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あちーぶ!  作者: キル
344/422

『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』274

~~~アカネ~~~


◆+◆+◆


「いらっしゃいませ」


 先輩に何度も教えられた礼で冒険者を迎える。カウンターでは笑顔でいるようにと何度も言われた。もちろん、横柄な態度の冒険者にはその限りではない。


(アカネ:ん? なんか、誰かの考えが勝手に流れ込んでくる)


「ちわ。これよろしく」


「かしこまりました。少しお待ちください」


 冒険者から依頼主のサインの記された依頼終了の用紙を受け取ると、依頼の期日となる年月日だけ確認してカウンター奥にさがる。奥のテーブルにある石板に依頼票を乗せると、冒険者ギルド発行の依頼票であることが確認され、依頼主が依頼した際にいただいたサインと同じであることを、石板が自動で読み取った。今回は護衛任務でドロップ品は冒険者受け取りの契約なので、この用紙以外の提出はなし。


 依頼が完了したと判定されたので、隣のキャッシュボックスから依頼料を取り出し、隣の出納帳に依頼番号と金額を書き込む。石板を通した時点で記録はされているけれど、念のためらしい。


「お待たせしました。こちら依頼の報酬となります」


◆-◆-◆


 ……ここは、どこだろ? さっきまで例の空間に出て、黄里先輩と合流するために線を辿って移動していたはずだけど、いきなり意識が飛んだ。そして気が付いたら例の空間を超えた真っ暗闇の世界に入り込んでいる。


 さっきのが蒼奈が言ってた影の記憶だろうけど、影に入った覚えはない。ひょっとしてかなり大きな影に後ろから取り込まれたとか? それなら、周囲が謎の空間以上に真っ暗なのはわかる。ひとつも光が無いどころか、輪郭があった手足すら見えていないからね。

 辿っていた線も見えなくなったので、この状況を受け入れるしか選択肢が無い。やることもないので、さっきの光景が何だったのか考えることにしよう。


 見知らぬ冒険者ギルドの受付嬢の視点……というよりは、乗り移ったような感じだった。感情まで入ってきてる。

 冒険者ギルドのカウンター内の間取りは大きかったから、規模の大きなギルドだと思う。奥に順番に並んでいる人も見かけたし。

 それと、気になったのは依頼の期日。星暦553年だった。ゲーム開始時点より前だよね。影の記憶って、かなり前からあるのか。


◆+◆+◆


「天と地に御座す我らを守りし龍の御霊よ。この年も我らや子らの繁栄を願い奉る。こぞに賜った……」


 今年も無事に、王による龍への拝謁の儀式が進む。前の方にいる偉い人たちは気が抜けないが、後方にいる俺らはそこまで気を配る必要はない。

 現に、隣に居る同僚が、銀色のスキットルをこそこそと飲んでいる。背の低いハーフリングは得してるな、持っている槍さえブレなければ多少のことでは目立たない。


 さすがにスキットルで酒を飲むほど大胆には出来ないが、腰のポーチからおやつを取り出して食べる。これは干し肉だが長期保存用ではないため、うまみのある柔らかいものだ。


 当然こんな物を食べれば酒が飲みたくなるが、問題ない。左袖を口元に充てる。ここに仕込んだチューブの先には、アルコールが入った水筒につながっている。


(アカネ:器用なことするなぁ。あと、味覚を感じないから、完全に乗り移ったのではないのか)


 周りを見ても、だいたいの兵士は同じように隠れて酒を飲んでいる。さすがに、新年で酒を飲まない妖精はいないだろう。目立たないように隠れて飲めば問題ない。


 ……おっと、王様が杖を振り回した。このタイミングで、手にした槍を上に掲げる決まりだからな。槍を両手に持ち、右腕を上へまっすぐ伸ばし、左袖を口元に掲げるベストな位置で掲げた。うめぇー。

 それにしても、あの王様の杖は、毎回目が離せないんだよな。これだけは見ていて飽きないのが不思議だ。


◆-◆-◆


 兵士さんの視点だ。男性かな? お酒を飲んでたけど、私が酔うようなことはなかったから、乗り移ったとかではなさそう。

 場所は丘の上にいた気がした。龍って言葉が出てきたから、この世界で間違いないと思う。兵士たちが居たところは私が知らない場所だから、この影が見せる光景は見る人とは関わりのない場所も見ることができるらしい。冒険者ギルドは関わりがあったけど、この場所も儀式も知らないからね。

 見ることができる視点は、完全にランダムなのかな?


◆+◆+◆


 旗を振る。金属ロープが続く対岸に控えている同僚も、私の旗に応じて旗を振った。


「次の方」


 先頭に並んでいる人から滑車を受け取り、軽く引っ張るなど点検をして安全が確認できたら滑車を返却する。滑車と接続されているベルトも手に取り、軽く引っ張ると持ち主に十分結ばれているのが確認できた。


「どうぞ」


 そう伝えたら、滑車の持ち主は崖の外へロープにひっかけた滑車を使って滑り降りていった。その様子を眺めつつ、多少跳ねているロープを手にして軽く魔力を流す。しばらくすると魔力が伝わったのか、人が降りることで多少跳ねていたロープが落ち着きを取り戻す。次の利用者を確認するため、列の方を見る。


(アカネ:猫だ!!!!!!!)


 ……列の傍に猫がいる。あれも賢い生き物だから大丈夫だとは思うけど、ロープに乗ったら危ないのも確かだ。いくら身軽な猫でも、この高さから落ちたら助からない。

 見た感じ子猫だから、どう動くかわからない危険もあるので、少し移動してもらおう。


「猫さん、危ないですよ」


 逃げるかと思ったけど、意外にも抱えあげることができた。飼い猫かな。

 そのまま離れた場所に移動させる。何度も来るようだったら、なにかの箱に入れたほうが良いだろうか。

 っと、次の人を待たせているから急ごう。


◆-◆-◆


 猫がでてきた! 白黒のかわいい子猫ちゃん! 思わず声が出たけど、やっぱり良いよね、猫。見覚えある子だけど、どこで会ったかな?


 今のはウラーヌスの王都ウラースにある、崖を移動する滑車の案内をしていた職員さんの視点だった。安全確認をしてひとりひとり下に降ろしているのは知ってたけど、ロープに魔力を流してるとは思わなかった。

 ここの職員さんは、何かあったときのために空を飛べる翼人さんだったはず。厳しい職業意識を持っていても、猫に対する優しさがあるのが良いね!

 この調子で、他にも猫がでてこないかな。


◆+◆+◆


(アカネ:あれ、今度は意識がはっきりする。というか、他からの意識の介入が無いな。周りは、湖の見える森の中か。私はなんだろ、足元が木の根に見えるし木になってるのかな?)


 カサカサ


(アカネ:ん? あ、猫! 大きくて真っ黒な猫さんだ! 綺麗だなー、可愛いなー)


 バサッバサッ。


(アカネ:でかいウサギさんが飛んできた。背中に子猫を抱えてる! ……あの組み合わせに覚えがあるな。あれ、私か? ウサギさんが子猫を降ろして、どこかに飛んでいった。その子猫に近寄る黒猫さん――いや、体毛が変化してハチワレになった!)


◆-◆-◆


 ……懐かしい。あの猫さんは、お母さん猫だ。私に色々教えてくれて守ってくれたお母さん猫を忘れるはずがない。あのとき教えてくれたスキルが、今も私を助けてくれている。

 それにしても、最初は黒猫だったのかな? 体毛が変化出来る種族なのかも。


『システム:固有能力【体毛変化】を取得しました』


 あ、能力が増えた。それも固有。固有能力は種族共通なんだけど、今回は気づくかどうかがポイントなんだと思う。これをうまく使えば、戦争時代でも猫のまま過ごせるかも。

 さすがお母さん猫。私が困ってる状況を解決する方法を教えてくれた。やっぱり、また会いたいなぁ。お母さん猫に抱きかかえられて、ゆっくり眠りたい。


 それにしても、ちょうど都合よくお母さん猫の様子を見る場面になったよね。直前に猫が見たいって思ってたから? 称号も関係ある?

 もしかしたら、意思を強く持てば狙った光景を見ることができるのかもしれない。

 母ネコの体毛変化は当初から予定にあったので、4話の時点で茜が錯覚している書き方をしました。体毛の変化を出す機会がなかったので、ちょうどよかったです。

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