
さらに、背中に生えた羽根が問題で、羽根の隙間を縫うようにタオルを差し込むのだからかなり難しい。
「羽根って濡れても飛べるんだね!」
「魔法みたいなもので飛んでるだけだからね~」
「それでも、傷つけないように気を使うよ」
「皮膚よりは丈夫じゃない~?」
「うん。かなり硬い感じがする」
普段触らない茶子の羽根を3人が触りつつ、お互い体を洗いあう。ゲーム内だから特に綺麗になるってことも無いんだけど、合宿みたいで楽しかった!
風呂シーンでよくありそうな、後ろから胸をもむなどを担当しそうなのは茶子ですが、体のサイズが妖精なのでできません。茜と蒼奈はお互い見慣れているし、ギンガはそういう距離の詰め方はできません。わりと平和に風呂に入ってますね。




