『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』300
壁や床を調べた結果、一か所を覗き不審なところは見つからなかった。その最後の場所まで全員が集合して下を覗き込む。
「ここ以外ないよね」
「確実にこの部屋から外には出てるからな」
全員が集まって見ている間も、上から転がってきた帰還石が落下して吸い込まれていく。ここは上から転がってきた帰還石が落ちていく穴で、網目状の金属の蓋がされている場所だ。網の隙間から先を覗き込んでも、真っ暗で底がどれだけ続いているかわからない。
見ているだけではどうしようもないので、黄里先輩が蓋を外しにかかる。床にぴったりとくっついているためか、外すのに力がかなり必要なのか、かなり力んでいる。接着されているわけでも、魔法で固定されているわけでもないようで、蓋がずれるように徐々に浮き上がり、最終的に取り外すことが出来た。
蒼奈がその穴へ魔法の光を落として先を見るが、真下に掘られた穴がずっと続いているだけだった。
「かなり深い穴ですね。闇視でも見通せません」
「あたしが行ってこようか~?」
ふわりと穴の上あたりを飛ぶ茶子。空中を飛べて探索もできる茶子なら、ここを調べるのには適していそう。
「お願いできるかしら?」
紫帆先輩が話す前に、茶子は既に明かりの点いた棒を手に取って下に行く準備をする。最初から下に降りる気満々だったみたいだ。
茶子はゆるゆると高度を下げて、穴に体が隠れたあたりで「いってきま~す」と言って下がっていった。穴の中は、蒼奈が先に入れた光と、茶子が手にした光のふたつが見える。
その光が近寄り交差して、茶子の方がどんどんと下がっていく。かなり深い穴みたいだ。
チャコ:穴の切れ目まで来たんだけど~、ちょっとまってて~。
そう連絡が来てから、茶子の光がふっと消えた。道がそれたのか、ストレージに収納したのか、妖精の部屋に入ったのか。いくつかパータンは思い浮かんだけれど、ここは茶子に任せるしかない。
じっと穴を眺めていると、時々茶子らしき光が穴の底を横切るように移動しているのが見えるので、部屋に入らずに周辺を探索しているのがわかる。
「地下に空洞があるって話だよね?」
「僕が見たのは別の場所の穴ですが、かなり広い空間が地下に広がっていました」
蒼奈の初期地点は、ここよりさらに下の地下って聞いてる。地上を目指していたから下の方は探索していないそうだけど、この地下世界も不思議な場所だ。
ダンジョンとは違い外の世界とつながっているから、地下の魔物が地上にあふれてきてもおかしくないんだけど、そういった話は聞かない。地上と地下で、完全に住み分けが出来ている。理由でもあるのかな。
「魔力濃度の影響」
地下との住み分けについて蒼奈に聞いてみたら、あっさりと答えが返ってきた。
「地下の方が魔力が濃いのは今までの探索からわかってる。魔力病が全ての生物に関係するのなら、地下の魔物にも当然影響がある。周辺の魔力が多くても少なくても魔力病になるのなら、魔力濃度が濃い地下で生活している生物にとって、地上は生きていられる場所じゃない」
そういえば、王笏の周辺に居る巨大な魔物は、地面にぺったりと張り付いていた。よそ者が来たら排除するために立ち上がったり飛んだりするけど、基本は地面に張り付いている。出来るだけ魔力の濃い場所に近寄りたいからだろう。
「じゃあ、この下ってかなり魔力を持っている魔物が多いんだ。強いのかな?」
「僕が見た魔物は、大型種だった。強いかどうかはわからないけど、そのサイズを支える体をしているんだから、弱くはないはず」
「初期や戦争の時代は地下の話って聞かないのよね。存在してたのかしら?」
「初期時代って、地表の魔力濃度はそれほど多くないって聞くから、もっと地下深くに居たんじゃないかな?」
茶子を待っている間、なんとなく暇だから魔物の話を続ける。王都のすぐ真下に、大きな穴が広がったのは、魔物が地下深くの高い魔力濃度から逃れた結果なんじゃないかなって話になった。地下の魔力濃度が濃くなるにしたがって、その場所に暮らしていた魔物が上へと移動し、その過程で穴を掘っていったと。
チャコ:ちょっと一回戻るよ~。
シホ:わかりました。
茶子から連絡が届き、ほどなくして穴から現れた。
「ただいま~。えっと~、途中からかなり広くて深い穴があって~、何体か魔物が居たんだよね~。あてもなく入り口を探すのはちょっと難しいかも~」
茶子から、地下空洞の詳細を聞く。このまま下に穴が続いて、途中から広い縦長の空間に出たそうだ。出た場所は空間の天井のようで、恐らく他の龍の体が封印された部屋もその天井から続くどこかに入り口の穴があると思ったそうだ。けれど、空間が広く暗闇な上に、魔物がうろついているため探し切ることは難しかったようだ。
「そんな状態で、昔の人ってどうやって杖を中央の祭壇に運んだんだろう?」
「地下の状態が今とかなり違うんだと思います。元々あった通路が魔物によって壊されて使えなくなったんじゃないでしょうか」
「そういわれてみれば~、真っすぐ下に降りてる最中は壁にタイルっぽいのがあったかも~」
広い空間に出てからは見当たらなかったけど、真っすぐ下へ伸びている穴には、時々土壁とは違う、表面が平らになっている磨かれた石があったとか。元々通路として整備されていて、それが崩れて使えなくなったのかもしれない。
「いつから空洞があったのかな」
「どういった経緯で出来たかはわからないよね」
穴を覗き込む萌黄先輩と一緒に下を眺める。見ていてもわかることはないから、答えの無い疑問だ。
眺めている最中に、上から帰還石が転がり落ちて穴の中へと吸い込まれていく。数回壁に当たる音が聞えた後は、空洞のさらに下へ落ちていったのか音が聞こえなくなる。
……うーん。落ちた帰還石、なんか気になる。
じっと穴の奥底を見つめていたけど、私を抱えている萌黄先輩が移動したら視界から穴が外れた。2年の先輩が集まって茶子の話を聞いているから、そっちに合流するみたい。わざわざ降りてまで穴の底を見つめる必要もないから、運ばれるまま過ごす。
「魔法で穴を貫通させた方が手っ取り早いか」
「元々は穴の壁面が整備されていたということは、一度下がってから中央の部屋に向かったルートの可能性が高いからね。中央の部屋も下に向けて穴があった可能性は高いよ」
「杖の部屋ごと底へ落下した可能性もあるわよね」
「それはもう、どうしようも無いな。今は部屋があると考えて掘るのが良いんじゃないか?」
下に続く穴から移動するのをあきらめて、直接穴をほって進む方針に変えたみたい。
穴を掘る方向は中央方面だけど、掘り進める正確な向きがわからない。そのため、方位磁針を使って正確な方向を出すことにした。
「座標の魔法を覚えてたらな~」
妖精の国の住人から、現在地の座標がわかる魔法をホツナルさんが教わったらしいけど、茶子は必要な魔法を習得するまで教わるのがお預け状態らしい。
「アストロラーベは使えないのかしら?」
「あ、いけるかも!」
ストレージから取り出す。使うには猫のままだと難しいなと思ってたら、黄里先輩が「私が使おうか」と言ってくれたので手渡す。
「キリちゃん、それの使い方教えてもらっていいかな?」
アストロラーベを操作している黄里先輩に、萌黄先輩が近寄って使用方法を教わりに来ていた。中央の座標を調べるには、龍の肉体があったと思われる広い空間を移動する必要がある。そこへ向かうには場所も知っていて空も飛べる萌黄先輩が向かうのが一番良い。
「あ、それじゃあ、僕とチャコが上に行ってきます」
蒼奈は、もうひとつのアストロラーベを取り出した。
地下で現在地と中央にある龍の魔石の部分の座標を調べる。座標がわかっても方位はわからないため、掘る方向が特定できない。
そこで、地上に上がった蒼奈たちが地下と同じ座標を調べて、方位磁針でその2か所がどの方角で結ばれているかを正確に調べる。そうすれば、地下の穴を掘る方向が判明する。
地上へ戻る時間もかかるし、あらかじめ地上に行ってもらった方が作業はスムーズに進みそうだ。
茜の持っているアストロラーベは魔力が込められている道具なので、座標を調べるにあたって地下でも使えます。
蒼奈の方はほぼ同じ見た目ですが性能が違います。座標は調べられますが、外で使う道具です。




