『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』297
「コガネさんはいらっしゃいますか?」
「はい」
部屋に入ってきた執事服を着た男性が、黄金音ちゃんを呼び出した。その声に4人とも立ち上がり執事さんの前まで移動する。
執事さんが扉の向こうへと誘導するので、扉の外に出ると廊下に待機していたメイドさんを紹介された。この人についていけばいいらしい。
メイドさんの誘導で廊下を進み、外へ出る扉をくぐる。前と同じような王宮の庭園が目の前に広がっていた。相変わらずの鉢植えが並んだ庭園だ。
その庭園を抜けて別の建物へと移動する。
「蜥蜴宮殿ですか?」
「はい」
黄金音ちゃんが移動中にメイドさんへ話しかけたけれど、行き先を答えた以外はあんまり話に乗ってこない。余分な話はしないように決まりがあるのかも!
「ギンガちゃん、マーレさんに連絡できる? 忙しくなければ状況を教えてほしいから」
「出来るよ!」
猫と龍で会えるようになっているのに、まだ姿を見せてもらってない。マーレさんはこの宮殿で働いているから、多分近くにいるんじゃないかな?
『マーレさん、こんにちわ! 王宮に来ました!』
『こんにちは。向かってるのを聞いてますよぉ。ギンガさんたちが来る蜥蜴宮殿に、王子と一緒に待ってますからねぇ』
『そうなんだ! マーレさんが居るだけで大丈夫なのかな?』
『良いと思いますよぉ。だめだったら私から説得しますから、心配しないでくださいねぇ』
『はーい、お願いします!』
マーレさんとの会話を閉じて、ふたりの方を見上げる。
「マーレさんが先に行ってるって!」
「それなら、大丈夫そうだね」
頷いて、メイドさんの背中を見る。その向こうに蜥蜴宮殿の姿が近づいてくるのがわかった。
蜥蜴宮殿の庭先に入り、そのまま扉の前まで移動。メイドさんは扉を開けて、中へ誘導してくれる。そこには別のメイドさんが待機していて、その人についていくように言われた。
室内のメイドさんについて進むと、部屋の中に案内された。開いた扉の先には、メイド姿のマーレさんが立っていた。
『お待ちしておりました』
マーレさんは丁寧な礼をすると、ギンガたちを部屋の中へ招き入れてくれた。中にあるソファーに座るように言われたので、そちらへ座る。
『手順は前回と同じです。謁見理由をあらかじめ承ります』
口調がメイドモードのマーレさんが、ギンガたちの謁見理由を尋ねる。マーレさんも理由を分かってはいるけれど、手順として外せないらしい。
謁見理由を話して、鑑定書を見せる。時代が違うけどどうしようと相談したら、こちらでも鑑定をするとのこと。念のため鑑定書は預けることにした。
説明後にマーレさんが部屋を一度出たんだけど、すぐに木製のカートを押して戻ってきた。
『ミカンジュレに生クリーム添えです』
ミカンそのものがゼラチンに包まれているおやつが出てきた! 生クリームもおいしそう!
「上と下で層が違うんよな」
そういわれてガラス製のデザートカップの側面を見ると、底にある方がミカンの色が濃い気がする。
『はい。ミカンとゼラチンの割合が変えてあります』
「すごく綺麗ですね」
『恐れ入ります』
カップの下の方は、ミカンの果肉や果汁が沢山入ったジュレの層を作って、ミカンのおいしさを凝縮したんだって! カップの上の方は果肉と果汁入りのジュレがあるのは同じなんだけど、透明なジュレを追加で混ぜたことで、透明感を出して光るような見た目にしたみたい。真ん中に盛られた生クリームも透明なジュレが白く輝くのを引き立てていて綺麗!
「いただきまーす!」
さっそくスプーンを使って、中央の生クリームをほんの少しスプーンにひっかけるように上のゼラチン部分を掬う。スプーンの上に、ミカン色と透明なジュレに、生クリームの3種類が上手く乗ったのに満足して、そのまま口に入れる。
「んー!」
おいしい! ミカンジュレの酸味に生クリームの柔らかな甘みがふんわりと包んだ感じになっている。果肉のちょっとした噛み応えも良い感じ。
「上の方があっさりしている分だけ、底の方の味を強くして、味覚に刺激を与えてるんだね」
「上のこれは見た目と味の工夫なんよな」
ふたりが興味深そうに感心しながら食べてる。その様子をイロリさんが眺める。
「おふたりとも、こういったものは食べ慣れてるのですか? 私はもう、おいしいって感想しか出てこないのですが」
「あー、冒険者してると各地の食べ物を食べるからかも?」
この世界の食べ物は、現実の食べ物から輸入されているから、デザートもいろんな種類がある。ただ、現実と比べたら安い価格はしていないから、NPCは食べ慣れない人も多い気がする。
それに現実にあるデザートの種類には敵わないから、この世界のNPCと比べたら冷静に食べることが出来たのかもしれない。
「そうでしたか。私は近くのお店にしか行かないので、詳しくないのですよね」
スプーンに乗せたミカンをパクリと食べるイロリさんの様子は、この機会を逃さないように大切に食べている感じだ!
「マーレさんは宮殿で料理をしているけど、それを外で振舞うとかは考えてないんよ?」
『考えていませんねぇ。宮殿で料理を学んだ人が、独立して自分の店を持つためにここを抜けることもあるのでぇ、そういった人に教えれば良いと思ってますからぁ』
普段の口調に戻ったマーレさんは、頬に右手を当てて小首をかしげている。
「その方が結果的に腕のいい料理人が広がるということですね」
『うーん。単にお客様を迎えるために、ずっと店を開くことが出来ないだけなんですけどねぇ』
「言われてみれば、マーレさんの生活習慣ではお店を持つのは無理があるんよな」
マーレさんの正体は龍なので、人と同じような生活はしていない。基本的に宮殿で料理長をしていたり、気が向いたら今みたいにメイドをしているけど、宮殿で務めているというよりは手伝っている感覚なんだって!
『ですからぁ――少しお待ちください』
マーレさんは、廊下への扉を開けて外に出る。ほんの少ししてから部屋に戻ってきた。
『皆様の謁見時間が30分後に決定いたしました。10分前にこの部屋を出ることになるので、それまでお待ちください』
扉の付近で姿勢を正し、落ち着いた声で謁見の案内を教えてくれる。
「わかりました、よろしくお願いします」
あと20分。改めて出来ることはないので、気持ちを整えるだけで良いと思う。
『今回の謁見は、皆さんが献上する品の鑑定に鑑定士がかかわります。鑑定にかかる時間を鑑みまして、イロリさんの話を先に伺ってから先に退室をしていただき、その後コガネさんたちの話となります』
イロリさんが右手を小さくあげる。
「あの、入室は一緒ですか?」
『はい。猫と龍の条件で謁見をするので、別々で入ることにはなりません』
その言葉を聞き、胸に手を当ててホッとするイロリさん。元々は一緒に謁見する予定だったからね!
多分だけど、ギンガたちが持ってきたものがオリハルコンだから、最後まで一緒に謁見することが出来なくなったんだと思う。だから、最初は同じように入室しても、先に退室してもらうことになったんじゃないかな!
そうして待っている間に、イロリさんは猫のナキナ君を鞄から出して持ってきたブラシでブラッシングしている。謁見前にナキナ君のお手入れ!
ブラシの種類も複数持ってきているようで、毛先が細いのから太いのまでたくさんある。イロリさんは、どのブラシも状況に合わせて使い分けている。さすがプロだ!
ギンガはイロリさんの隣に座って、お手入れされているナキナ君の綺麗に整った毛の流れに逆らわないように頭を撫でる。猫の毛はサラサラして気持ちいいね!
『お時間となりました。これからご案内させていただきます』
メイドのお仕事モードのマーレさんから声がかかった。いよいよ謁見だ!
日差しの強いネプチュン王国で、外を案内するメイドと中を案内するメイドは明確に立場が違います。室内を案内しているメイドの方が立場は上ですが、外のメイドは客を案内できる(知識や教養がある)立場にあるため、宮殿維持のための裏方メイドと比べると優遇されています。




