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あちーぶ!  作者: キル
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『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』276

 蒼奈の言葉が途切れたから、誰かの記憶に入ったのかもしれない。蒼奈はどんな記憶を見てるんだろう。見たいものをコントロールしてるのかな? うまい具合に見る物を調節できたら良いんだけど、ピタリと合わせるのは難しそうだ。


◆+◆+◆


「お、久しぶりに登場だな」


 街の中心にある巨大な石板の、やや上に現れた光を眺める。この現れ方は、向こうから来たタイプだ。

 棚の上に置かれた毛布を手に取って、光の発生源まで近寄る。男女関係なく裸で現れるから準備が必要だ。

 散らばっていた光が、人の形を形成していく。あ、これ女性だ。

 毛布をすぐに掛けられるように開いて待機をする。といっても、光の状態で毛布をかぶせるわけにもいかないから、隙間から様子はうかがう。

 しばらくすると、金髪で肌の白い女性が現れたのを確認した。そのまま毛布をかぶせる。


「わっ、何?」


「それは毛布だ。まずは落ち着け」


 毛布を掛けた後で背中を向ける。一番面倒が起きない方法だ。見ただの見られただので揉めるのは面倒すぎる。


「毛布? ええ! わたっ――なんで!? ちょ……。あの、ここどこですか?」


「振り返っていいか?」


「あ、はい。いえ、ちょっとまって……どうぞ」


 振り返ると、やや距離を取った位置にいる。よくあるパターンだ。俺だって最初に来たときは、目の前の人が信用できるかどうかわからなかったからな。今回は、女性だからってのもあるだろう。身の危険を感じない方が心配だ。


(アカネ:あ、エリスさんかも? 少しだけ幼いけど、似てるかも)


「とりあえずついてこい。女性用の服が何着かある」


 倉庫の家を目標にしてさっさと歩いて進む。多分ついてくるだろう、他に当てもないし。


「はい。――あの、ここは? 何があったんです?」


 今まで何度も聞いた、ここに来た人の反応だ。幾人にもその質問に答えた結果、わかりやすく理解できる言葉がみつかった。


「簡単に言えば。お前さん、異世界転生したんだよ」


◆-◆-◆


 エリスさんがこの世界に来たときじゃないかな? 場所はおそらく中央の街。家が全然なくて寂れた村の雰囲気だったけど、中央の丸いおおきな石板が同じだった。

 男性は、エリスさんみたいな人が現れるのを知っていたみたいで、毛布を準備して出現を待ち構えていた。男性も同じように他の場所から来たみたいだけど、転生した人を迎えるのに手慣れている感じだったから、日常の光景何だろう。お互いに知り合いというわけでもなさそうだし、よくある学校のクラス転移とかではなさそう。


[アカネ]アオナー?


 ……返事がない。記憶に入る隙間時間しか連絡できないから、タイミングが難しいのかも。


[アカネ]チャコー?


 ……返事がない。試しに他の先輩にも呼び掛けてみたけど、変わりなかった。さっき蒼奈と会話できたのって奇跡のタイミング?


◆+◆+◆


(アオナ:なるほどね)

(アカネ:あれ? アオナ?)

(アオナ:え? なんで?)


 なぜか茜と連絡が取れてる。僕と同じ記憶を見てるのかな?


(アオナ:アカネって、何か見えてる?)

(アカネ:ううん、真っ暗。いつもみたいなNPCの記憶は見えないよ)


 真っ暗? NPCの記憶共有じゃないのか。だとすると、単にこの状態でも連絡が取れるようになっただけ? システムから変更の連絡はないけど、これは元々ある機能か?


(アカネ:あ、多分だけど、アオナの考えてることが流れてきてる。システムとか考えてない?)

(アオナ:……考えてた。と言うことは、NPCの記憶に限らず記憶に入れるのか)


 死亡したNPCだけと思ったけどな。条件は何だ? 同じ時代? 同じ空間? 他に何があるのか。


(アカネ:これって、どうやって抜け出せるのかな?)

(アオナ:うーん。僕の方のNPCの記憶が終わるまで? とりあえず、後で試したいことあるから、やってみるね。)


 同じNPCの記憶を見ることができるか試してみよう。称号の影響かもしれないけど、見たい記憶がある程度操作できるから、ふたりで見ることもできるかもしれない。


(アカネ:はーい。待ってるね)


◆-◆-◆


 蒼奈がNPCの記憶を見るのを邪魔しないように黙っていたら、繋がりが途絶えた。蒼奈と会話していたときと今で視界に入る光景が変わらないから、感覚的にしかわからないけど。


[アオナ]どうなった?

[アカネ]戻ったよ。

[アオナ]了解。それじゃあ、アカネはどんな光景が見たいとも考えずに待機していて。

[アカネ]はーい。


 ……何も考えないのは難しいな。気が付いたら猫のことを考えるけど、それもまずいかもしれない。こういうときって、よく素数を数えるとか言われるけど、暗記してないところを越えたら順番に計算するしかないから、ペースかなり落ち――


◆+◆+◆


 駐車場は……空いている。場所も木陰に入れられそうだからありがたい。手元のギアを変えて駐車する。幌を下げ鍵をかけて、入り口に降ろした家族の元へ急ぐ。


(アカネ:古そうな車だ!)

(アオナ:あ、成功だ。試しにアカネを巻き込んで見れるように工夫した)

(アカネ:そんなことできるの!?)

(アオナ:成功は初。同じタイミングなら同じ記憶が見れると思って)


「おまたせ」


 庭園にいる妻と息子に合流すると、並んで教会の中に入る。これが教会でなければ妻と腕を組んで入るのだが、ここはそういった場ではない。

 中に入ると、私たちより前に来た人たちが先頭の椅子から順番に座っているので、そのまま続きで座る。家族がバラバラになる場合は位置を調節していいのだが、今回は並んで座れそうだ。


(アカネ:中央の街の教会とは別の建物っぽいね。似てるけど)

(アオナ:服装もかなり違う。かなり現代寄りだ)


 時間まで静かに過ごす。息子も黙って待っていられることに成長を感じる。何十人もの大人や幼い子どもがいるため決して静かな場所ではないが、この教会に訪れると落ち着いた気持ちになる。

 この教会は歴史が古いため、様々な彫刻が施されている。それらをゆっくり眺めるだけでも、心の中が整うような気持ちになる。


「失礼します」


 隣から男性の声が聞えて座る気配がしたので、軽く礼をするためにそちらへ向くと著名な方がいらした。ここジュピィタに拠点を置く企業の社長だ。私の乗っている車の生産を行ったり、それを動かす地下エネルギーの採掘もしている巨大企業だ。


(アカネ:あ、この社長の向こうにいる若い人、ケレスさんだ)

(アオナ:プルトさんの仲間の?)

(アカネ:うん。猫に冷たい人)


 話を伺うと、今日は奥様や御子息とご一緒にお忍びで教会に訪れたそうだ。ジュピィタにある全ての教会に寄付をされていることもあって、普段は祭壇付近に用意された席に座られるそうだけど、時々こうして私人として参加しているらしい。


「息子が久しぶりに中央から帰ってきたから、こうして家族そろって教会に来たのだよ」


「中央からですか。それでは、どこかでお会いしたこともあるかもしれませんね」


「おお、中央の方でしたか。さぞ優秀なんでしょうな」


「いえ、私は研究を手助けする技術員ですから」


「御謙遜を。国の最高機関の技術員をしていらっしゃるだけでも優秀な証左ですよ。うちの息子はまだ入って間もないから、もし見かけたら鍛えてやってください」


 御子息が座ったまま礼をしたので、こちらも礼で返す。彼の見た目はまだかなり若く、学生ともいえるような見た目だ。学生時代に成果を出したからこそ、卒業後すぐに中央へ行けたのだろう。私のように30になってようやく中央に行けたのとは大きく違う。


◆-◆-◆


[アカネ]あの場面を見えるように指定したの?

[アオナ]場面というか、教会が何なのか知りたかった。多分前の時代の教会だね、さっき見たのは。

[アカネ]普通の家族から大企業の社長まで、誰もが行く感じだったね。

[アオナ]さすがに教義はわからなかったけど、教会がどんな立ち位置なのかはなんとなくわかる。信仰している人にとって、無くてはならない場所。

[アカネ]独立した子どもが帰郷してから、一緒に行きたくなるようなところだからね。他にも気になるのがあったね。ジュピィタとか。

[アオナ]中央もね。中央の街と関係がありそう。

 設定としては現代走っている車も茜からしたら古そうな車に当たりますが、ここで茜が言った古そうな車は、現代の私たちが見ても古そうと感じる車です。

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