『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』285
「このデザインはどうでしょうか?」
斧と同じように、ゼルザさんに紹介してもらった鎧の修理をお願いする工房では、女性のドワーフさんが工房主だった。このベナジさんは革細工の職人さんで、ラオグさんと同じくゼルザさんと昔からの知り合いなんだって!
今は、小さな革を張り付けたカタログを見ながら、鎧の表面を覆う革を何にするか相談中。ただの色見本かと思ったら、革の表面には立体的な模様がついていて、その模様をどれにするかで個性的な鎧が作れるみたい。
「これはちょっと可愛すぎる気がする!」
革のベースカラーがパステル調のページには、ハートが沢山広がってる模様がついている。小物ならいいけど、鎧に入れるのはちょっと目立ちすぎる!
他のページを見ると、動物模様のページになった。可愛い系のからリアル系まで様々な動物の模様がある。リアル系のかっこいいライオンとかは人気があるんだって!
「こちらにある植物のデザインと組み合わせてもいいかもしれませんね」
動物の周りに植物を配置するデザインも見せてもらった。鞄にこの組み合わせを入れる人が沢山いるらしい。ページをめくると、猫の周りにハートがちりばめられているデザインがあった。茜ならこれを選ぶのかも!
犬とか兎の加工を見せてもらいつつも、この世界で模様を入れるならこれじゃない気がする。
「龍ってありますか?」
「はい、ございますよ――こちらのページです」
開かれたページには、動物と同じく様々な種類の龍が描かれていた。1体だけ描かれている龍もいれば、7体全部が揃っている龍もある。ページ全面を使って大きな龍が描かれているものは迫力がすごかった。
これだけ大きな絵を入れるには、鎧の胴体の前か後ろになる。前よりは後ろに入れたほうが良いけど、こんなに大きな龍は入れなくてもいいかな。
可愛い龍がひょっこりと顔を出しているイラストが良いかも。小さなお花をちりばめるのも合わせて、左の胸元につけてもらうようにお願いする。
それ以外にも細かなデザインをいくつも入れてもらうことにした。お金はかかるけど割引もあるし、予定していた金額の範囲内で色々とデザインを追加していった。
ゼルザさんの家に戻り、お礼を言ってからカリガと話をする。どれくらいの細工の腕前になったのだとか、これまでギンガが旅してきた話だとか。
装備が完成するまでサエバの街に滞在するので、ギンガはゼルザさんの家で細工の練習をしながら泊まらせてもらう。黄金音ちゃんたちは、その間に宿屋で宿泊して、冒険者ギルドで依頼を受けつつ、近くのダンジョンで狩りをするみたい。
「ギンガちゃんはここで細工修行でいいの?」
「うん! この街にいる間は細工に専念するよ!」
黄金音ちゃんにダンジョンへ誘われたんだけど、ギンガは細工スキルを上げたいから、ここで頑張ることにする。
ここで修行をし続けているカリガはすでにレベル6相当の腕前で、多分レベル7に近いんじゃないかと思う。
冒険しているからギンガはレベル4と遅れているけど、今回のこの修行で最低でもレベル5までは到達したい。出来れば一人前って言われるレベル6まで伸ばしたいけど、さすがに難しいかも。
「カリガは細工の練習しないの?」
「練習はするけど、今は店でお客さんの対応をすることが多いかな」
黄金音ちゃんたちが工房を出て外の宿屋を探し出してから、ギンガは細工の練習をするために道具を出して準備していたんだけど、カリガは前みたいに一緒に練習をするんじゃなくて、お店の店員さんとして過ごすみたい。
「細工の腕前も必要なんだけど、店に並んでいるゼルザさんの商品を鑑定してそっちの能力を上げたり、お客さんの接客で私を知ってもらうことも修行になってるから」
カリガは、そのうち自分のお店や工房を持つのを目標にしている。その時に、商品を鑑定する能力は絶対に必要となる。また、ゼルザさんのお店にくるお客さんと顔見知りになれば、自分のお店を持った時にそのお客さんが来てくれるかもしれないのだとか。
細工の技術を上げるのは当然必要だけど、お店を持つならそれ以外の能力も必要になる。カリガは、低レベルだけど【計算】や【交渉】スキルも手に入れたみたいだし、お店を持つための準備を着実に進めているんだって!
そんなわけで、前は一緒に並んで細工の練習をしていたけど、今回はひとりでコツコツと作業をすることになった。お話しながらの作業も楽しいけど、こうしてひとりで集中することも必要だよね!
……
「ギンガ、ご飯たべよー」
気が付いたら、接客に行っていたカリガが横に居た。
「……カリガ?」
「ずっと集中して指輪作ってたんだよ、ギンガは」
「そんなに? 今何時くらい?」
「もう晩御飯だよ」
あっ! ご飯の準備してない!
食事の準備は弟子の仕事だから、本当ならギンガも一緒に作らないとダメなのに、既にテーブルの上には夕食が並べられている。
「明日の朝食を頑張ればいいじゃない。さぁ、冷める前に食べようか」
既に席に着いているゼルザさんを見てから「すみません」と言い、カリガに「準備ありがとうね」と伝えて席に着く。今日はアツアツのシチューに焼いたパンだ。この組み合わせがこの街は結構多くて、一般的なご飯になっている。これに大人はお酒を組み合わせるのだとか。子どもはシチューを沢山お代わりするか、ジュースを飲むのが多い。
「ギンガは――もぐ……お店持たないの?」
食事中の話題の中で、カリガが自分のお店はどんなお店にしたいかって話から、ギンガの話に移った。
「ギンガはお店は持たないかな。細工を作るのはがんばりたいけど」
パンをシチューに浸して食べる。味がパンにシミシミになっておいしい! パンが焼いてあるからカリカリ部分があるんだけど、それがしんなりしない程度にしみらせると特に美味しくなるんだ!
「作った細工品はどうするの? 露天で販売?」
「うーん。仲間に作りたいってのはあるんだけど……」
食事の手を止める。……考えてることはあるんだけど、これが良いことなのかどうかはよくわからない。単に逃げ道として細工が使われているって思われると嫌だけど、そう思われても仕方がない気がする。
ゼルザさんを見て、カリガを見る。ふたりなら怒らない気はするけど……。
「言いにくいなら言わなくてもいいよ?」
ゼルザさんの言葉に、カリガも頷く。ありがたいことに、言わない選択肢もくれる。でも、弟子として入ってるから、話さないのも不誠実と思う……。
「えっとね。今ギンガが登録している職業って、斧戦士なんだよ」
「……ドワーフだと一般的な職業だよね」
斧を持つドワーフは多いから、割とよく見かける職業だ。
「ギンガは、職業を【細工師】にしたいから、頑張ってるんだ」
「……それだけ?」
「うん」
よくわからないと首をひねるカリガと、不思議そうにギンガを見つめるゼルザさん。
「何も変なことない気はするけどね、細工師の職業に就きたいってことは」
「うん。冒険者としてはちょっと違う気もするけど、普通だよ」
普通ならそうなんだよね。でも、ギンガの場合は少し違ってる気がする。
「えっとね、ギンガって斧戦士以外の職業に就くことが出来るんだ。【龍闘士】とか【光の戦士】とか」
【勇者】もあるけど、さすがに言えない。職業の効果も影響もわからない。
「それはすごい職業ね。話にしか聞いたことが無い職業じゃない。転職はしなかったの?」
ゼルザさんの言葉にうなずく。どうしても転職する気にはなれなかった。
「戦って、運よく強い相手に勝って、自動的に手に入れた職業なだけで、何も達成してない。そんなのに転職って、望んでないから」
キャラクリの時点で断った【勇者】とかが、後から追いかけてきた感じ。最初から断ってるのに、押し付けられている感じがする。
「ゼルザさんから細工を教わって、作るのが楽しくなってきて、そのうちに細工師の職業になりたいって思った。自分で目標を見つけて、がんばって達成する職業がいいなって。だから細工師になるのが、細工を頑張る理由なんだ」
店を持つのでも、細工を誰かに作るのでもなく、ただ職業を得たい。それだけのために細工を頑張るのは、ゼルザさんからしたら細工をいいように利用しているように見えないだろうか。それが心配。
ゼルザさんとカリガを伺う。どう思ってるのだろうか?
「いいじゃん、私ともお揃いになるし!」
「そうだね。龍闘士より細工師を選ぶなんて、細工師として鼻が高いわ」
ふたりの様子を見ると、すごく好印象で本気でそう思ってる感じがした。細工が利用されているって感じに思ってないみたい。
「ギンガは考え過ぎなのよ。細工が好きだから細工師になる。それでいいじゃない」
「イヤイヤ細工をやってるんじゃないでしょ?」
「うん! 細工楽しいよ!」
「じゃあ、細工師を目指さないとね!」
ゼルザさんは優しく微笑み、カリガは笑顔で私を見ている。
「それじゃあ、ご飯食べたら一緒に練習しよう! もう今日は、お店も閉店だからね!」
「うん!」
色々と悩んでたのに、全部受け入れてくれた。すっごく嬉しい! ここからギンガは、全力で細工師を目指すぞ!
金属部分を革で覆う加工は、マアズのように寒さが厳しい地域では一般的な加工となっています。逆に、革鎧をベースに金属を差し込んで強化するパターンもあります。ベナジさんの店は、どちらの鎧でもゼロからの制作依頼も受け付けています。




