『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』279
うん――なんというか、普通の女性だ。泣いて笑って、好きな人と結婚して。話に聞いたプルトさんとは大きく違う。
(アカネ:プルトさん、かわいいね)
(アオナ:そうだね。とてもメテオストライクを落とす人には思えない)
(アカネ:先生の腕をとって結婚宣言のとき、すごく良い笑顔だったよ)
(アオナ:幸せって感じが伝わってきた)
先輩たちから話に聞くプルトさんは、もっと大人な女性と聞いている。一方で茜はご飯をもらった上にプルトさんが放つ魔法に巻き込まれないよう保護された記憶から、割と優しい人ととらえてる。今の記憶からすると、茜が話す通り素直で優しそうな人だと感じる。
それにしても、マケマケって人はござる口調じゃななかったかな? 記憶の中では普通の口調だった。忍者の里で生まれたとかそういったのではなくて、忍者の概念を別世界から輸入したのだろう。
気になることはいろいろあった。星暦、魔法、村の名称。ひとつ前の記憶と合わせると、色々な推測ができる。
魔法を取得するのに10年とあったが、恐らく魔法そのものが一般的ではない時代だったんだろう。食料魔法や魔化魔法などの混融魔法は、後から発見したと聞いている。そう考えれば、0からスタートして10年で魔化された魔法のアイテムを作り出すのはすごいことだ。
このまま彼らはこの世界に根付いていくんだろうけど、彼らの行動の目的が知りたい。プルトさんたちは、何らかの目的をもって動いているのは間違いない。聞けば教えてくれるかもしれないが、ここでわかるなら知ったほうが良い。
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「マケマケさん、パン取ってください」
「子どもじゃないんだから、取れるだろ?」
「今は子どもです! 手が届かないのです!」
キャロンが小さな頬を膨らませて怒るので、テーブルの背の低いバスケットからパンを掴んで手渡す。見た目は4歳だから子どもか。
「精神的には何歳だっけ? 俺より上だったよな?」
「レディに年齢を聞くのは失礼ですよ」
そう言い放ち、手渡したパンを両手でうまそうに食べる。食べる姿は年相応に見えるからレディと言われてもなぁ。
俺は俺でさっさとパンとスープを食べて、キッチンに皿を運んで水道で洗う。
この世界に来て40年以上になる。生活の質の向上を意識してきたため、水道など文明レベルが上がり快適になっているが、元の世界と比べれば雲泥の差だ。
目の前の子どもは、プロキマ先生とプルトの子どもだ。俺がこの世界に来た時点で既に成人した女性だったが、今は子どもになっている。例の死んでも復活する場所は年齢を逆行させるのだが、彼女の場合は逆行したら生まればかりの赤子の状態で復活してしまう。
そのため、俺らみたいに気ままに若返るわけにはいかない。かといって、自分だけ年を取るのは我慢がならないようで、一定の年齢になったら若返るようにしているため、子どもの姿でいる期間がずいぶん長い。普段は使わない子供服も、クローゼットに大量に押し込まれている。
皿を洗い終わって水切り用の籠に入れると、キャロンが皿とスプーンをもって横に来ていた。子どもじゃあるまいし、なぜ皿を持ってきただけで得意げな顔をするのか。
差し出された皿を無言で受け取って洗い始めると、横で不満そうな顔をして立っているので、片手をタオルで拭いてから頭をなでると満足そうな顔をした。
精神は肉体に引っ張られるとはこれのことだろう。若返る前は30代の落ち着いた女性だったんだが、今や頭のいい幼い子供だ。
キャロンはそのまま家の裏手に向かった。裏では排水が整っているので、水魔法を使って洗濯をするのだろう。キャロンの身長に合わせた桶で作られているので、立って歩くまで成長したら洗濯が出来るようになっている。
子どもになったとはいえ思考は大人だ。あの身長でできる家事や仕事は率先して行う。
もちろん、どんな見た目になっても、俺の大切なお嫁さんに変わりはない。
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今日は星暦100年になる記念祭だ。新しい年を迎えるときは毎年村中の人が集まるのだが、今年はキリのいい100年ということで全員が例年以上に張り切っている。料理も酒も豪華なものになっているようだ。
この記念すべき節目の祭りに普段着で向かうわけにはいかない。俺の服が置いてある部屋に入って、クローゼットの扉を開ける。
村にいる唯一の仕立て屋に頼んだスーツを選び、ブラシでスーツ全体の埃を軽く払ってから着る。
素材はわからないがシルクっぽい赤のネクタイを選ぶ。年に数回しかネクタイは結ばないが、手が勝手に動いてきっちりと結んだ。金属を磨いて作られたぼやけた鏡を見るが、問題はなさそうだ。
靴も特別な日にしか履かない靴を選ぶ。数日前に手入れをしておいたので、綺麗な光沢を放っている。
帽子に手が伸びるが、今日の役割を考えると脱帽の機会が増えると思いやめることにした。
着替えも終わり居間でしばらく待つと、キャロンも着替えを済ませてやってきた。この100年という節目の記念祭に合わせて成人するように若返りたかったそうだが、彼女が取り組んでいる仕事の終了を待っていたら、時期が数年遅れたため14歳で参加することになった。
「なかなか似合ってるな、子ども用ドレスだけど」
「もう少しまともに褒めてください」
「とてもお似合いです、お嬢様」
軽く屈み、手を差し出す。満足そうな顔をしたキャロンが俺の手を取ったので、一緒に家の玄関へと向かう。
外に出ると、何人かが村の中心から少し離れた祭りの会場に集まっていた。記念日の大まかな準備は昼間のうちに終わらせたが、人手が足りないため誰がも手伝いをすることになる。
他の村の人と合流すると、その中にプロキマ先生――お義父さんが居た。
「お義父さん、お疲れさまです」
「マケマケ君。今日はよろしく頼むよ」
記念祭は日付が変わる夜間に行われるため、周囲に明かりを灯したり魔物を警戒する必要がある。もちろん、村の誰がどこを警戒するかは割り振ってある。
新しい年を迎える祭りは、これまで何度も行ってきたので式次第で間違えることはない。村長として前に立つプルトの負担が少なくはないが、村名が変えられないから頑張ってもらうほかない。
お義父さんに軽く断りをいれてから、プルトがいる簡易的に作られた舞台へとキャロンを伴って向かう。
「おかあさん!」
「キャロン! 可愛いドレスね、似合ってるよ」
キャロンが近寄り、舞台から降りたプルトと軽く抱き合う。プルトに「それじゃ、俺はいつもの準備に向かうよ」と言って、別行動をする。毎年俺が簡単な司会進行をするので、台本の原稿の最終チェックに向かうのだ。なぜ俺が毎年司会をするのかと言われれば、村長の娘婿だから以外の理由はない。機材の準備は今日の昼間に終わらせたから、あとは気持ち次第。
村の規模は、かなり大きくなった。前の世界から来た人も何人かいるが、周辺からやってきた人々が入村しているので、村としての体裁はかなり整っているだろう。
「マケマケ、頼むぞ」
原稿に目をとしていると、背後から軽く背中を叩かれる。振り向くと、ハウメアが居た。
「ハウメアこそ、警備は頼むな。それが一番重要なんだぞ」
夜間の警備は難しい。ましてや、祭りのため村中の人が外に出ている状況では、魔物が村に入っただけで大きな事故につながる。年1回の年が変わるこの日の警備が最も大変だ。
その点で言えば、研究主体で仕事をしている俺と違って、狩りに重点を置いているハウメアは適役だろう。
「任せとけって! そのために剣の腕を磨いてるんだからな!」
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元居た世界の文化を色々取り入れて活動しているため、服装もそれに引っ張られています。とはいえ、茜たちが活動している初期時代にもスーツは存在しているので、彼らが発祥かもしれません。




