『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』308
「[アナライズマジック]」
対象を手持ちの魔法の本にして魔法をかけたら、数分の集中で魔法が発動した。最初期に地下で手に入れた魔法の本。アナライズマジックの結果は『簡単な食料魔法や水魔法、方角を確認する魔法が収められている』とあった。
「壁に魔法がかけられそうなの?」
「いえ、知識魔法を身に着けたわけじゃないので、しばらく本を対象に練習をしてそれからでしょうか」
魔法の本へ[アナライズマジック]が成功したことで、続けて壁にかけようとしたけれど、何も反応が無かった。やはり興味のある物から練習を始めるのが一番良さそうだ。
「本なら何十冊もあるので、練習対象には困りません」
「魔法の本じゃなくてもいいの?」
「魔法がかかってないことがわかるので、普通の本でも大丈夫です」
それに、魔法がかけられていない本は消費MPが少ないため、難易度に寄る経験値の上昇量は少ないだろうけど、数をこなすには向いている。高レベルを目指すのではなく、知識魔法の取得を目指すだけならこれで良いはずだ。
「……覚えた」
何度か壁を削り休憩をして、その合間に魔法の練習を重ね、繰り返すこと3回目の休憩が終わりそうな頃、知識魔法の取得に成功した。
「アオナおめでとう!」
茜に続いて、みんなからスキル取得を祝われる。お礼の返事をした後で、さっそく壁に対して魔法を使ってみた。
壁に付与された魔法は、木魔法、防御魔法、封印魔法、を魔化魔法で固定化したとある。木魔法は一般的に強化系の魔法なので、これをかけることで壁の素材を強化している。防御魔法は外側に向けた効果のようで、内側を削られることは想定外なんだろう。封印魔法は外と中どちらもかけられているようだけど、壁そのものの強化とは関係がなさそうだ。
この状態なら、木魔法を弱体化させれば何らかの効果が発揮しそうだ。魔化によって永続の効果があるとはいえ、魔法の抵抗に関しては普通の魔法と大きく変わらない。今回の場合、壁に対してに魔法をかけるのではなく、壁の木魔法に対して、同じく木魔法の魔力だけ流して相手の木魔法を打ち消すといった具合だ。
これで上手くいかなければ、木魔法で対象を弱体化させる魔法を使ってみよう。
「魔力流してみるから、壁を削ってみて」
「はーい」
茜をちらりと見てお願いしてから、壁に向かって集中する。木魔法の魔力だけを流し込み、壁を押し込むイメージを広げる。
「あ、かなり簡単になったよ!」
横でカリカリと削っている茜を見てから、視線をあげて持っている槍先を見ると、何度がやすりのように動かして削っていた壁が、軽く槍先を撫でるような感じで糸が取れていった。
その様子を見ていた他のメンバーも槍を手にして、壁を削りだす。
「有効距離は半径2メートル程か。上の方までギリギリ届くようだな」
「魔力は大丈夫?」
「後でもらっていいですか?」
「もちろん」
一気にMPが減ることはないけど、持続させているためずっと消費し続けている。それでも魔力は誰かからもらえば補えるので、魔力を流し続けて糸をはがす効率を上げた方がいい。
壁から糸を剥がす速度が上がったので、壁の一部分は上から下まですべて糸がない状態になった。おかげで萌黄先輩が翼を広げても糸に当たることなく上へ飛ぶスペースを取ることができた。今までひとりで糸の上部分を削っていた茶子は、あちらこちら飛ぶことなく萌黄先輩とふたりで作業を進めることになった。
「あの杖、糸で支えられて浮いてると思ってたんだけど、単体で浮いているんだね」
「アオナさんに調べてもらった、封印魔法が何か効果を発揮していそうね」
糸をどれだけ剥がしても揺れる様子の無かった杖は、左右から引っ張る位置にあった紐が剥がれても、落ちるどころか微動だにしない。糸は杖の支えとして壁に張り付いていたわけではなさそうだ。
その後も休憩を入れつつも順調に糸を剥がし、目の前の数本を残して全て外し終わるところまで来た。
「これでラスト~」
最後は茶子が上の方にある糸を剥がす。自然と視線は杖に集中することになる。
剥がれ落とされた糸が杖に何重も絡みついているため、杖ではなく糸で巻かれた棒のように見える。その杖に、最後の糸が戻った。
その瞬間、杖に絡みついていた糸がふわりと杖から離れるように浮かぶと、杖の先端部分へと集まっていく。集まった糸が球体に変化したところで、一気に収束するような動きをした。
杖は、浮いたまま部屋の中央にある。僕ら全員、ここから何か変化するんじゃないかと思って黙って見ているが、何の変化も起こらないまま1分ほど経過した。
「これで終わりかな?」
「そうみたいね」
「ま、手に取るしか選択肢はないよな」
2年の先輩たちの話す通り、この状態で取れる手段は手に取ってみるしかない。あとは、誰が手に取るか。
「杖のと相性を考えると、シホちゃんかチャコちゃんじゃないかな? 王笏コンプリートしてるし」
「じゃあ、空飛んでるし、あたしが持つでいいのかな~?」
「そうね。私が浮かび上がった杖を手にするのは気軽にはできないもの」
僕の魔法をかけて紫帆先輩に行ってもらう手段はあるけど、最初から飛んでいる茶子を選ばない理由はない。
他に選択肢もないので、茶子が中央の杖に向かってゆっくりと飛んでいく。近寄ることで何か反応が起きたとき、即座に方向転換ができるような速度だ。
用心しながら近寄ったけれど、茶子が手に触れる距離まで移動しても杖には何も変化が起きなかった。
「さわるね~」
茶子の小さな妖精の手が、杖の持ち手部分に触れる。
その瞬間、何とも言えない圧力のようなものが杖から吹きあがり体を通過した。体に変化はない。ダメージも負っていない。MPは壁に魔法をかけ続けたため消費していたので、減ったかどうかは判断がつかない。
「チャコー、大丈夫ー?」
茜が声をかけると、茶子は声を出さずに手をひらひらと振って答えた。意識もあって無事そうではあるけど、返事ができない状態なんだろうか。
『こんにちは、お久しぶりですねぇ』
できることもないので、茶子を全員で見守っていると、いきなり声が聞えた。龍と会話しているときの感覚だ。
「マーレさん? お久しぶりです!」
「お久しぶりですね、マーレさんはこちらに?」
『そーですねぇ。意識は杖にある感じでしょうかぁ』
マーキュラスの王都地下に、ネプチュンに封印地があるマーレさんの意識がある。不思議な感じはするけれど、理屈としては正しい。そもそもが、マーキュラス王都に封印されている龍の肉体は、マーレさんこと海龍の肉体だから。
意識と肉体が遠隔地に分かれているのが普通だったため、この地下に意識があるとは思わなかった。
「アオナ、ここであの杖をストレージから出すな」
「あ、はい。そうですね」
蜜柑先輩から注意が飛んでくる。そういえば、杖が龍を探すガイアとの交信用のアイテムだとしたら、使用するのは危険だ。
「マーレさん、その杖って外部、えっと主に地下の世界とつながってたりしますか?」
『今は封印されてる状態なのでぇ、外部との接続はほとんど無いですねぇ。あ、使える人もいませんから、完全につながってないかも?』
使える人の詳細を訪ねてみたら、容姿的におそらくプルトさんだろうと判断した。彼女が唯一、ここから魔力を引き出すことが出来たそうだけど、今はその繋がりを感じることができないので、使用者は誰もいないことになる。
少なくとも、マーレさんの意識がある杖を通してこの場所がばれることはなさそうなので一安心。あの黒いガイアは、龍を恨みに思ってそうだから、場所がわかれば乗り込みかねない。
「マーレさんは、どうしてこの場所に居るの~?」
杖を持ったままの茶子が杖を眺めながら訪ねる。きっと、手に持つことが会話の条件かもしれない。
『この場に居るというか、意識だけここに居る感じかなぁ?』
魔法がかけられたアイテムを完全に無力化するにはかなりMPを消費します。今回、壁にかけられた木魔法がかなり強力であったなら簡単に崩れることはありませんでしたが、そうではないので削りやすくなりました。




