『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』293
「あ! ケーブル渡る道具だ!」
萌黄先輩に抱えられている茜が、黄里先輩が取り出したアイテムに反応して手を伸ばす。手は届いてないけど、知っているアイテムみたいだね~。
「うん。アカネちゃんも持ってるよね?」
「アオナに預けてしまいました」
「そっか。まぁ、出番も少ないアイテムだからね」
ストレージの収納限界があるから、使わないアイテムは、いくつでも入る蒼奈のアイテムボックスに渡してしまいがちになる。今回取り出したアイテムも、そんな普段使わないアイテムなんだろうね~。
「キリ、それ何ですの?」
「ウラーヌスで買った道具だよ。向こうではワイヤーを使って移動してた道具なんだけど、この距離なら普通のロープでも行けるはず」
人の手のひらサイズの滑車にベルトがくっついた道具で~、ピンと張られたロープを前にして取り出したってことから、使い方はなんとなくわかったよ~。
「ひとつだけだから、使ったらチャコちゃんに戻してもらっていいかな?」
黄里先輩はロープの張り具合を確認して、そこへ滑車を取り付ける。ベルト部分は体に固定されるように巻き付けていた。
「チャコさんにお願いしなくても、私なら風の精霊でそれくらい運搬できるわよ?」
「そう? それじゃあ、滑車移動の補助もお願いしようかな。速度が落ちた時に押してもらっていい?」
「ええ、もちろん」
黄里先輩は、滑車のベルトをしっかり持って、少し助走をつけてから堀へと飛び出した~。そのままの勢いでロープを渡り、堀の対岸へ順調に進んでるよ~。
ある程度進んだところでロープが下に大きくたわんで速度は落ちたけど、飛び出した威力が強かったからか、ロープが下がって登りになっている位置にも関わらず、滑車はロープを登り始めた。緩い感じのロープなのに、よく登れるな~。
「……これ、補助する必要あるのかしら?」
念のため魔法の準備をしている紫帆先輩は、片手を黄里先輩に向けた状態で待機している。けど、そのまま魔法の言葉を発することなく黄里先輩が対岸へ移動しちゃったよ~。
「さすが、純粋な戦士系の体力をしてるわね……[―――]」
精霊魔法を使った紫帆先輩は、黄里先輩がこちらへ飛ばした滑車を精霊魔法で手繰り寄せる。ゆるゆるとロープを伝ってこちらへ移動した滑車を手に取ると、黄里先輩と同じようにベルトを胴体に結び付けた。
「結んであるロープはこのままでいいんだよね~?」
「そうね。また同じように戻るから、帰りにお願いするわ。……」
ロープの処理だけ相談した後は、精霊魔法の準備に入ったみたい~。紫帆先輩は黄里先輩程には助走を取ることなく、堀へと飛び出した~。そのままロープを滑車が進み、途中で速度が遅くなったところでスピードが上昇する。精霊魔法を使ったんだね~。
ふたりが堀の反対側へ無事に移動したから、茜をかかえた萌黄先輩が飛んで堀を渡る。飛べるのはやっぱり便利だよ~。
堀を越えて城の内側まで移動したあたしたちは、城跡の崩れた石の瓦礫へ移動する。探索するにしても、かなりぐちゃぐちゃだよね~。
「アオナちゃんが探したマーキュラスの王城と同じように、城の地下室があればそちらへ行きましょうか」
建物が崩れてしまっているので、もしお宝があったとしても城の地上階にあったものは全部なくなっていると思う。当時住んでいた人たちや、ここに集合したプレイヤーが持っていったんじゃないかな~?
瓦礫の中を探し回ると、崩れた壁の一部から地下への入り口が見えた。誰かが入ったのか、地下へ続く階段の瓦礫がある程度撤去されている。
「地下階段あったよ~」
みんなとは同じようなところを探索しているから、ちょっと声をかけただけで直ぐに集まってきた~。
みんなが集まって地下の入り口を覗き込む。
「どう見ても、誰かが入った後だよね」
「そうだね~。とりあえず入る~?」
中にお宝があったとしても、誰かが入った後なら持っていかれていると思うけど、残っているかもしれないからね~。
萌黄先輩が明かりの魔法を灯して、黄里先輩が先頭になって地下の階段を降りる。外も寒いけど、地下はもう少しだけ寒さが増したような感じがするよ~。
「……倉庫って感じですね」
地下は扉の無い部屋がいくつもあって、それらの部屋には物を置けるような棚が壁と一体化していた。その棚には既に何もなくて、せいぜい木片の欠片が見える程度だった~。棚の作りも簡素で大雑把だから、宝石のような価値のある物を保管するには似合わなさそうだね~。
「城で使う日用品を入れていた感じだね」
「地下の保管庫って、ワインとかありそうですね」
「寒い地下では熟成しないから、ワインはどうかしらね。あるなら蒸留酒じゃないかしら?」
ワインって地下に樽が並んでるイメージあったんだけど、寒すぎるとよくないんだって~。マアズでワインを熟成させるなら、地上に専用の施設を作ってるかも知れないらしいよ~。
「ヴァンパイアの村ではワインを作ってましたけど、あれも地上で熟成でしょうか」
「かもしれないし、彼らなら食料魔法があるから時間を短縮できるんじゃないかな」
茜の疑問に黄里先輩が答える。そういえば、この世界は魔法があるから現実とは違う手法が使われてるんだろうな~。
「ここが食糧庫だとしたら、ここから繋がる隠し通路は無いかもしれないね」
食糧庫なら、多分毎日の料理をするために頻繁に人が出入りしているからね~。もしここに隠し通路があったなら、利用したい人は食糧庫に居る人を全員締め出して使わなければならない。それはさすがに不便なんじゃないかな~?
「この地下とは繋がってないかもしれないけど、無いとは言い切れないよね」
地下を作るために穴を掘っても、その穴全部を一部屋にする必要はないんだよねな~。途中で通り抜けられない壁を作って別室を作って、そこへ出入りする地上の入り口を新たに作っていてもおかしくないよ~。
隠し部屋がないかを調べるために、今いる地下の広さを把握する必要がある。普通の建物なら、壁を叩いて音の違いを比較することもできそうだけど、土や石を固めた壁では音の変化が感じられないな~。
黄里先輩が最近覚えた音声魔法で、壁の先の空洞を調べることは可能らしいけど、覚えたばかりのスキルレベルで広い地下の壁全てを調べるのは、詠唱時間の長さから考えて難しい。使うのなら、場所がある程度絞られたときかな~?
地下の広さを調べて、地上に移動する。地下の四隅に該当する場所を確認したら、その四隅から外側に地下への入り口があるかもしれない。
探索範囲が多少絞られたとはいえ、お城の規模なんだから、探す範囲がすごく広くなる。簡単には見つからないか~。
「出入りが見つからない場所となると、廊下も除外だよね」
「各部屋が何に使われていたかわかればいいんだけど、見た目ではもうわからないよね」
使用人が頻繁に出入りする場所は除外できるし、お客さんが入りそうな場所も除外できる。でも、そういった情報がどこにもないから、隠し部屋探しは難航中~。
妖精眼を使ってみたけど、特殊な効果もない単なる隠し部屋だから何にも効果が無かった~。
背の低さを活かして、城の瓦礫の隙間の奥をなんとか見ようと試行錯誤していたら、離れたところで大きな崩れるような音が鳴った。
空に飛び上がって音がした方を見ると、萌黄先輩が居た。多分茜も一緒じゃないかな~。
「どうしたの~?」
気になったので萌黄先輩まで一直線に向かいつつ話しかけると、茜を抱えていなかったのが見えた~。
「あったよ! 地下の入り口!」
萌黄先輩からやや離れた瓦礫の上に座っている茜は、片手を挙げて招き猫のように呼びかけていた~。
滑車が無くても堀を降りれば行き来は可能ですが、出したかっただけです。ストレージ容量はこのゲームの課金要素なので、黄里は増やしているのかもしれません。
※288話(358)を一部修正しました。タイトル部分の『~~~アオナ~~~』とログアウトによる時間経過の話が追加されています。




