『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』303
~~~アオナ~~~
壁に沿って掘り進めたところ、急に上下を貫通するような縦穴へと到着した。最初に入った部屋の、帰還石が落下する穴のような空間だ。
下に向かっても地下の空間につながっているだろうから、向かう先は上になる。上を見上げると、天井に丸い輪郭があるのが見える。恐らく蓋になっているんだろう。
「中央の部屋の入り口らしき蓋が見える。鍵が掛かってたり罠があるかも」
「あたし向きだね~。とりあえず見てくるよ~」
光る枝を持った茶子が上へと飛んでいくのを眺めながら、残してきたメンバーに連絡を入れる。
こちらに来るようなので、集まれるように土魔法で少しだけ広い空間を作ることにした。
チャコ:鍵は掛かってなくて~、罠はここからだと不明だよ~。ちょっと開けるから、少し下がっててね~。
茶子の場合[妖精の隠れ家]を使えば、罠を発動させつつダメージを回避して生き残る手段が取れる。具体的には、隠れ家の入り口を罠と逆向きに発動させて、人の手と同じ動作ができる[妖精の手伝い]を使って後ろの罠を発動させればいい。空間全体を一瞬で爆発するような罠は回避できないが、そうでなければ高確率で罠を回避できるのが強い。
穴から離れて少し待ってみたが、何か音がした様子はない。
チャコ:罠はなさそうだね~。蓋も無事に開いたよ~。
アオナ:縄梯子を設置できそう?
チャコ:どうだろう~、中に入るね~。
縦穴の入り口付近の壁面に打ち付けてるつもりで聞いたんだけど、中に入るみたいだ。僕の聞き方もよくなかったかもしれない。あの言い方だと部屋のどこかに引っかかる場所が無いか聞いてるみたいだった。
チャコ:この部屋、あたしの低レベル魔力感知でも、かなり魔力感じるよ~。
アオナ:部屋の様子はどう?
チャコ:魔物も居ない、普通の部屋だね~。杖は無いけど、上の階はあるよ~。とりあえず、縄梯子を縛れそうな場所があったから降ろすね~。
しばらく待つと、上からじゃらりと縄梯子が降りてきた。降りてきた縄梯子を掘ってきた横穴に引き込んで地面と固定化する。
そうしているうちに、残してきたメンバーが集まってきた。茶子が明かりを持っていったから闇視に頼って作業していたけど、黄里先輩の持っている光を見て、やはり明かりがあった方がわかりやすいなと思う。
「落下しないように足場を作りますね」
紫帆先輩が先ほどと同じように、下へ続く穴部分に精霊魔法で足場を作った。これでめったなことでは地下の穴へ落下することはない。
「この縦穴も、本来は整備されてたんだろうね」
「そうだな。梯子でもあったんじゃないか?」
この縦穴にも壁の一部にタイルのようなものが張り付いているから、本来は通路のような造りになっていたんだろう。蜜柑先輩の言う通り、梯子が設置されて行き来がしやすかったかもしれない。
「先に行きます」
足場が完全に作り終わった後は、黄里先輩が先行して梯子を上った。下からその様子を見上げても、問題なく登れているようだった。
キリ:登った、次いいよ。
すっと周りを見渡して、視線の雰囲気から僕が登ることになった。戦士、斥候を除いた人が登る番だったので、ちょうど良かったのだろう。
落下しないように縄梯子を注意して登り、入り口をくぐって部屋に入る。
アオナ:登りました。
部屋に完全に入ってから連絡をすぐに行い、それから部屋を見渡す。全体が真っ白な円形の部屋で、彫刻など目立つようなものは一切ない。奥にある上り階段だけが目立つような、何もない空間だった。さすがに先行して調べるのは危険なので、全員が揃うのを待つ。
出来ることと言えば魔力感知程度だけど、茶子が感じ取った通りかなりの魔力が周辺を漂っている。逃げ場のない魔力が、この部屋の中を充満しているような感じだ。蓋を取って下への入り口ができてからも、それはあまり変わらない。少なくとも、この部屋よりは上の階の方が魔力の濃さを感じる。
「お待たせしました」
最後に縄梯子を上った紫帆先輩が部屋にたどり着く。階段の方は蜜柑先輩と茶子が先に向かって調べてくれていた。どうやら魔力は感じても普通の階段のようだ。
階段はふたりが並べるほどの広さがあるため、前衛の黄里先輩と紫帆先輩を前に警戒しながら上る。
階段を上りきると、ドーム状の部屋出た。ドームといっても天井はかなり高く、円柱の上に半円のドームが載っているように見える。薬のカプセルの内部のような空間だ。
「杖があるね」
上を見上げる黄里先輩が剣で指す方向に、王笏の刺さった杖が見えた。高さはここから10メートルは高い位置にある。杖そのものが浮いているようにも見えるが、壁から幾筋もの紐か何かが伸びて杖をからめとっているため、縛り付けて浮かされているようにも見える。
「あれって、取っていいのかな~?」
「何かに作用してる気はするよね。適当に取ったらダメな感じかも?」
僕は基本的に茜の直感は信じている方なので、茜の感覚で適当ではダメと言うのなら、多分そうなんだろう。何らかの手順がありそう。
「杖の鑑定と周辺魔力。それにあの紐を調べましょう」
十分に集中してから[レビテーション]を自分に掛けるとふわりと浮き上がった。最初は魔法の儀式として発動していたけれど、今では魔法そのものを習得したので自分だけで発動可能だ。
「アオナ、それってうちにもできるか?」
「MPを貰えれば掛けられます」
「じゃあ、私が渡すね。ここまで魔法使ってないから」
萌黄先輩に[レンドマナ]でMPを付与してもらい、そのまま蜜柑先輩へ魔法を掛ける。ふわりと浮く蜜柑先輩は、最初態勢を整えるのに手足をバタバタ動かしたけど、割とすぐに普通に動けるようになった。
「あの暗闇の空間の感覚に近いな」
そういわれてみれば、飛ぶのではなく浮遊するこの魔法は、[マスイサー]で入ったあの空間の感覚とよく似ている。茜が取得したスキル[低重力遊泳]も、この状態で活かせるのかもしれない。
ふわふわ浮き上がりながら、中央に浮かび上がる杖の周辺へと向かう。杖へ直接向かう前に、魔力感知で全体の状況を確認する。
杖そのものが大きな魔力で包まれているのはもちろん、それと繋がっている白い糸も同じように魔力が伝わっている。
その一方で、糸がつながっている壁からは、あまり大きな魔力を感じない。壁に魔力を全く感じないわけではないけど、杖や糸から感じるような魔力は感じないし、糸が接している壁が、糸からの魔力の影響を受けているようには感じられない。
「壁と糸の魔力に共通点はありません」
「発生源が壁じゃないのなら、魔物の可能性はあるか?」
「魔物の気配はないよ!」
蜜柑先輩との話を聞いていた黄里先輩が、下から大きな声で魔物について教えてくれた。魔物が原因だった場合、今この場で危険なことはなさそうだ。
「上の方には何もなかったよ~」
この部屋の一番上まで飛んで調べにいった茶子が戻ってきた。何か手掛かりがあるかと思ったけど、そうではなさそうだ。
「上に何もないなら、この杖は最初からこの状態だったってことか?」
王笏を刺した杖が、中央の街の教会の2階に安置されていたように、何か台座のようなものに立てられていたと思っていた。けれど、それらしいものが無いのなら、杖の設置は最初からこのように宙に浮かび上がっていたことになる。
「聖女から受け取った杖を、こんな縛り付けるように設置するでしょうか」
「この状態になるよう時限式になってたならあり得るだろうけどな」
本来はもう少し厳かな設置だったのかもしれない。あるいは、設置したのが聖女本人の可能性もある。
そういえば、杖の模写にはあれがあったな。見た感じ見当たらないけど、どうなっているんだろう。
魔物に対する明確な気配察知を持っているのは黄里だけです。魔力感知で魔物の性質や魔力はわかりますが、魔物かどうかを判断することはできません。




