『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』307
「とはいえだ、そんなに都合よく連絡が取れるかだな。そもそも、通常の状態でもフレンドやパーティーメンバー以外へ勝手に連絡する機能なんてないからな」
「音声魔法を使えば似たような方法では伝えられるけど、そもそも魔法を使えない状態でどうやって連絡を取ったって話だからね」
関わりのない相手に連絡を取る方法は、今のところ発見されていない。サーバーと連絡が取れない以上、どのような魔法があるのか誰も確かめられない。
魔法を始めて発見した人がどのような手段をとったかわからないけれど、何年も修行や瞑想をして、ようやく魔法の情報が入力されたサーバーにたどり着いたのであれば、今はその方法をとることはできない。時間があるならいいけど、今回は手軽にアクセスしたい。
「プルトさんたちって、地下の空間とか記憶を見せる影って知らないのかな?」
「影はともかく、地下に魔玉の倉庫のような空間があることは知っていてもおかしくないですね。[マスイサー]の開発で、消した魔石の行先は把握しているかと」
消えた魔石を追跡すれば、地下深くに向かっているのは観測できるはずだ。さすがにそれをしていないとは思えない。
視線を下に向けていたら、茜の尻尾がパシパシと手をたたいた。獣人の状態でも尻尾は器用に動かせるのか。
「思い出したんだけど、プルトさんたちって世界の意思が聞こえるって話してたんだよ。たぶんだけど、影の記憶じゃない?」
新情報ではないけど、ずいぶん前の話なので忘れていた。アカネと合流したときに、そんな話を言ってたな。
「それって、白くて四角い建物が見えるって話だよね?」
「うん。プルトさんの時代に無さそうな、高層ビル。たぶんだけど、プレイヤーの記憶じゃないかな?」
正直なところ、彼女らの時代の文明レベルはよくわからない。水と石炭で動いていそうな車に、モニターとキーボードのあるコンピューターが同時に活用されている。僕らからすると古い時代の話なので、同時に存在しているのが一般的なのかそうじゃないのかが不明。それでも、ビルのことを珍しがる程度には、建物が近代的ではないのだろう。
そのような、プルトさんたちに覚えがない建物の記憶を見せているのだから、記憶を見た対象はプレイヤーの確率が高い。
「アカネが戦争時代に入った地下って、影は見えなかったんだよね~?」
「ひょっとしたら、あの時代は影がすごく小さくて出会わなかったのかも。――そうじゃなくて、影の記憶が見えたことは話のきっかけで、その手段の話がしたかったんだ」
茶子を見ていた茜が僕の方を見る。
「あのとき、杖を持って念じれば何か見えるって言ってたんだけど、それが影の記憶なんだと思う。それなら、杖か王笏の方に、下の空間へアクセスできる機能がある気がする。アオナが同じように王笏を持って集中すれば、知識魔法の情報が手に入るんじゃないかな?」
言われてみれば、王笏は地下から魔力を引き出す役割があるので、下の空間と接続をしていると考えてもいい。杖にも意味があるかもしれないけど、王笏に機能があると考えるのが自然だ。
「試してみるね」
ストレージから、過去に回収した王笏が刺さった杖を引き出す。回収当時は王笏も何もなかったけれど、今は1本だけ刺さっている。茜が地下の遺跡に王笏をはめ込んだのが影響しているのだと思う。
「杖の残りも全部はめる~?」
「これはこのままにしておくよ」
過去の行動が影響して杖に変化が起きているのなら、あまり変更を加えたくない。必要があったときに杖を完成させよう。
立ち上がり杖を地面に立てて両手で持つ。目を閉じて下の空間へ繋ぐ様な気持ちで意識を集中させる。
……なんとなく、ざわざわした気分になる。集中しているはずなのに、その集中がいまいち維持できない。
◆+◆+◆
――――――。
◆-◆-◆
「っ!」
一瞬、電撃で撃たれたような感覚がして、驚きとショックで体がふらりとぐらつく。
「アオナ!?」
立ち上がった茜に体を支えられる。さすがに、10メートル落下は無事で済まないから助かった。もう少し安定した姿勢で試すべきだった。
ステータスを確認すると、多少HPが消費されている。
「ありがと。一瞬、影の中に入った感じがした」
「ふらついたけど、大丈夫?」
「ダメージを受けたけど、ほんの少しだった。時間に対するダメージ量がわからないけど、数秒なら行けるかも」
HPの問題だけなら、ゲームなので全部消えても復活可能。痛みに関しても、同じくゲームなので、痛みは当然減少した設定になっている。ゲームの痛みを脳が感じることで現実の肉体に影響がないように調整されているため、耐えられる痛みしか感じないようになっている。そうでないと、戦闘のあるゲームはどれも販売されない。
改めて、再開する。今度は床に正座をして、杖も正面の床に置いて上から手を重ねる。座る場所も壁際にすれば落ちることもない。
「もしHPが大きく減ったら、回復お願い」
「はーい」
回復を茜に任せて、あらためて集中に入る。目標は知識魔法の[アナライズマジック]。どの時代の誰でもいいから、使用する瞬間の様子を体感したい。
意識を深く沈めて、杖を通して感じ取るようにする……。
◆+◆+◆
(ダメージが――維持はできる……)
――――。
(これか?)
――――。
◆-◆-◆
「っっ! はぁ……」
意識が戻ると、茜が僕に[ヒール]を使ってる最中だった。
「かなり減ってたよ。何もしないと7割は減ったんじゃないかな」
HPを確認すると、半分近く減っている。途中で回復してもらってこれか。仮にNPCがこれを使えたとして、実用とするには厳しいほど命懸けだ。それこそ、復活が約束されたプルトさんだからこそ使えるのだろう。
「それで、成果はあったの?」
「多分。試してみる」
記憶の中で使われた、魔法の魔力の動き。2回目の影へのアクセスで魔法の発動を感じ取ったと思ったけど、実際には最初の一瞬だけの記憶も魔力を感じ取るのに成功していたようだ。それは2回目にしっかりと魔力を感じ取れたことでわかったことだけど、回数を重ねたおかげで知識魔法の発動がなんとなくわかった。
基本的には、知識への欲求や探求に対する思いを魔力に乗せるようだ。魔法を発動させるための集中期間は、知識欲を膨らませることが重要だと感じた。
難しいのは、知識欲を膨らませ続ける集中を長時間持続すること。勉強や調べものをしていれば本を読んだり書き込むことでその欲求を維持できるけど、本などを調べる動作をすることなく「なんだろう」という疑問だけで10分近く考え続けるのは大変そうだ。せめて試行錯誤をできれば気がまぎれるのに。
「アオナ、こっちは作業開始するね」
休憩も十分取ったので、作業を開始するようだ。参加しようと集中を中断して立ち上がったけど、ダメージを受けたばかりだから、少し後から参加ってことになった。
その間にも知識魔法の発動を試みる。壁に対して知りたいという欲求の増大……。
いや、ただの壁だから、そんな気になるとは思えない。壁を専門で調べたこともないし、建築関係者だったら興味深く見るのだろうか。
この状況、ヴァンパイアの吸収魔法の訓練とよく似てるな。あちらは食べ物を食べたくなる食欲だった。魔法の発動って欲求に関係でもしてるのかな?
しばらく壁とにらめっこをしても発動する様子もない。僕に壁を調べたいという欲求が低いんだろう。諦めてみんなの作業に参加するか。
杖をストレージに収納し、槍を持って立ち上がる。
「どうだった?」
「無理。壁に対する興味がないから、集中しきれなかった」
茜の隣で壁を槍でカリカリと削りながら、気分転換のつもりで作業を続ける。こうして壁を削っていれば、壁に興味が湧くのだろうか。
「壁に興味が無いと発動しないの~?」
「魔法をかける対象への興味かな。今回は壁にかけられた魔法の性質が知りたいから、壁への興味が必要」
「んー、そもそも、アオナが知識魔法を発動できるかどうかが問題なんでしょ?」
「うん。なんとなく手順はわかるんだけどね」
「じゃあ、最初は興味があるものに魔法をかけて練習したら?」
「あ」
それもそうか! 最初から興味のないものに魔法をかけようだなんて無理な話だったんだ。そもそも、研究者だって調べたいことは自分の興味があることだろうし。
なんとなく、壁への魔法で成功しないとダメだと思ってたから、練習が出来るってことを失念していた。次の休憩で試してみることにしよう。
前回タイトルが無いのに投稿されてました。必須と表示があるのに、タイトル無しで投稿できるものなんですね。




