『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』306
魔法を習得する手段として一般的なのは、誰かに教えてもらうか、それとも専用の本を参考書として学習するかの2通りの方法がある。
初期に手に入れた魔法の本のように、詠唱すれば覚えていない魔法でも使えるようになる本があれば覚えるきっかけになると思うが、今回はそれすらない。
魔法は、取得したら一定数の魔法名が自然と頭に入ってくる。それを使うように意識しながら名前を詠唱すると発動する。
誰かに師事する場合は、教える側が生徒に魔力を流してその感覚を覚えさせる。魔法の本の場合は、本に記された内容を読むことで体内の魔力に働きかけて内から魔法を引き出す。
それが今回は魔法名だけ知っている状態なので、体の内側から理解する感覚に頼ることはできない。
手がかりと言えば、研究をしていると自然と知識魔法が身につくという情報だけ。僕は情報を集めて調べているだけなので、研究と判定されるかは微妙な気がする。
……進捗は無い。体内から魔力があふれてくるような感覚はない。他ごとを考えてるからかもしれないけど、思考をする前は数分間ほど何も考えずにただ知識魔法の[アナライズマジック]を唱え続けていた。
……無理か。
「無理そうです。魔力が引き出せません」
「そうか。じゃあ、この作業を地道に続けるしかないな」
諦めて、閉じた目を開き状況を伝える。あのまま集中をし続けても知識魔法が発動するとは思えなかった。
視線を茜と茶子に向ける。茜は相変わらず耳を撫でられている。そんな茜は、目を閉じている状態からパッと目を開いて僕を見た。
「この世界って、最初から魔法が一通りそろってたわけじゃないんだよね?」
「うん。後から色々発見されたらしいよ。――あぁ、最初に発見した方法?」
どんなことでも、最初となる出来事がある。魔法の場合も、誰かが新しく発見した人が必ずいる。その最初に発見した人と同じ手順で魔法を使えば、確かに覚えられるとは思うけど、少し無茶が過ぎる気がする。
「さすがに、ちょっと無理じゃない?」
「多分、最初に見つけた人って手順が違ったんじゃないかな。ちょっと話が変わるけど、ゲームデータを入力するって話があったよね? ほら、プルトさんたちが働いていたあの場所の話」
「中央の研究所でコンピューターに入力してたあれだね」
過去の記憶の中で、プルトさんだけでなくマケマケさんやケレスさんも登場していたあの場面。TRPGのゲームに登場するデータを入力していた。あの時は人物や動物の話だったけど、恐らく武器や防具、魔法の情報も入力していただろう。
「あのデータって、過去を見た限りこの世界に影響しているよね。そして、そのデータを入れたコンピューターが7台のうちのひとつ。その時に記憶に入った人が考えてた内容で、『中央のサーバーにつながっている』ってあったよね?」
「あったね――いや、まって。つまり、サーバーの魔法情報にアクセスをしろってこと?」
「イメージとしては、そうじゃないかな。多分、龍と同じようにサーバーもこの世界にあるんだよ」
7台のコンピューターが龍に変化していると予想している。それなら、コンピューターが繋がっていたサーバーもこの世界にあると考えるのは不自然ではない。
ガイアがそうである可能性は十分にあるけれど、元がサーバーだとしたら、龍を恨むような発言は何処から来たのか。まさかアクセスのし過ぎて負荷がかかったのを恨みに思うとか、そんなはずないだろう。
「どこにサーバーがあると思う?」
「んー、たぶん地下の空間? あの暗闇のところ」
「ガイアがサーバーってこと~?」
「それが迷うんだよね。ガイアは意思がありそうだけど、サーバーはなさそうな気がするから。コンピューターなら画面とか入力装置とか会話っぽいけど、サーバーって情報だけの装置だから会話しなさそうでしょ?」
「どちらかと言えば、本に変わりそうだね~」
茜の直感に頼って質問してみたけど、サーバーの位置は地下のイメージらしい。ただ、茜の感覚ではガイアとは同じ存在ではない。
「アカネはサーバーが生物かどうかに懐疑的?」
「うーん。人のような意思があるか、かな。生物でもおかしくはないけどね」
僕が前に、船の上で思い浮かんだ疑問を思い出す。意思はないけど、そこに存在するもの。それを生物ととらえるかどうかはまだ情報が足りない。
「それで、暗闇の空間にどうやってアクセスするの~?」
「ソウルリンクがそうじゃないかな?」
「あ~」
ソウルリンクと言われてみれば、わからなくもない。正直なところ謎のシステムだし、わかっていないことの方が多い。茜が僕の意識に入ることが出来たのも、茜と一緒に同じ過去の映像を見れたことも、どちらもソウルリンクが関係しているのだろう。新しい会話ツールが増えただけにしては、わからないことが多い。
「最初に魔法を見つけた人も、ソウルリンクにアクセスしたのかな?」
「魔法を発見したのがプルトさんたちであれば、コンピューターに入力したデータと、人や魔物の共通点から、魔法の情報もこの世界にあると確信していたんだと思います。ソウルリンクにアクセスをしていたという意識はなかったでしょう」
萌黄先輩の疑問に答えつつ、なんとなく考えがまとまる。プルトさんたちは最初から魔石を体内に宿していないため、魔玉の保存場所はプレイヤーと同じく暗闇の空間となる。そこに魂である魔玉があるのなら、ソウルリンクを使わなくても無意識にアクセスしてしまうことはあるだろう。
「ソウルリンクを使うとして、宛先はどうすればいいのかしら。あの空間と繋がりは無いのよね?」
「ありません。[マスイサー]を使えば直接かかわることはできますが、今から向こうに行くのも違う気がします。そもそも、あちらでは魔法が使えませんから」
意識すれば繋がりを持てるという、単純なことでもない。茜のときのようにソウルリンクを開きっぱなしにすれば繋がって同じ記憶を見れるという方法も、フレンド登録をしているからこそ出来る方法だ。登録していなければ、そもそも繋がりを持てない。
「プルトさんたちは、どうやって繋がりを持ったのかな」
「サーバーに名前登録してあったんじゃないかな~?」
「なるほどー」
……茜と茶子の話を聞きながら、どうすれば魔法が発動するのか考えて――。
「あっ! だからプルトさんたちってこの世界に来てるのか!」
「中央研究所の人が中心となって呼ばれてるのもそれが理由か。職員情報として、名前とコンピューターにアクセスできる権限が登録されていたのかもな」
ゲームデータのように、この世界に存在するものとして呼ばれているのかもしれない。登録されているだけで別の世界に呼び込まれるのは、非常に迷惑な話だ。
「名前登録だけで、ソウルリンクの役割を果たすのかしら? 私たちも名前でフレンド登録はするけれど、裏ではIDが割り振られてるのよね」
「職員番号とかでもあったんじゃないか? 恐らく個人情報が色々と入ってたんだろうな」
名前だけでなく、経歴や所属など色々な情報があったに違いない。そういったデータも参照されたのなら、サーバーとの繋がりが強い可能性はある。
「プルトさんたちがソウルリンクを使える前提で進めてみようか。その上で、サーバーとはフレンドになっているかどうか」
「ソウルリンクは使えると思う。猫の姿で中央に行ったときに、向こうの宗教の人がそれっぽかった」
「助けた女の子も使えたからね~」
「サーバーが生物だとしても、フレンドに登録はしていないかな。僕らみたいにシープ上ではフレンド登録してるメンバーが、ゲームに入ると自動登録にはなってなかったから」
ゲームキャラクターとして新規登録すれば、フレンド登録が最初からは当たり前。となると、前の世界でどれだけ親しくても、この世界では最初から登録しなおしになる。
「フレンド登録されていない、元サーバーにアクセスできる方法があるってことだよね。その方法さえ見つかれば、知識魔法が使えるかもしれない」
ファンタジー世界で詠唱が必要な世界では、最初に魔法を発見したのはどのような過程だったのでしょうね。石器時代は無詠唱だったのでしょうか。




