『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』289
「少しだけこの街の残っていいかな? みんな先に行ってても良いけど」
まだ手を上げ続けている茜を見る。雰囲気的に、今さっき思いついた感じだ。
「アカネ、どこか調べるの?」
「うん。もういちど教会を調べようかなって。魔法も使ったことだし」
「あ、そうだね。私も魔法の後がどうなったか知りたいかも」
萌黄先輩も茜の言葉に同意する。
そう言われてみれば魔法の発動が通常ではなかったので、あの教会に何か影響があってもおかしくはないか。変化がないならそれでいいし、変化していたらそれを見落とすことになる。
「すぐ近くですから、みんなで行きましょうか」
萌黄先輩や茜だけを置いて移動するほど時間に迫られているわけでもないし、全員で教会に向かった。
魔法を使ったのが上の階なので、萌黄先輩が茜にしがみつかれながら梯子を上る。
僕も登ろうか考えたけど、何人も登ることはないと思った。神聖魔法が使える萌黄先輩と、探索が本職の蜜柑先輩が向かえば問題はないだろう。
梯子を登る先輩たちを見送ってから、1階の祭壇を見ることにした。
雰囲気は、あの記憶の世界の教会とよく似ている。祭壇だけではなくて、座っている椅子の雰囲気も近い。配置や位置関係も大きく変わらない。
改めて祭壇を見上げる。人や植物の彫り物が施されている。聖女の話だとは聞いた覚えがあるけど、本当のところ不明。彫り物は服装によって性別が判別できるだけなので、彫られている女性が本来は聖女ではないこともあり得る。
視線を下げて、祭壇の正面を見ると、何やら箱が置いてある。中身は空なので気にすることはないが、埃が被っている様子はない。探索中に、誰かが空けたのだろう。
「あ~、それ忘れてた~」
後ろから茶子の声が聞こえたので振り返ると、こちらへやってきた。
「この箱から、本が出てきたんだ~。まだ修理してないよ~」
茶子が取り出した本は、表紙がミシミシと音が鳴って、開くことは難しそうな状態だ。
この本を発見した直後に僕らと合流したようで、そのまま地下や建物の探索をするなど忙しくなったために、修理どころか本の存在を忘れたらしい。
現状では読むこともできないので、茜が上から戻ってきたら修理してもらおう。
それにしても、この本があった場所は前に来たとき探したのに見つけられなかった。茶子が見つけたということは、探索スキルの有無が大きいのだろう。何かを探すには専門家が必要だと実感する。
「チャコって、この教会の地下に行った?」
「ううん。前にアオナたちが調べたみたいだから、行ってないよ~」
上の塔の祭壇も神聖魔法を使うときに見に行ったくらいで、探索はしていないそうだ。
最初に来た当時は、萌黄先輩、黄里先輩、僕の3人で来たので、探索の専門家がいなかった。先ほどまで巡っていた商業ギルドや兵士の詰所などは、探索専門の蜜柑先輩や茶子が調べたため見落としはなさそうだが、この教会は集合場所として使ったに過ぎないので、専門家に探索してもらっていない。
今は上の塔の部分に蜜柑先輩が向かっているので、あちらは任せても良いだろう。
「チャコ、この教会の地下を探索してもらっていいかな?」
「いいよ~」
探索スキル持ちの茶子が、改めて調べてもらうのを快諾してくれた。
上の塔へ移動していない黄里先輩に地下を探索することを伝えて、下の探索に向かう。
一度梯子を外し、地下へ続く入り口の蓋を開いて中に入る。梯子や蓋の管理は黄里先輩がしてくれるそうなので、上の塔へ向かった人も戻ってこれる。
地下への梯子を下り、小さな部屋に到着した。扉は前に入ったので、普通に入ることが出来る。
入ってすぐの部屋は、テーブルがいくつも並んでいる部屋だ。机上で実験をするような造りになっている。
ここにあった資料は回収済みで、修理して内容を確認した。主に生物に関する調査を取り扱っていて、動物だけではなく植物も実験をして調査していたらしい。
「あ~、ここかぁ。記憶で見た部屋だ~」
生物の蘇生とドロップとの関係を調べていた実験室に、部屋の様子がよく似ているそうだ。茶子は色々飛び回ってから、記憶の人物がどこに座ってどのような実験をしていたのかを教えてくれた。先ほど聞いた話ではあるが、場所のイメージが補完されるからわかりやすい。
蘇生の話は気になる話だった。ドロップ品の違いは、データを入力した箇所の違いと言うのが興味深い。データ入力箇所が別枠というのは、保存するファイルが違うのか、フォルダが別なのか、コンピューターの構造がわからないけど明確な違いはあったのだろう。
少なくとも、ヒトがドロップ品を持たないのはドロップ品のデータを入力されなかったことに起因するらしい。
その上で、疑問点が残る。『ヒトの骨』だ。ドロップが入力されてない設定で作られているヒトから、何かを残している。
記憶の人たち以外がヒトのドロップ品を入力したと仮定して、それが確率の低いレアドロップだとしても、戦争している以上は誰かが入手して噂になっているだろう。
しかし、それすらない。僕が持っている物以外に、誰かが手に入れた情報はない。
「チャコは、この世界のドロップ品って何だと思う」
「え~、う~ん。ゲーム要素? 現実にはないよね~」
「えっと、ゲームとか前の世界の人が入力したデータって意味じゃなくて、この世界にとってどんな意味や価値があるのかなって」
「あ~、そっちか~。そうだね~……オマケかな~?」
「お菓子のオマケみたいな?」
「うん、ちょっと豪華な方のオマケね~。NPCの生活に必要なのはわかるけど、それだけで生活って成り立たなそうだからね~」
NPCは衣食住の全てをドロップ品では賄っていない。農業をやっているからか植物由来のものは自分たちで生産している。木材や燃料などはドロップ品に頼っているところもあるけど、そればかりに依存していない。家の建材も、ドロップ品や地上で見つかる素材を利用するなど、それぞれの良い所を選択して利用している。
「ドロップ品が無かったとしても、魔法で代用可能なのって沢山あるでしょ~? お肉だって、アオナは魔法で作れるんじゃなかった~?」
店に並ぶ肉のほとんどがドロップ品だけど、魔法で生み出すことも可能なのはカフェの店員のリニーさんから教わった。魔法を教えてもらったので、時間を掛ければ僕にも作ることが可能だ。
土、木材、金属など、様々なものが魔法で制作可能で、ドロップ品は魔法に頼らず手軽に手に入れることができるから選択されているだけだ。ドロップしないのであれば魔法が生産活動の中心に添えられる文化になっていた可能性もある。
魔法がドロップ品の代用となるのであれば、ドロップしない物質を作り出すことも可能だ。それでも『ヒトの骨』を魔法で生み出す意味はあるのか?
「何が気になってるの~?」
「うん。これ……このアイテムがどんな意味を持つかわからなくて」
アイテムボックスから『ヒトの骨』を取り出して見せる。発見した経緯と合わせて、このアイテムがドロップ品なのか魔法の品なのか。どちらにせよどんな目的があったのか疑問に思っていると伝える。
「用途が無いのに、魔法で作る理由はないよね~」
「別の物を作ってる最中に、失敗して生まれた産物の可能性もあるけどね。その場合は、人体を作る魔法になりそうだけど」
「ちょっとマッドなファンタジーだとあり得る話だよね~。けど、それってプルトさんたちの目標とは少し違う気がするよ~」
「そうだね。となると、この指は実験の副産物よりもドロップ品のが正解に近そう」
ふたりして『ヒトの骨』を眺める。どれだけ鑑定しても、それ以外に情報はない。
「これに当てはまる魔石があれば、蘇生できるかもしれないんだけどね~」
「そうだね。記憶にあった実験みたいに、元となる魔石があればよかったんだけど」
元となる魔石が未確認のドロップ品なので、蘇生に組み合わせることが出来ない……のか?
「……そうじゃないな。記憶の花びらは、同じ植物であればドロップ品の出所は問わなかった。これの名称が『ヒトの骨』としているけど、僕らはこれが『ヒト』の蘇生に適さない前提で話をしている」
他の同じ生物のドロップ品を蘇生に使ったところで、生まれてくるのは魔石の記憶にある元の姿といった実験結果だった。
その例で言えば、この『ヒトの骨』を使ったところで、魔石の記憶にあるヒトが蘇生されるはずだから、ヒトであれば誰の魔石を使っても問題は起こらない。
それでも、何というか忌避感を感じる。
「ヒトは所持アイテム以外はドロップしないからね~。組み合わせて蘇生して失敗したら、魔石のヒトがかわいそうそうだよ~」
「うん、失敗したらかわいそう。けど、成功した場合はどうか。本当に、ヒトが蘇生されるのかな? もし蘇生された人が見た目も考え方も元の魔石の持ち主と同じだったとしても、死亡したときにドロップするのが、本来落とす所持品や魔石以外に、他のアイテムが追加されたとしたら?」
その場合、本来は何もドロップしないとデータに記述されている項目に、無理矢理情報を追加していることになる。
「もしかしたら、入力したデータの改ざんを試みているのかも」
蒼奈や茶子が思ってる以上に、NPCはドロップ品に依存した生活を送っています。魔法で代用可能かと言われたら可能です。




