『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』317
~~~アカネ~~~
ギンガたちが外に出て、扉が閉まる。
……私は?
マーレさんに抱えられたまま、謁見室の扉が閉まるのを眺め続けた。よく考えたらマーレさんは招く側にもなれるから、謁見が終わっても外に出なくてもいいのか。
「マーレ、猫は返さなくていいのか?」
『後で返しますよぉ』
マーレさんが王様と気安い感じで話をする。王様の表情もさっきと比べてかなり柔らかくなった感じだ。謁見の時には緊張してよく見てなかったけど、王様の頭に獣人としての耳が見える。黒髪に尖った耳は強そう。
とりあえずは問題なさそうなので、こっそり仲間に問題ないと連絡を送る。
連絡後にキョロキョロと周りを見渡すと、何人かの人たちがトレーを囲んでオリハルコンとミスリルを布で包んでいる。別の場所では、テーブルを運び入れて金色の壺のようなものを、その上に並べている。あれは次の謁見に使われる物かな?
人の動きを見ていると、ひとりの豪華そうな服を着た男性が王様とマーレさんの近くまでやってきた。
「マーレ様、あの金属は確かに大量に産出できないものでよろしいのですね? インゴットの形に整えられていることに疑問は感じますが」
『どこかにはあの量以上にあるのは間違いないですけどぉ、鉱脈が存在するわけじゃないですよぉ。インゴットの状態で発掘したのが近いでしょうねぇ』
「量については今後の動向で変わるようだが、現状では希少であることに間違いない。マーレの話では、残りは少数の武器に使われているだけのようだからな」
ゼルザさんにオリハルコンのインゴットを渡したけど、あれは戦争時代だからね。初期時代のインゴットは間違いなくこれだけだし、少数の武器は未黒先輩の刀かな? 武器って形なら、ゲーム的にどこかのダンジョンとかにありそうだけどね。
「マーレ様はそれら武器の居場所を把握しておられるのですか?」
『全部じゃないけど、知ってるものはありますねぇ。でも、所有者が居ますからぁ、ここで伝えてその人に何かあるのは好みませんよぉ』
未黒先輩が持っているのがばれた時に、なぜ献上しないかって話にはなるかも。マーレさんが言葉を濁すのは助かるね。
「それにしても発掘か。採掘ではないのだから、古代文明がオリハルコンを扱っていたのだろうか。言い伝えでは突然に消えたため、実在は怪しいとされていたのだがな」
『実在したかはわかりませんけどねぇ。私もその記録はありませんからぁ』
マーレさんは、話しながら私の頭頂部を指で撫でる。撫でやすいように耳を横に広げ、ついでに撫でてほしいところに頭を動かして調節する。
それにしても、古代文明って影の記憶にあった世界かな? マーレさんの記憶にないのは意外な気もしたけど、そういえば龍のみんなから古代の話は出てきてないかも。
龍の記憶にもないのに、記憶の世界の話がこの世界に残っているのは、プルトさんたちが記録に残したものが広がってるからかもね。
「古代文明が事実なら宝物庫の書籍を一度精査するか。オリハルコンの所在が見つかるかもしれない。この後で研究チームを組んでくれ」
「この件を殿下たちに関わらせますか?」
「ないな。古代文明の存在が怪しい上に、見つかるかも不明なオリハルコンの調査に時間を取らせることもなかろう」
『私の修復は功績でしたけどねぇ』
マーレさんのつぶやきに王様が「あれは休養のついでだ」と言うと『ついで程度ですかぁ、しくしく』と楽しそうに話をしている。かなり仲良しだね。
「結果が伴うならオリハルコンの捜索をしてもかまわない。だが、功績は国民のためになることを最良とするため、わざわざオリハルコンに関わらせることもない」
腕にあごを乗せて薄く目を開けた状態で話を聞く。次の王様になるための王子たちの話かぁ。王位継承権を競うときの功績争いって、相手を落とす方向にならないのかな? 功績を手に入れるのは難しくても、競ってる相手がレースから外れたら自動的に王様になれそうだよね。疑問には思うけど、猫のまま聞けるはずもない。
「わかりました。すぐに調べさせる人を選出させます」
王様と話をしていた男性は、後ろにいる人へ顔を向けると、後ろの人が王様に礼をして部屋を出ていった。後ろの人は会話に入らなくても話を聞いていたからね。
『古代文明の書籍って、かなりあるんですかぁ?』
「マーレ様が出てこれない間も集めてましたからね。多くはありませんが確実に増えてます」
『なるほどぉ。写しとか見ることできますかぁ?』
「何冊かは写本となって書庫の奥に保管してあります。マーレ様なら読むのに問題ありません」
『じゃあ、後で読ませてもらいますねぇ』
マーレさんの指が、あごをすりすりと撫でる。これ、ひょっとして写本を見せてもらえるってことかな?
「今回の冒険者は正装をしていたな。謁見の様式を変えるのか?」
『試しで着てもらったんですよぉ。1等級に選ばれたのに王宮で宿泊をされないものですから、せめて衣装だけでも着てもらうことにしたのですよぉ』
「1等級で宿泊しなかったのか。珍しいこともあるものだ」
『私が知る限り、初じゃないでしょうかぁ?』
「待遇に問題があったのか?」
『報告はありませんねぇ。彼女たちの都合だと思いますよぉ』
単なるログアウト時間の問題です。数日はこの世界からいなくなるんだから、人目につかない方が都合が良いんだよね。
「この後、ここで過ごしたいと希望があればそうするように」
『泊ってくれたほうが、こちらの体面は保てますからねぇ』
あ、泊らない方が不都合があったのか。国から功績を与える人が1日も王宮で過ごさないのはよくなかったのかも。
「彼女たちがドレスをまとうことで、謁見室の調和がとれていましたな。これからは一般人用の衣装も用意したほうが良いかもしれません」
『今回は1等級のメイドとして選ばれた者が衣装のお世話をしましたが、通常の謁見に衣装係をいれると人手が足りません。メイドの負担を考えると、等級によって絞るのはどうでしょう?』
話し方がお仕事モードのマーレさんになった。話す内容で態度を線引きしているのはなんかプロっぽくていいよね。
「では、回せる人数を算出してから適用する等級を決定だ。必要なことでもないから、やらないならそれで構わない」
王様は男性へと話しかけて、そのあとすぐに来た女性のトレーから手紙を受け取る。
その手紙をトレーに戻してその場で立ち上がると、また別の女性が何かを持って近寄ってきた。そのまま、上着を脱がされて別の上着に着替え、また椅子に座る。見た目の雰囲気は変わったけど、どうして着替えたのかはわからない。
『謁見する相手と等級で衣装が違うんですよぉ』
頭の中にマーレさんの声が聞えた。興味深く王様を見てたのがばれたみたい。返事の代わりに頭を腕にこすりつけておこう。
『それでは、冒険者の子のところに行きますねぇ』
「うむ、ご苦労だった」
王様は頷いてから、視線が私のところに向いた気がした。顔をあげると、ばっちり目が合った。
『猫ちゃん撫でたいですかぁ?』
「……やめておこう」
周りにいる人を見渡してから断りを入れる王様。猫が好きなのかな? すごくいいと思う。
『かわりに、今日は好物のパンケーキ出しますからねぇ』
「私はこど……いや、楽しみにしてる」
『はーい』
私を抱えたマーレさんは、弾むような歩き方で謁見室を退室する。王様と気安いというか、関係がかなり近い感じだった。
扉を閉じて、そのまま謁見室のある宮殿の外に向かう。途中で何人かの使用人さんとマーレさんが会釈をして通り過ぎ、何事もなく宮殿から外に出た。
『これから皆さんのところに戻りますけどぉ、書庫の奥へ立ち寄る了承を得たので、アカネさんなら連れて行けると思いますよぉ』
「いいの?」
『猫なら大丈夫じゃないでしょうかぁ』
喉や首筋を撫でてもらいながら外を移動し続け、見えてきたのは着替えをした砂兎宮殿。入り口を通過して着替えの部屋の前を通過し別の部屋へと入る。
そこにはドレスを脱ぎ終えていつもの姿のみんなが集まっていた。
『皆様、お疲れさまでした』
マーレさんは部屋に入ってから私を床に降ろすと、メイドさんらしく背筋を伸ばしてから丁寧に礼をする。メイドさんじゃなくて元料理長だったよね?
先輩たちとあいさつを交わしつつ、部屋に居たメイドさんに話しかけるマーレさん。何を話してるかこっそり聞いてみたら、謁見後に出席者が聞かれる、質問についてのまとめを聞いているみたい。
ミク:あかちゃんは何か聞きたいことあるんよ?
アカネ:特にないです。
ミク:了解。このままお願いするんよ。
アカネ:はーい。
「それでは、しばらくお待ちください」
元々部屋にいたメイドさんが扉付近で礼をして、部屋から外に出た。質問の回答を貰いに行ったんだろう。
パタンと扉が閉じるのを待ってから、蒼奈がこちらに振り向いた。
「それで、アカネは残ってから何かあった?」
王様の言う「量については今後の動向で変わる」というのは、マーレが事前に話した内容があっての言葉です。作る方法が龍にも伝わっているため、増える可能性があることをマーレは王様に示唆しています。制作方法は伝えてません。




