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あちーぶ!  作者: キル
348/422

『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』278

◆+◆+◆


 誰かが保管しただろうリンゴをかじる。窃盗になってしまうが、食料はこれしかなく食べるより他はない。持ち主が戻ってきたら平謝りをしよう。それと同時に、ここはどこなのか教えてもらいたい。


 少し前まで研究所で資料をまとめていたのだが、気が付いたら草原のど真ん中に出た。草原には1軒だけ粗末な家が建っており、その中には水が満たされた水がめと、隣にある樽に詰め込まれたリンゴが入っていた。

 水もリンゴも腐っている様子はないので、持ち主が近くに居るだろうことは間違いない。

そう考えてその人が戻ってくるまで、ここで過ごした方が賢明だと判断したのだが――もう3日目だ。


 すぐ近くにある森へ探索に出かけたが、拠点となるあの小屋から大きく離れるわけにもいかずに、探索は遅々として進まない。


 リンゴを食べた後、水を汲んで飲む。この水も使っている割には減らない上に、新鮮ときている。普通ではない事態が起きているのは明白なので、この水の件に関してもその類だと考えている。


 今日の探索範囲を考えていると、小屋の外から何か声が聞こえてきた。用心のため拾ってきた木の棒を手に扉へ近づくと、扉が勢いよく開いて人の姿が見えた。


「君は――プルト君かね?」


「――っ! プロキマ先生!!」


 普段着ている白衣ではなく、民族衣装を着たプルト君が扉を開けて入ってきた。そしてその勢いのまま飛びつくように抱きついてきた。


「ちょっと、プルト君?」


 いきなりのことに面食らい、その行動をやめさせようとして、手が止まる。事情は分からないが、思い切り泣いている彼女が落ち着くのを待って話をしたほうがいいだろう。


 ~~~


「なるほど、別世界か」


 泣き止んだプルト君に事情を聞いたところ、この世界は元の世界に似たところもある別の世界だそうだ。それぞれの市の名前が国名になっていたり、暦が同じでもあるらしい。当時は星暦1300年だったが、現在は星暦13年。

 記憶にある星暦13年は国が3か国しかなかったはずだが、彼女によれば現在の国は7か国あるそうだ。それ以外でも、彼女が知る歴史とは違うらしい。


 彼女の言葉を信じないわけではないが、私が見た限りでは植物や生物に異世界らしさは存在しない。そのため、彼女の言葉を裏付けられて、私が納得できるようなことを思い浮かべる。

 水とリンゴだ。誰が補充するわけでもないのに、あの満たされた水は新鮮な上に、リンゴもいつだって満タンになっている。その仕組みについて聞いたところ、あの壺や樽には魔法がかけられていて、常に補充されているという異世界らしい答えが返ってきた。

 それを聞いてさっそくリンゴを多めに取り上げたら、目を離した隙に樽からリンゴを取る前の量に戻っていた。納得せざるを得ない。


「それにしても、よくこんな便利な壺を用意できたね」


「……私が作りました、食料魔法と魔化魔法で」


「魔法?」


 彼女を見る。服装は別として、見た目はあの日のままだ。魔法を新たに覚えるにしては――いや、魔法が簡単という説もあるな。


「魔法を覚えるのは容易なのかな?」


「いいえ。何年もかかりました」


「何年って……プルト君はここに来て何年経過したのですか?」


「――10年ちょっとです」


 10年。

 プルト君の見た目は、言ってしまえば学生のような容姿をしている。まだ成長の余地があるといって良い。10年あれば、もう少し大人っぽさが出てもいいはずだ。それなのに、容姿に変化を感じない。


「死ぬとリセットされるんです」


 疑問に思っている私を見て、彼女に起こっている変化について語りだした。

 私が最初に気が付いた場所、あの場所がどうやら復活地点らしく、どんな場所でどのように死んだとしても、復活地点でここに来たときの容姿で生き返るらしい。どれだけ傷を負っても、あの場所で生き返る。そういう仕組みらしい。


「誰か来るかもしれないって可能性に賭けてたんです」


 水とリンゴの樽には、プルト君だけにわかる警報装置がついていたそうで、あれを利用すると彼女に連絡が届くらしい。それを受けて、彼女はこちらに飛んできたそうだが、この10年で誰かが現れたことはなかったそうだ。ほとんどの警報がリンゴや水につられた動物が鳴らしていただけなので、今回もそれだと思っていたらしい。

 ここへ飛んできても現在彼女が住んでいる街へ戻るのに時間がかかるため、最初は動物かと思って無視していたようだ。それが食事の時間に規則正しく定期的に警報が鳴ったので、動物ではないと判断して準備を整え飛んできたそうだ。


「これで、希望が持てます。きっと誰かがまたやってくるはずです」


 嬉しそうに復活地点を眺める彼女を見てから、彼女と同じように復活地点を見つめる。果たして、ここに飛ばされるのは希望と言えるのだろうか。


 ~~~


「ようこそプルトの村へ」


 久しぶりにこの世界へやってきた青年を迎える。見覚えがあるが、さすがに40年も経つと印象がぼやける。それでも、我々がいた世界からやってきたのは間違いがないので、温かく迎える。


「プロキマ先生! ここは?」


 初めてこの世界にやってきた人の反応は、ほとんどが現状確認だ。普通なら慌てたり恐怖したりするところを、見知っている私が居ることで落ち着くことが多い。顔が広い立場と言うのが役立ってくれている。


「それよりも、先に服と暖かい飲み物だね。こっちへ来なさい」


 青年を小屋へと誘導する途中で、彼のことを思い出した。同じ研究室に居たマケマケ君だ。能力が非常に高く、いずれどこかの室長になるだろうと期待されていた。特に薬学の分野に強かったと覚えている。

 小屋にて着替えを渡し、こちらの世界で作った紅茶を淹れて軽食と一緒に出した。私も紅茶をいただきながら、元の世界の事故について簡単に説明をしてから、この世界について必要最低限の話をする。


「異世界ですか。……わかりました、いくつか質問してよろしいでしょうか?」


 もちろん知ってる範囲で、と答えると、次々と質問が押し寄せた。若いから思考が柔軟のようで、異世界に来たことを既に受け入れている。


「ところで、プルト村というのは? あのプルトさんのことでしょうか」


「そう。この世界には、名前をつけるとなぜか世界に登録される悪癖があってね……」


 この世界に来たばかりの頃、プルトは最初の小屋に持ち主を主張すべく名前を刻んだらしい。建築技術が向上した彼女は、5年後に小屋を建て替えた際に名前をつけなかったようだが、名前そのものは引き継がれたらしい。

 なぜそれがわかったというと、数年前に魔法によって地図を表示する魔法を発見したのだが、その際に表示されたのが『プルトの村』だったのだ。どうあってもそれを変えることができなかったので、正式名称になっている。


 マケマケ君の質問に答えていると、小屋の扉が勢いよく開いた。


「新しく人が来たんだって!? あ! マケマケ先輩!!」


「よぉ、プルトちゃん。村の名前になったんだって? すげーな」


「しょうがないでしょ! それよりも、先輩を待ってたんだよ。前にコンピューターに入れた魔法の情報覚えてる?」


 この世界を調べるうちに、無視できない要素が浮かび上がった。プルトが居た研究所に入力された情報が反映されている可能性があること。動植物の一部や魔法の種類などは、プルトが見覚えのあるものばかりらしい。


「あー、半分くらいは? あの魔法、追加ルールとかあって新しく入った後輩も入力してたんだよな。俺らは前のルールで遊んでたから、全部はわからんぞ」


「そうなんだ。うん、わかる範囲でいいから教えて。あのときの魔法、この世界で実際に使えるようになってるから」


「マジで!? うわ、それならもっとド派手な魔法を入れておくべきだった。数は多いけど地味なのが多いからなぁ」


 新しいおもちゃを発見したように、プルトはマケマケ君から魔法の情報を引き出そうと楽しげにしている。普段以上にはしゃいでるのは、古い知り合いに久しぶりに会ったからだろう。雰囲気を表すのなら、犬が尻尾を振っているようにも見える。


 その様子を眺めていると、プルトがこちらを見てすぐにニヤリと笑う。不覚にも表情に出ていたのか、それをとらえた彼女の雰囲気は犬から猫に変わった。

 それからすぐに、彼女は会話を中断して私のそばに移動して、私の左腕を取った。


「マケマケ先輩。私、プロキマ先生と結婚したよ!」


◆-◆-◆

 プルトが飛んできたときは民族衣装のような服装を着ていますが、リバ石転送なので装備品はそのままです。初回転送時は衣服も無い状態ですが、初期装備のようなものです。

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