『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』305
~~~アオナ~~~
足場を作る作業の再開後は、休憩する前より作業が捗った。魔力が回復したのもあるけど、精神的にリフレッシュできたのと、作業を繰り返すうちに手順が効率的になったのが影響していそうだ。
足場が完成したら、登れるように縄梯子をつなげて完成。階段も作れなくはないけど、縄梯子で済むのなら余計な魔力は使わないほうが良い。
「槍は出来てるよー」
槍の刃先部分が石で、ポール部分を布で作られた槍が並べられている。軽さと適度な鋭さを持った槍だ。布製なだけあって戦闘に使うのは無理だが、今回の目的には問題ない。
「ちょっと試してみるね」
黄里先輩が槍を持って壁に近寄る。そのまま槍の先端を壁に突き刺してガリガリと削る。
「思ってた以上に削れるな」
「物質魔法で強化してあるからかもね」
傷のついた壁を見て、恐らく大丈夫だろうと判断する。強度が足りなければ金属を使うしかなかったけど、現状では良さそうだ。
それぞれが槍を持って上の足場へ上る。茜は萌黄先輩が上まで運んでから猫から人に変身していた。
「久しぶりのアカネちゃんだね」
「テラスでお茶したとき以来です」
ケモ度の高いアカネも槍を持って、足場を進み別の場所へ移動する。それぞれが2メートル間隔の距離をとったのを確認してから、作業を開始する。
作業は単純に、壁から糸をはがすこと。ただし、糸に触れると物が切断されてしまうので、糸を引っ張ってはがすことは難しい。
魔力感知でわかったことは、杖と糸は大きな魔力を保有しているけれど、壁は保有していない。それらが別のものだとすると、糸をはがすのではなく、壁を削って糸を壁から引きはがすことが出来るんじゃないかと予想した。
この足場を作る作業をする前に、茶子にお願いして糸が繋がっている壁の部分を削ってもらったところ、糸が壁から剥がれ落ちた。それだけではなく、糸が収縮して別の壁と壁を繋ぐ一本の糸へと変化した。例えるなら、6角形の頂点を削ったら5角形になったような、そんな挙動。恐らく、壁に繋がった糸を全部はがせば、最終的に杖に収束するんじゃないだろうか。
「焦らず、丁寧にやれよ」
「糸に当たって壊れたら、修理します」
槍をもった全員が、自分の持ち場から届く糸を、槍の先端で壁からはがしていく。
糸が壁に接している部分は指先ほどもないわずかな点だけなので、あまり広い範囲を深く削る必要はない。それでも、糸の数が多いから焦って雑になってしまいがちになる。雑になると糸に当たるミスをしてしまうので、茜の並び順を中央に配置して、作業をしてもらいつつ修理の必要があればすぐに移動できるようにした。
作業そのものは順調。問題があるとすれば飽きるだけだ。ひたすら槍を持ち上げて、壁をやすりのように削り続ける。この作業も、慣れてくると最初にどの位置を削ればはがれやすくなるかがわかってくる。
茶子だけは、下の足場から糸をはがすのではなく、上へ飛んで僕らが作業している上側の糸をはがしている。槍を使って高い所を削る作業とはいえ、3メートルも先の糸はさすがに槍の先端がブレて丁寧な作業ができない。
上側の作業が難しい所をすべて茶子が担当することになっている。範囲は広いけど、上の一部だけなので作業量は僕らと大きく違いがない。
空を飛べるのは萌黄先輩もだけど、さすがに翼が大きいので、糸の隙間を縫って上へ飛ぶことはできない。僕らが作業しているこの場所から全て糸をはがすことが出来れば、上へ飛ぶ空間が出来るため、その時は上を担当してもらうのも良さそうだ。
削り続けてしばらく、腕が痛くなって休憩をする。長い棒を上に持ち上げ続けるのはかなり大変だ。軽い素材で作ってもらったとはいえ、長時間作業を続けるのは苦しい。
「樹木の剪定って、こんな姿勢を続けるんだよね? 大変だねー」
「その仕事は僕には無理」
「あたしも無理~」
休憩は全員で取ることにしている。誰かが作業をしていると、あまり休みを取らずに作業をし続けそうになるので、メリハリをつけようって紫帆先輩が決めた。
1年生の集まりと2年生の集まりに別れて、その間に萌黄先輩が座っている。萌黄先輩は、隣に座っている茜の耳を撫でている。猫の姿じゃないけど、猫耳には惹かれるものが有るのだろう。
「もう少し効率的にできないかな。今のペースだといつ終わるかわからないよ」
「壁からはがすのに時間が短縮できたら良いんだけどな」
壁を土のように変える魔法や、穴をあける魔法は効果が無かった。土壁ではなく、全く別の素材で作られているのかもしれない。
「物質魔法で、どうにかならないの~?」
「魔法がかかっている物質には効果があんまりないんだよ」
「ミカンちゃんやアオナちゃんの鑑定で、壁の魔法ってわかるの?」
「魔法の性質調査だと知識魔法っすね。うちの鑑定だと魔法の詳細は難しいっす。アオナは可能性あるんじゃないか?」
「魔化魔法のスキルが低いから、何が付与されているかはっきりはわかりません」
知識魔法は、その名前の通り知識が得られる魔法で、知らない物質でも魔法を使えば対象が何であるかがわかる魔法。
鑑定は、何でもかんでも鑑定できるような便利スキルではない。主に名称と視認した対象を一部だけ数値化した情報を出すスキルになっている。
この名称を出す効果に関しては、この世界全体の認知度の程度によって表示されるかどうかが決まっているようだ。誰も知らない物に関しては、恐らく永遠に表示されない。
数値化も、対象への認知によって割り出された数値で、HP表示も、種族や外見からわかる強さ、怪我の度合いによって算出されている。
鑑定でさらに詳細が知りたい場合、ひとつはギンガのように【装飾品鑑定】という特化した鑑定スキルを覚える方法がある。この鑑定スキルなら、装飾品限定で価格から魔法の効果まで、一般に知られている認知度を超えた鑑定が行える。
もうひとつの方法は、鑑定とは別に専門的な知識のスキルを覚えること。
今回の場合、鑑定スキルで壁に付与された魔法を看破するには、魔法に関する分野の知識がある程度無ければ成立しない。
ここでの知識とは、付与に使う魔化魔法と、魔法効果の元となる魔法(例えば防火なら火魔法)を覚えていることが条件にはいる。
そのうえで、どちらもある程度高いレベルで覚えていれば詳細がわかるはずだけど、僕の場合は魔化魔法のレベル自体が低いので、元となる魔法を覚えていたとしても鑑定で詳細が出ることはない。
「その仕組みだと、鑑定で判別するのは難しいわね」
「今回の場合は、知識魔法を使うのが一番手っ取り早いかと」
「誰か使える人いる?」
「居ない人も含めて、誰も覚えていないはずだ」
黄金音先輩が覚えていそうだけど、実際は覚えていない。黄金音先輩なら特殊能力の効果によって、覚える機会さえあればすぐに覚えられるだろうけれど、その機会に恵まれなかったようだ。
「アオナなら使えるんじゃない~?」
「使い方を教えてもらったことも無いよ」
「えっと~、シェリマさんが通ってたの学校の先生によると~、知識魔法って研究してると勝手に身につくスキルみたいなんだよね~。アオナならそのあたりクリアしてるんじゃない~?」
そういった条件なら、可能性はなくも無いか。かなり本を読んでるし、狩りよりも調べものもしている自覚はある。発動条件は満たしている可能性がある。
「試してみるね」
ストレージから『混融魔法概説』を取り出す。魔法の練習用の本ではないけれど、スキルの効果や用途、使用者の意見など様々なことが書かれている。使用するスキル名と使用感さえわかれば、条件さえ合えば発動するかもしれない。
使う魔法は、[アナライズマジック]。対象の魔化された魔法を見抜く魔法だ。
「しばらく時間をもらいます」
壁に手を当てて、意識を手と壁に集中する。重要なのは発動する予兆を感じ取ることだ。
高い場所にある枝を高枝のこぎりで切るだけで腕が疲れます。茜が作った槍はかなり軽くしてあるので、道具の重さは問題ないですが、腕を上げ続けるため十分な休憩なしには続かないです。




