『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』302
蜜柑先輩や蒼奈と違って、MPを消費していないからログアウト時間も短めにしてログインする。といっても、ゲーム内時間の朝までは時間があるから、軽く食事をしてから入る。
普段は蜜柑先輩が一番早くログインしているけど、回復のためのログアウトだからまだログインはしていないみたい。紫帆先輩と茶子が居たから、お話をしながらMPを消費しないスキル上げをしてみんなが揃うのを待つ。
「アカネさんは子猫だから、攻撃が当てにくいわね」
「スキルレベル低いので、かなりギリギリですけど」
時間もあるので、模擬戦で訓練をする。紫帆先輩の武器は木の枝で、私は格闘。
猫専用の【猫格闘】があるので、それを鍛えたいんだけどあまり出番がない。子猫なので筋力や素早さ、爪の鋭さに難はあるけど、そのあたりは【回避】【走り】【跳躍】スキルに、攻撃を補助してくれる【獣人魔法】【物質魔法】があるので、実戦では子猫の影響はほとんど無い。
とはいえ、MP回復のためにログアウトしたのだから、魔法を使うことも、ダメージを負って回復のためにMP使うのも本末転倒なので、魔法は禁止で相手に軽くタッチすることで攻撃判定にしている。
紫帆先輩は、突きからの薙ぎ払いを中心に攻撃してくる。私のサイズが小さいから、初手で薙ぐタイプの攻撃は回避しやすい。そのため、初手を突きにして初期位置から移動させるように誘導し、前後左右のどこかに私が回避してから薙ぎ払いの追撃を行う。刃先のない、枝のどこで当てても良いルールだから出来る方法なのかもしれない……よね?
「枝の当てる向きって毎回同じ位置にしてますか?」
「そうね。そうじゃないと訓練になりませんから」
枝の当てる位置を自分で決めていたみたいだ。と言うことは、普通の武器で使われても常に刃先で切られてたってことだから、何度か当てられてる私の回避技術が低いってことになる。がんばらないとね!
回避方向を工夫しながら訓練を続けていると、紫帆先輩が枝を下げて構えを解いた。紫帆先輩が顔を向けた方を見ると、残りメンバーもログインして集合していた。いつ集まったかわからないほど集中していたけど、周りではスキル上げやお話をしながら私たちの練習を眺めていたみたい。
「ミカンが最後って珍しいわね」
「次のログアウトで即戻れるように、用事は全部済ませてたんだよ」
訓練に集中していて周りが見えなかったけど、紫帆先輩は誰がログインしていたか把握していたみたいだ。私も戦闘しながら周りを見る余裕も身につけたいな。
ストレッチをするように体を伸ばしていた蜜柑先輩は、「それじゃ、掘り進めるか」と声に出してみんなが集まってる方へ振り返る。
「穴を掘るのは、うちとアオナとアカネだな。モエギ先輩はMP付与の準備を頼みたいっす。残りの3人は掘る方向が曲がっていないか常にチェックを頼む」
話を聞いて立ち上がった蒼奈が、訓練後に座り込んでいた私を拾い上げて、ストレージから出した肩掛けの鞄に入れる。下に降りる穴の傍に立って、蜜柑先輩の次に下へ降りる準備をする。
「注意して降りないと危ないね」
「ロープだけだからな。足場がいるか?」
「余分な土とかがあれば、物質魔法で固められますけど」
「精霊魔法でどうにかしましょうか?」
穴の中を覗き込んでいると、紫帆先輩が隣に並んで穴を覗き込んだ。そのまま穴の下の方へ手を伸ばして、集中を始める。
「[――――――]」
不思議な言葉で精霊魔法を発動すると、穴の側面にある壁が動いて足場を作り出した。ずいぶんな量が動いたから、かなり丈夫そうだ。
「側面は帰還石が落下するように穴をあけておいたので、そこだけ注意してくださいね」
上から転がってくる帰還石が落ちる場所も確保したみたい。完全に埋めちゃうと、このあたり一帯が帰還石で埋め尽くされるからね。
「精霊魔法で穴があけられないのか?」
「無理ね。増やすのはできるけど、穴をあけるような減らす行為は、精霊の住む環境を減らすことに繋がるからやりたがらないのよ」
「便利そうでも制限あるんだな」
「さすがに根源魔法と同じように無制限に使えたら便利すぎでしょう? 発動速度や威力の問題もあるし、使える場面も限られるものなのよ」
火魔法や風魔法は、それぞれ別の魔法として覚える必要がある根源魔法に対して、精霊魔法は単独で火と風の精霊に色んなことをしてもらうのだから、出来ないことがあるのも納得だ。精霊にお願いをする時間のぶんだけ発動速度が他と比べて遅いとも聞いてたから、使いどころが難しいのかも。
「掘り進めて地下水が流れてくるようなら精霊魔法で対処するから、私の出番としてはそれだけでしょうね」
「いえ、地下水に対応してくれるのはとても助かります」
紫帆先輩が作り出した足場に降りながら蒼奈が答える。念のため側面の穴に入るまでロープを離さずに持っていたけど、生み出した足場はかなり丈夫に作られているみたいで、崩れる様子はない。
穴掘りメンバーが降りて、掘り進める方向を再度確認してから掘り進める。多少進んだところで後ろを振り返ると、全員が掘られた穴の後ろからついてきている。
3人で交互に穴を掘り続ける。途中で方向を訂正するように黄里先輩や茶子の指示が入るけど、おおむね順調に進んでいた。
「……掘れなくなったな」
時々休憩を入れつつも、曲がることなく真っすぐ掘り進むことができた。何度目かの休憩の後、急に壁のようなものに当たった。土や岩じゃないので、魔法で掘ることはできなかった。
「座標は?」
「……もう少し先です。壁の内側が中央の胴体の封印場所か、杖の保管場所のどちらかでしょう」
「下に掘るべきでしょうけど、掘り方を間違えると危険ね」
封印場所ならその下にある杖の部屋へ向かう必要があるし、杖の部屋であっても下の穴から入るこむことが出来るから、壁にぶつかった時点で下に掘り進めるのは予定通り。
ロープではなく縄梯子を取り出して、下に掘り進める準備を始める。縄梯子の定員の都合上、掘る人はひとりに限られる。
「アオナさんとミカンの交代で進みましょう。アカネさんはふたりのMP回復に回ってくれるかしら」
「はーい」
掘った土を残すような獣人魔法では、下に向けて掘り進めるのは相性が悪い。ここは土魔法が使えるふたりに任せるしかない。
縄梯子につかまりながら作業するため、黄里先輩が火魔法の[フレイムエナジー]と肉体魔法の[ストレングス]をふたりに掛けて、体力の消耗を抑え筋力を増強させる。
掘れなくなった壁沿いに下へ向けて穴を掘る様子を眺める。茶子が明かりをもって一緒に下へ降りている。蒼奈の能力は闇視だから光が無くても問題ないけど、蜜柑先輩は暗視なので、多少の光がなければ暗闇の中を見ることが出来ないからね。
「途切れた。チャコ、方角教えて」
蒼奈が壁面が途切れる場所まで掘り終えたらしい。改めて中央への方角を調べて再度横に掘るみたいだ。
「チャコちゃんの光の位置がずれてるね」
「あ、壁が途切れて横に進んだみたいです」
一緒に下へのぞき込んでいた萌黄先輩の疑問に答える。猫じゃないから離れた位置の声は聞こえないみたいだ。横にそれて掘るようになってからは声の大きさが小さくなったけど、【猫五感】を使えば問題なく聞こえる。
「あ」
蒼奈の声が聞えた。多分、入り口の空洞が見つかったんだろう。
アオナ:入り口が見つかりました。縦穴になっているので、チャコに先行してもらって登れるように準備してもらっています。
シホ:わかりました、向かいますね。
ひょいと萌黄先輩に拾われて、穴の中を降りていく。縄梯子を猫のまま降りるのは大変なので大助かり。せめて先輩の負担にならないように、しっかりと掴んで落ちないようにしよう。
戦闘描写がほぼ無いのに訓練だけはしています。作中で書かれない範囲でダンジョンに入って狩りをしているのですが、近ごろはゲーム内の日数が連続しすぎているので、入る暇もなさそうです。




