『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』280
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記念祭はつつがなく進行する。大きな喧嘩も無ければ、魔物の襲撃もない、新年まではやや控えめにしている音楽と、人々の会話の声が聞える。穏やかな状態で新しい年を迎えられそうだ。ぱちぱちと音を鳴らすたき火を眺めながら、新しい年に変わるのを待つ。この世界、時計はないが時間を示す魔法が存在するため、時間を把握する手段に困ることが無い。
10秒前からカウントダウンに入った。すぐそばにキャロンが来たので手を握る。他の村人のカウントダウンと合わせるように、俺とキャロンも一緒に声に出してカウントダウンをする。
全員がカウント0を叫んで、新しい年に変わった。そこらじゅうで歓声があがる。もちろん、俺とキャロンも一緒に喜ぶ。
『システム:自動ログイン非対象者に連絡します』
『システム:星暦が100年を経過したため、システムメンテナンス作業をします』
『システム:データ破損の恐れがあるため、作業中はログアウトを推奨します』
『システム:選択の無いまま600秒経過した場合、自動でログアウトします』
『システム:ログアウトしますか?(600) [はい][いいえ]』
なんだ? 変な透明な板が現れた。星暦はわかるが不明な用語が多い。システムメンテナンスやログアウトとは何だ?
見ている間に、数字がどんどん減っている。
「キャロン、なにか透明な板が見えるんだが、見えるか?」
「はい。何でしょうね、これ」
ログアウト……どことなく聞き覚えがある言葉だが、思い出せないな。
「あ、おかあさん」
「キャロン! マケマケさんも、これ見えますか? 見えない人もいるようですが」
舞台の上に居たプルトが降りてきた。プルトの言葉に周りを見渡すと、村人の中には、俺らみたいに目の前に出てきた何かを眺める様子がない人もいるようで、何も気にしていない人もいれば、周りの違和感を感じ取っている人もいる。彼らにはこれが出ていないのだろう。
「見えますね。空中に浮いてるようですが、何でしょう」
透明な板を掴もうとするが、手からすり抜ける。ふたりとも同じように手をかざすが、手ごたえはなさそうだ。
「動かせないな。手を入れてもすり抜ける」
「そうだね。押さえても何も――」
音もなく、キャロンが消えた。何が起きた?
「キャロン?」
周辺を見回すが、近くに居ない。どこに? あ、中央の復活地点か!
「復活地点に行ってくる!」
「私も行くよ! こんな夜中にキャロンが復活は危ないから!」
日中ならまだしも、夜中に赤子のまま復活したら危険過ぎる。慌てて復活地点へ向かうと、何人かが集まっていた。いずれも向こうの世界から来た、あるいはこの地で誕生した人たちだ。
どうやら彼らも消えた人たちを迎えにこちらへ来たようで、話を聞いたら予想と違い消えた人が現れなかったらしい。当然、キャロンの姿はない。
「マケマケ! プルトもいるか」
集団へ先に合流していたハウメアが手を振る。プロキマ先生もいた。プルトはプロキマ先生の元へ駆け寄った。俺もプロキマ先生にキャロンのことを話したいが、それよりも先にこの事態を解決したい。
原因は、間違いなくこの透明な板だ。これにより人が居なくなっている。
「恐らく、[はい]と[いいえ]のどちらかを押すと消えるのだろう。それに、選択する時間が残されていない」
ログイン、ログアウトだけが理解できない。何を表すのか? どことなく聞いた気はする。コンピューター担当のケレスが他の研究室にあるコンピューターとのやり取りに使っていた用語だった気はするが、詳しくないためわからない。
頼みとなるケレスはこの世界に居ないので、言葉から推測するしかないだろう。
「ログアウトはわからんが、アウトは外という意味からすると、人が消える事象と類似している。おそらく、正解は[いいえ]だろう」
集まった人たちに聞いても、この結論で間違いないとの声が出た。しかし、だからと言って押すかどうかは別問題だ。消える可能性もある。
残り時間も少なくなる中で、それぞれが[いいえ]を押すことに逡巡する。
「……押したぞ。押したぞ[いいえ]を! [いいえ]を押せば消えないぞ!」
ハウメアが周りに聞こえるように声をあげた。ハウメアが誰よりも先に押したことにより、他の人も[いいえ]を押す人が現れた。彼らも消えることなく残っている。
さすがハウメアだ、いざというときの決断力にはいつも助けられる。
俺は……プロキマ先生とプルトがいる場所へ移動する。
「先生……」
既にプルトはキャロンについてプロキマ先生に伝えたようで、先生の表情は暗くプルトは泣いている。きっと自分も似たような顔をしているだろう。
「マケマケ君、対策を考えてくれたようだね。ありがとう」
「いえ、ハウメアが勇敢だっただけです」
プロキマ先生は、[いいえ]を押すようにプルトに伝える。泣きながらも指示に従うプルトを見てから、先生を見る。
「俺、キャロンを追いかけます。もし離れた場所に出たのなら、連れてきますから」
はっきりと宣言する。この村は他の人に任せて、自分は[はい]を押すつもりだ。
見つめ返す先生は、目を閉じて頭を横に振る。
「まだ研究中なのだが、人――特に親子は、この世界では何らかの電気的な信号によって繋がりがあることが確認されている。プルトとキャロン、私とキャロンには目に見えない何かがある」
プロキマ先生は、この世界で目に見えない事象の研究をしていると聞く。プルトと共同で研究している内容がこれなのだろう。
「君が行くよりも、繋がりのある私が向かったほうが同じ場所に出る確率は高いはずだ」
それを聞いたときのプルトの声にならない反論は悲痛だ。やはり俺が行くべきだろう。
プロキマ先生は、プルトを抱きしめながらこちらに目を向けた。
「先生、それでもっ」
「マケマケ君。君はこの世界において魔力も観察眼も私より勝っているのは間違いない。ここに残ってプルトの研究を引き継いでくれると嬉しい。君は別の手段でキャロンを探してくれないか?」
プロキマ先生は、[はい]を選択することに決めているようだ。先生の話にある通り、何らかの繋がりがあるのなら、確率は高いのだろうが……。
「僕の可愛いプルト。必ずキャロンを探してくるから、少しだけ待っていてほしい」
プルトを抱きしめつつ口づけを交わすふたりに背を向ける。――プロキマ先生の意思は変えられない。それなら、俺は託されたことを遂行するのみだ。
「絶対見つけます」
そう声をかけて、[いいえ]を押す。先生は最後の1秒までプルトと一緒だろうから、ふたりのためにもこの場を離れる。
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……やばい、だめだこれ。プルトさんたちが龍を攻撃する理由はわからないけど、敵として認識はできなくなった。
ログアウトの意味がわかるだけに、別の場所に飛ばされたわけじゃないのがわかる。
僕らみたいに、肉体を持っていないNPCがログアウトするとどうなるのか?
NPCは、ゲームにログインすることができるのだろうか?
(アカネ:アオナ、つらい)
(アオナ:うん。このあとすぐ見つかってればいいね)
(アカネ:うん、そうだね)
先生もキャロンさんも、見つかった可能性は0ではない。プルトさんたちが活動している意味がこの話と繋がっていないかもしれない。
ただ、これを見る前に僕が思ったことは、『プルトさんたちの目的が知りたい』だった。関係ない出来事とは思えない。
しばらく、僕と茜は無言が続く。過去の出来事だけど、心を落ち着かせたい。
(アカネ:あ、なんか色の暗さの見分けがついてきたかも)
(アオナ:影とそれ以外みたいな?)
(アカネ:うん。影から抜け出すのかな?)
(アオナ:かもしれない。その前に出来るだけ情報が欲しいんだけど)
(アカネ:連続して見るのは、次がラストかもね)
必要な情報――多すぎる。プルトさんのことも、消えた人のことも、戦争のことも、ガイアのことも、龍のことも。
他のメンバーも記憶を見ていることを期待して、このあと見る記憶も他の人と被っていない重要そうな記憶を引きたい。
ログイン、ログアウトが理解できるかどうかですが、彼らが単語の意味(ログ、イン、アウト)を知っていても、彼らの時代のコンピューターは一般的ではなく専門職しか使わないため、どのような結果になるかは推測できなかっただろうと判断しました。




