『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』277
~~~アオナ~~~
茜と会話をしながら他の人に連絡をしてみたが、届いてる様子はない。タイミングか対象かわからないけど、現状はふたりだけで調べるしかない。
見た目が真っ暗だと茜はいうけど、僕としては暗闇に違いがあるのが見える。最初に送られた空間ではないが、ここでも影のようなものが動いているのがわかる。そのため、記憶に入る直前のタイミングを計ることができる。
茜と同じ記憶に入れるようになったのは、運が8割。単に出来ることとできないことをより分けた結果だ。
パーティー機能は全滅。個人チャットはできる。ソウルリンクは送信不能。
この中で注目したのは、ソウルリンク。送信できないが文字は打てる状態。つまり、送信相手の情報を開きながら文字を打てる状態ともいえる。この場合の情報は、プレイヤー情報があると思われる魔玉へのアドレス。
謎の空間で手に入れたソウルリンクという機能が、同じような場所で何か意味があると思い、茜に挨拶文を送信直前まで打ち込んだ状態で記憶に入ったら、同時に入れたというだけ。
ただの実験がうまくいっただけなので、やはり運が8割だろう。
さて、次の記憶が来た。プルトさんやその周辺を引き当てたい。
◆+◆+◆
残業代の出ない、自由時間の自由行動という名の実質的残業が3時間経過すると、仕事も終わり出した先輩たちが職場で自由に行動を始めるのはいつものことだ。
「先輩たちは、今日も帰らないんですか?」
「帰ったところで、飯食ってシャワー浴びて寝るだけだ。それなら、好きなだけコンピューターを使えるここのが良いだろう」
「壊さないでくださいね」
「変な情報は入れないさ」
研究所に残っている男性職員5人が、楽しそうに集まって職場にある唯一のコンピューターで遊んでいる。なんでも、TRPGのデータを入力してプリントアウトして使うのだとか。
あのコンピューターは、中央研究所に7台しかない貴重品。中央のサーバーにつながっていると聞くけど、私はあまり活用したことが無い。簡単な計算なら、このソロバンで十分。
(アカネ:あの男性集団にケレスさんいるね。他はわからないけど)
(アオナ:前のケレスさんと見た目がほぼ変わらないから、時代は近そう)
「よし、印刷するぞ」
コンピューターを動かすと、私の隣で機械がガガガと音を立てて紙を吐き出す。うるさいと思いつつも、下っ端の私の普段の仕事はこのプリントをまとめて先輩たちに渡す役割だ。
遊びに付き合う理由はないんだけど、つい癖で用紙を回収する。
「……変な情報ばっかり。なんですか、ドワーフとか」
「80年程前に作られた人工生命の名前だが、知らないか?」
「知ってますけど、失敗した計画ですよね? こんなのどうするんです?」
「ゲームとして遊ぶに決まってるじゃないか」
「また変なことを……」
「変とはなんだ、そもそもあの計画の元となるドワーフは昔から言い伝えのある立派な種族だぞ。背は低いが力が強く、鍛冶や細工など様々な製品を作ることが出来る妖精の一種だ。お酒に強いのも各種記録に残されている。主にひげの生えた男性として描かれることが多く、女性のドワーフが居てもおかしくないはずだがこのあたりは物語によって違いが存在するため、生物としての側面と、妖精としての側面のどちらを重視するかによって――」
「知りませんよ……うわ、怪獣が沢山。これも立派な種族ですか?」
「それは魔物だな。冒険者が倒す相手だ」
「はぁ、そうですか……動物はいないんですか? 人工生命の計画でも作られてましたよね」
「そんな普通の情報、ゲームに入れる必要ないだろう?」
「あっ、バカ!」
……なるほど。椅子から立ち上がり、紙の束と1冊の分厚い本を持って先輩たちが居るパソコンの前まで移動する。
その先輩たちが集まる机に、持ってきた本を叩きつける。
「先輩たちは、ゲーム世界の情報を全部入れるって言ってましたよね? 動物がいない世界ってありますか? 植物もありますよね? なぜそれを入れようとしないのですか? 人間を入れたら次に入れる情報は動物でしょう? ドワーフとか怪獣とか、現実にいない生き物よりも、実際にいる生物を入れるほうがより現実的になるんじゃありませんか?」
入力しているケレス先輩をにらみ、その隣でゲームの本を開いているマケマケ先輩に視線を移してにらむ。
「あー、プルト君。この本は?」
ハウメア先輩は私が持ってきた本に人差し指で示した。
(アオナ:プルトさん?)
(アカネ:マケマケとハウメアって名前も出てる!)
(アオナ:ハウメアって獣人だったはずだけど、こっちだと人間だ)
「私が持ってる動植物図鑑です。最低限これを全部入力しますよね?」
仔ギツネの表紙が愛らしい愛読書だ。休憩時間にこれを開きながら、日々動物の勉強をして癒されている。本をめくると、よく見ているため折り目が付いた猫のページが現れる。
(アカネ:猫! この本、見たことある!)
「プルト君。申し出はありがたいが、これは君の大切な本だろう? 長期間借りるには忍びないよ」
「入力に必要でしたら、本当は嫌なのですが断腸の思いで貸し出しましょう。それとも、室長にお願いして他所から応援を頼んだ方がその作業の効率は上がるのでしょうか?」
それはつまり、先輩たちの遊びを上司に報告すると同義だ。国家予算を大量に費やして作られたコンピューターを私用に使っていることが見つかったら、給料に大幅な影響があるだろう。
実際には就業時間後に先輩たちがコンピューターで遊んでる様子を、室長のプロキマ先生がドアの外からガラス越しに、鋭く細い眼をさらに細くしながら見ているのを知っているので、見逃されている状態だ。
「いやいや。君が貸してくれるのなら調べる手間が省けるから、作業の効率は大幅に上昇するよ。我々だけで成し遂げられるから、他所へ応援を頼む案はそのまま廃棄してくれないか?」
「わかりました、現在の案は廃棄します。しかし、貸出期間が長いと新たに立案させていただくことになりますが?」
「そうはならないさ。さて、貸出期間の予定でも相談するとしようか」
◆-◆-◆
主要なメンバーが集まっていた。記憶の主はプルトさんで、他に女性が見当たらなかったから、エリスさんは別の場所に居るのだろう。
[アカネ]ゲームを作ってたっぽいね。
[アオナ]作ってたというより、データ入力だけかな。TRPGだから、紙とサイコロで遊ぶゲームだよ。それより、人口生命の話が出てたね。80年くらい前らしいけど。
[アカネ]確か、1222年が人工生命を作った年だったはず。全部ニャーだから覚えてる。
[アオナ]ドワーフとかエルフの伝承は昔からあったみたいだね。その情報をゲームにしていた文化があるのは、僕らと変わらないね。
[アカネ]あ、変わらないと言えばプルトさんの図鑑、同じようなの見たよ。学校から持ってきた動植物図鑑。猫の絵はちょっと違ってたけど、レイアウトがよく似てた。
[アオナ]図鑑に写真じゃなくて絵を使うくらいだから、技術レベル的には、それほど高くなさそうだ。コンピューターも古そうだったし。
[アカネ]昔のコンピューターって、データの記憶容量少ないんでしょ? サーバーの容量が少ないなら、勝手にデータ入れたら怒られるのは仕方ないよね。
[アオナ]個人ならともかく、研究所のデータサーバーのストレージ不足ってあり得るのかな? 多分、仕事用のストレージに入れてるから怒られるんだと思う。
[アカネ]公私混同だっけ、ありえそう。
正直この時代のコンピューターの常識がわからないから正解が出せない。もしかしたら、蜜柑先輩なら知っているかもしれないな。
[アカネ]あの事故って、ここからすぐだよね。1222年の80年後だから。
[アオナ]だろうね。戦争時代のプルトさんやケレスさんって、さっきの見た目とあまり変わらないんでしょ?
[アカネ]うん。見た目は20代で、姿は大きく変わらないかも。
[アオナ]それじゃあ、1300年まであと数年後のイメージをすれば良いかもね。何が起きたか確認できる。
次は、このプルトさんたちに何が起きたかが知りたい。茜が持ってきた歴史の本には事故とあったけど、その顛末がどうなったんだろう?
TRPGについて、蒼奈は知識として知っていますが遊んだことはありません。兄の趣味のひとつとして知っている程度です。




