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あちーぶ!  作者: キル
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『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』284

 コートを羽織ってサエバの街を進む。この世界にも季節があるんだけどど、この国は年中寒いからいつでも冬装備が欠かせない。

 メイン通りの川とは別の、水路で分岐した通り沿いを進む。教えられた通りに進み、店がある場所の近くまで来たけど、どれが目的の店なのかはわからなかった。この通りに並んだ建物、全部鍛冶屋だから!


「店舗も兼ねてると思うけど、売る気があるのかないのかわからないね」


「外から商品が見えないよね!」


 ゼルザさんのお店もそうだけど、商品が外から見えないようになっている。寒い地域だから入り口も隙間風が入らないように頑丈にして締め切っているんだと思うけど、商品を買う側からしたら店に入りにくい感じがする。


「せめて看板も大きくして商品の名前を外に書けばいいと思うんよ」


 目的地の店を探すために、工房の店先に出ている看板を確認して回って居るんだけど、その看板のサイズがどの店も小さい。ほとんどのお店がA4用紙サイズ程度で、店によっては手のひらサイズの看板で終わらせているところもある。

 それでも、看板に何かこだわりがあるのか、ただの板切れで作られた看板の店は1軒もなく、細かな彫り物がしてある看板もあれば、金属に文字を書いた看板もある。


「ここじゃないかな?」


 看板を順番に見ていくと、A5用紙サイズの金属板に彫りこまれたお店の名前が、ゼルザさんから教えてもらった鍛冶屋さんの店名だった。


「ごめんくださーい」


 工房の玄関を開けて中を見ると、入り口からはいってすぐの部屋の壁や棚には、いたるところに武器が並んでいた。防具はないから武器専門の人なんだろう。

 奥の方からは金属を叩く音が聞こえてくる。工房は奥の部屋にあるみたいだ。


「いらっしゃい」


 部屋の片隅に、ドワーフの若い男性の店員さんがいた。袖口の汚れ方が目立つから、この人も鍛冶をするんだと思う。カリガみたいに、弟子として住み込んでいるのかも!


「こんにちは! ゼルザさんから紹介していただきました!」


 紹介状の用紙を渡すと、男性は「お待ちください」と言って奥の部屋へ向かっていった。

 その間に店先に置いてある武器を眺める。剣や短剣が一番多くて、次にナイフと刀。斧もそれなりにあるけど、鈍器の類は少ない気がする。

 ふと気になる印を発見したので、他の武器にもその印があるか確認したところ、ほぼ全部の武器に印が彫ってあった。この印、ギンガの斧にも彫ってある!


 斧を取り出して比べようかと思ってると、奥に入っていった男性が戻ってきて、「あとは師匠が案内します」と告げてから店を出ていった。店番に戻らないんだ。

 何でだろうと黄金音ちゃんと顔を見合わせていると、奥の部屋から別のドワーフの男性が現れた。


「紹介状は受け取った。申し訳ないが奥へ来てくれないか?」


 そう告げると、そのまま奥へ入ってしまった。

 案内されたんだろうということで、未黒先輩を先頭に店の奥へと進む。店からすぐ隣の部屋は応接室のような部屋で、綺麗ではないけど人が複数座れるような部屋があった。ここの部屋で話をするのかと思ったけど、ドワーフさんが居ないため次の部屋へ進む。

 その奥に続く部屋は生活空間のようで、出しっぱなしの皿やカトラリーがあるため食事をする部屋だろう。簡易的な寝床もあるため、この部屋で眠っているのかもしれない。

 さらに奥の部屋に進むと、材料置き場なのか、あちらこちらに金属の素材が転がっていた。使いかけのような不自然に溶けて固まった金属もそこら中にある。ここまで来ても、まだ先ほどのドワーフさんはいない。

 材料置き場の先へ進むと、ようやくドワーフさんが居た。鍛冶用の炉もあるし、鍛冶のための道具も何種類か揃っている。


「ドワーフ以外には低いと思うが、そちらの椅子で我慢してほしい」


 キャンプで使われるような金属と布で作られている折り畳みの椅子が3つ並んでいた。座った時の高さは低いけど、携帯性は良さそう!


「場所が鍛冶場になってしまい十分なもてなしができないが、手紙の内容からすると入り口に近い応接じゃあ話せないからな。ここが一番音が外に漏れない場所なのでね」


 ドワーフの男性は広いテーブルを他の部屋から運び込み、布でテーブルの上を拭って綺麗にすると、その上にランタンを置いた。

 男性はギンガたちとテーブルをはさんで反対側に椅子を置いて座り、話をする態勢を作った。


「さて。俺はここの工房長のラオグと言う。ゼルザとは昔からの知り合いだな。何やらヤバイ武器を持ち込むということで、弟子には帰ってもらった」


 さっきの人が出ていったのは、そういった理由だったのか。


「武器はふたつと聞いている。この上に出してくれないか?」


 その言葉に、ギンガと未黒先輩はお互いの武器をテーブルの上に乗せる。柄が無いミスリルの斧と、オリハルコンの刀。

 ラオグさんは、やっぱりというか、オリハルコンの刀にすごく注目している。普通はこんな刀は存在しないからね!


「さすがに、これは危険だな……」


 刀から目を離したラオグさんはつぶやく。「手に取っていいか?」と聞くので、「どうぞ」と未黒先輩が答えると、ラオグさんは刀を両手で掲げてあちらこちらから刀を眺めた。


「この刀、単に材質がオリハルコンってだけじゃない。オリハルコンを鍛造して作った物だと【武器鑑定】に出た。オリハルコンを鍛造するなど、そんな製造方法は聞いたことが無い」


 鍛造は、金属をハンマーでたたいて製品を作り出す加工法で、型に流し込む鋳造より丈夫な武器を作ることができる。【武器鑑定】ってそういう違いもわかる物なんだ!

 ラオグさんは刀を机の上に置いて、次はギンガの斧を見る。こちらは持ち上げずにじっと眺めている。


「それと、この斧。俺が作った斧と酷似しているが――ミスリルの斧なんて作った覚えがない」


 この斧を買うにあたり、ゼルザさんからの意見を参考にして購入したんだよね! 多分、いい武器を教えてくれたんだと思うけど、この人が作った武器みたい!


「いや、こうなった過程は言わなくていい。ただ、この斧も刀も、元は鉄だったのがこうなったってことでいいか?」


 ラオグさんは手のひらをこちらに向けてストップの姿勢を取る。細かい過程を聞いてこないのは好感が持てるね!


「はい。元は鉄で作られた一般的な武器だったんよ」


「なるほど。元の刀の質がもう少し、いや、オリハルコンになっただけでも十分か……。それで、これらを使えるようにしたいってことだな。斧は当然ながら、刀も十分に性能が引き出せなさそうだからな」


「お願いできますか?」


「請け負うのは問題ないが、出来の良し悪しは研いでみないとわからん。なにせオリハルコンの武器なんて扱ったことがないから、かかる時間も不明だ。ミスリルの方は、過去に数回は扱ったことがあるから、問題なくできる。とはいえ、ゼルザからの依頼には全体の偽装加工が含まれているから、日数は欲しい」


 斧を見てもミスリルの斧とはばれないようにしてほしいから、表面を鉄で覆って鑑定をごまかすようにしてもらうんだ。加工にかかる時間もあるから、すぐに終わらないのは予定してた!


「日数がかかってもいいので、お願いします」


「了解した。それじゃあ、魔法による契約でもするか。さすがに物が物だから、気軽に受け取るわけにもいかない」


 ラオグさんは1度部屋から出て、戻ってきたときには書類を2枚持ってきた。高額だったり貴重だったりする武器を預かる場合は、魔法による契約を結ぶのだとか。主に、ラオグさん側に不利益が発生する契約で、間違いなく返却するという内容らしい。不利益の方はいろいろ書いてあるけど、ちょっと恐そうな内容だから流し見をした。


「完成したらゼルザの所に使いを寄越す」


 契約が終わり、連絡の方法も聞いてラオグさんの工房を出る。入り口には閉店の看板がかかっていた。お弟子さんが掛けたのだろう。

 次は、鎧を直してくれるお店だ!

 ドワーフの収入として、工房の店売りだけではなく、他店に販売を委託するなどで維持されています。そのあたりは鍛冶ギルドが間に入ることが多いです。看板について、木製より金属製、大きな看板より小さな看板の方が、鍛冶の腕がいい人が作ってるイメージで書きましたが、あまり厳密に決まっていません。金属看板に変わってからは面倒で更新しないドワーフも多々います。

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