『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』290
~~~チャコ~~~
蒼奈と話をしながら、探索を続ける。最初の部屋は何も怪しいところはなかったので、隣の部屋に移動~。
「データ改ざんって言っても、コンピューターに入力したものでしょ~?」
「元データを大きく変更するのは難しいと思うから、近いのは品種改良だろうね。新たなデータを付け加える作業」
「品種改良なら、普通のことじゃない~?」
「いや、魔石に情報が書き込まれているこの世界では、容易に品種改良に至らないんじゃないかな」
魔石同士が共通していないと、子孫を残せないと蒼奈は考えているみたい~。
その根拠は、魔石から蘇生した人たちの話のようで、子どもが生まれやすい夫婦の組み合わせがあったのだとか~。子孫を残さなければならない極限状態であっても制限が掛かってしまうほど、魔石による縛りは大きいんだって~。
「鬼に変化するエルフさんはどうなの~?」
「変化するといっても、ベースはエルフのままって聞いているからね。僕の種族がコウモリに変身するように、ベースさえブレなければ変身や変化は種族そのものの改良にはならない」
わかるような、わからないような。ただ、蒼奈の指す品種改良は、生まれた時点で他の種族と違う状態ってことなのはわかった。
「品種改良をするとして~、違う種族間に子どもが生まれないなら、どうすれば改良できるの~?」
他のファンタジー作品のような、ハーフエルフやハーフドワーフは聞いたことが無い。種族数では妖精種が多様だけど、多分あの中にハーフは居ない気がする。
「さっき使った魔法、[マスイサー]は、その実験の過程に使われた魔法なんだと思う」
「魔石を除去する魔法だよね~。それが過程……あ~、取った後で入れ替えるの~?」
「うん。魔石を除去できる魔法があるのなら、魔石を埋め込む魔法もあるかもしれない。それで元の生物がどうなるかはわからないけど、魂が入れ替わることでかなり大きな影響が生まれると予想できる」
肉体と魔石が密接にかかわりあっている生物の魔石を入れ替えるなんて、どうなるか想像しても思い浮かばないよ~。
もしヒトの肉体にエルフの魔石を埋め込んだとして、誰の魂が優先してその体を動かすことになるのかな~? 魔石から体の情報を送られたヒト側か、魂を持っているエルフ側か。どっちもあり得そうだし、成功しなさそうな気もするよ~。
「植物の蘇生もそうだね。お互い異なる植物AとBを用意して、植物Aに植物Bの魔石を埋め込み、馴染んでから魔石を取った場合、AとB、どちらのドロップアイテムを使えば蘇生できるのか。研究の対象や内容はどれだけでも広がることができる」
蒼奈の面白いところは、想像なのにしっかりと理由がついてる所なんだよね~。そうかもしれないなって思うのが楽しい~。
当然、その仮説に全力で乗っかるのがさらに楽しめるんだよね~。
「それが出来たとして~、なんでそんな実験してたの~? 普通に生活するだけならただのドロップアイテムでいいし、特殊なものが欲しければ、魔法で生み出した方が手っ取り早いでしょ~?」
魔法さえあれば、大抵のものなら生み出すことができる。わざわざドロップアイテムを変化させるような、手間暇かかる必要はない。
目的が生活レベルを向上させることであれば、品種改良してドロップアイテムをより便利なものに固定化させるのもわかる。
けれど、プルトさんたちの目標は元の世界に戻ることであれば、そこまで遠回りなことをする必要がない。継続的に手に入れる必要がないからね~。
特定のアイテムが、元の世界に戻るためには相当数必要になるのかな~?
「もしかしたら、龍のドロップアイテムを変化させたかったのかもしれない」
「龍の?」
龍と言えば、話の流れではコンピューターが変化したものって予想だよね~?
「コンピューターを素材に魔石と組み合わせて龍に変化したのなら、その龍を討伐したら何がドロップすると思う?」
「ドロップ品を素材にすれば蘇生できるんだから、コンピューターがドロップするのかな~?」
「蘇生とドロップ品の関係だけならそうかもしれない。けど、コンピューターに入力した龍の情報に、ドロップ品が龍の肉とか書かれていた場合どうなると思う?」
う~ん。それってどっちが優先って話だよね~? 元の性質を受け継ぐのか、入力された情報を優先するのか。
「わからないよ~」
「そうだよね。多分、同じことを思って調べてたんだと思う。取り戻したいものが龍からドロップするコンピューターなら、最悪チャンスは7回ある。けど、プルトさんたちの最終目的が1つしか存在しないアイテムをドロップしたいと願ってるのなら、ヘタな手は打てない」
プルトさんたちがもともと住んでいた世界からは、色んなものが姿を変えてこの世界に来ていると思う。その中には、蒼奈の言う通り1つしかないものがあってもおかしくないよね~。
「龍のドロップアイテムが肉と入力されているのを知っていて、それでもコンピューターをドロップさせることに成功したのなら、元となった素材を引き出すことが成功したことになる」
「それじゃあ、貴重なものから特定のドロップアイテムを落とすようにする研究をしているってこと~?」
「僕はそんな気がする。その研究の過程で出た失敗作が、『ヒトの骨』なんじゃないかな」
探索しつつ、蒼奈の話について考える。1つしかない貴重なものか~。
「教会って~、この世界に1つしかないよね~?」
「うん。それも思ったんだけど、元の物質が何から変化してるかだよね。少なくとも教会は人が作った建物に見えるから、魔石のドロップとは違う気がする」
ダンジョンとか遺跡のような、人の手で作られたものではなくて、昔から存在するように見えるものが候補なんだって~。
「あ、この壁が剥がれそう~」
探索中に、壁の一部が剥がれそうな箇所を見つけた。ストレージからナイフを取り出して、隙間に入れて押し込むと壁が少し浮き上がった~。
妖精魔法で魔法の手を生み出して、浮き上がった隙間を掴み壁から引きはがすと、ミシミシって音が鳴ってベニヤっぽい木材がはがれたよ~。
「普段から取り出すようにはしてないみたいだね~」
壁の中に埋め込んだみたいな造りをしていたから、何か理由があってこの中に入れたみたい~。
ベニヤの中には、縦横高さが50センチ程度の空間があった。適当に掘られた空間じゃなくて、壁は綺麗に木材でみっちりと覆われているよ~。
その空間の中に、漆塗りみたいな艶がある真っ黒な箱が入ってる。思っていたよりは埃にまみれていないから、この空間がきっちりと密閉空間になっていたんだと思う~。
蒼奈に箱を取り出してもらう。うっすらと積もった埃を拭うと、綺麗に光を反射する漆塗りみたいな箱が現れた。
「チャコ、蓋が空かない」
「まってて~」
箱の近くまで移動して、蒼奈に持ち上げてもらいながら周りを見ると、蓋を開けるためにパズルっぽい仕組みが仕掛けられているのがわかった。
色々な箇所押したり引いたりしながらパズルを解いていくと、蓋を外すことが出来た~。
「音からなんとなくわかってたけど、これも本だね~」
箱の中にわずかな隙間しかないほど綺麗に納まっている本が入っていた。蓋を開ける前から、少し重そうな音でゴトゴト鳴っていたから、多分本じゃないかと思ってたんだよね~。
「表紙には何もないね。損傷も少ないし、このまま読めそう」
本を箱から取り出して、蒼奈がその場で本を読む。あたしも本の内容が気になるから、蒼奈の肩にのって一緒に読むよ~。
「……ちょっと、あれだよね」
本の中身は、バラバラになった生物のイラスト。あんまり気分の良いものじゃないな~。
「ここって手術室に見えるし、置いてある機材を見てもそう感じ取れはするんだけど」
蒼奈が部屋を振り返る。この部屋は、中央に大きなテーブルがあって、周囲には奥行の無い細長いテーブルが複数ある。棚には試験管、クリップ、ナイフなどが入っている。けど、この部屋には椅子も見当たらないから、落ち着いて何か調べる感じはしないな~。
「何か違うの~?」
「あれから色々知った今、治療のための手術はこの世界に必要ないよね?」
茶子の感想なので「バラバラになった生物のイラスト」ですが、蒼奈からすると「解剖図巻」になります。リアルに描かれているので、茶子は好きになれない本です。




