『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』271
蒼奈は蜜柑先輩からのマナドレインが終わったようで、魔法の本を持って詠唱をする。飴を舐めながら魔力感知の練習として魔力の流れを見てみると、さっき茜にかけた萌黄先輩のように、魔力が蒼奈の手に移動してから、蜜柑先輩へと入ったような入らなかったような不思議な挙動をして[マスイサー]が成功した~。
「かなりMP持っていかれたな」
「遠慮なく頂きました」
魔法に特化した蒼奈でもかなり消費するって話だから、MPがそこそこの蜜柑先輩やあたしなんかは、かなり減るんだろうな~。
[チャコ]アカネはどう~?
[アカネ]線を辿って泳いでる最中だねー。移動用のスキルがあるから少しは速いはず。
茜は前の探索の時に【低重力遊泳】を覚えたから、ふわふわ浮いた空間では移動しやすいんだって~。使い道が限定されるけど、これから移動用にあの空間を使うことになるなら、良いスキルなのかも~。
「次はシホ先輩です」
「同じようにMPを多めに吸収していいからね」
順番に蒼奈がマナドレインをする。このあとはあたしだね~。
移動準備が終わった蜜柑先輩を見ると、ストレージから薬を出す様子もなく本を読んでいる。
「ミカン先輩、向こうに行かないんですか~?」
「ああ。あっちではストレージからほとんど取り出せないんだろ? 念のため歴史書を見直してから飛ぶことにするよ」
ストレージも魔法も、茜の子猫化も、何もかも制限がかかるんだよね~。【低重力遊泳】があるくらいだから全てのスキルが使用不能になるとは思えないけど、かなり限定的な状況になるのは間違いないからね~。こっちで準備できることはやったほうがいいかも~。
そうこうしている間に、紫帆先輩も魔法がかかったみたい~。
「ミカン、先に向かってるわね」
「はいよ、いってら」
紫帆先輩は魔法を掛けてもらったら、ためらうことなくすぐに薬を飲む。近くの椅子に座って目を閉じ、しばらくしたらそのまま体が消えた。蜜柑先輩の「迷子にならなきゃいいが」というつぶやきが聞こえた。
「それじゃ、チャコの番だね」
「は~い。あたしもMPを沢山持って行っていいよ~」
「了解。とはいえ、先輩ふたりから多くもらったから、チャコを送る分から少し出っ張る程度になるよ」
蒼奈は元々ある程度はMPが残っていたようで、必要なMPは思ったより多くはなかったみたい~。それでも1回のMP使用量が多いから、2年の先輩たちからそこそこ吸収したんだって~。
「うわ。チャコのMPというか、魔力がすごい。吸収した魔力がMPになると1.5倍近くになる」
「へ~、なんでだろ~?」
魔力は空中や体内に流れているエネルギーで、MPは魔法に使うときの消費量の単位なんだけど~、あたしから吸収する魔力が蒼奈のMPに変換されると他の人より多くなるみたい~。
「関係あるかはわからないけど、コガネが進化のために話を聞きに行ったときに聞いた話に、魔力は純粋なものから汚染されたものまであるみたいだよ。そのあたりも何か関係があるんじゃないかな?」
魔力を回復させている萌黄先輩の話だと、妖精の魔力は純粋なものが多く、魔族の魔力は汚染されたものが多く含まれているみたい~。
「王笏の欠片を封印地に戻したときも、魔力って色がついてる感じだよね~。あれが汚染かな~?」
「そうかもしれんぞ。地下に押し込められ続ければ、魔力も変わる可能性はある」
蜜柑先輩は本を読みながら、顔を上げずに話に参加している。読書と会話で、よく意識が分散できるな~。
「ミカン先輩もシホ先輩も妖精族なので、ひょっとしたら他の種族と比べると変換効率は高かったかもしません。逆にコガネ先輩だと時間がかかりそうです」
「コガネには自分でマスイサー使ってもらえばいいよ。魔法特化だから、私より簡単に使えるんじゃないかな」
この魔法も全員が使えると便利なんだろうけど、消費MPが多い上に魔法に適性が無いと難しそうなんだよね~。きっとあたしには無理だろうな~。
「吸収完了。魔法使うね」
蒼奈は魔法の本を取り出して、中に書かれている内容を読む。しばらくすると手をあたしの方に向ける。体が小さいから、掌が胴体全てに触れることになったよ~。
「[マスイサー]」
魔法名を唱えた。あたしの体感では何も変化が無いんだよね~。それでも、魔力の流れを見ていたから、蒼奈の全身から腕、さらに掌に魔力が流れていったのを確認した~。
「成功した。これでチャコも向こうに行けるよ」
「は~い、ありがと~」
さて、さっそく……萌黄先輩の魔法も気になるな~。
「モエギ先輩って、神聖魔法使うんだよね~? すぐ使うの~?」
「少しは休憩できたし、一度使ってみるよ」
「見学していい~?」
萌黄先輩は蒼奈の方を見て、蒼奈が頷いた後で「いいよ」って返事をしてくれた。蒼奈の方を見ると、「神聖魔法は少し特殊だから」って答えた。魔法だけど儀式寄りの魔法だから、周辺の状況が重要なんだって~。
教会で魔法を使うため、商業ギルドから移動をする。蜜柑先輩も魔法を見たいそうなので、一緒に移動するよ~。
教会の入り口から反対側にある梯子まで移動して上に登る。広くて四角いだけの何もない教会の2階の中央には、外から見える塔の入り口の扉が見えた~。
中に入る前に、蒼奈が魔法の本を取り出して詠唱を始める。そのまま先ほどと同じように手を伸ばし、萌黄先輩の胸へと手を当てる。
「神聖魔法の前に使うんだ~」
「神聖魔法がどうなるかわからないから、予防的にね」
萌黄先輩の話では、神聖魔法でトラブルが起きて死亡した場合、復活地点はマーキュラスになってしまう。そこからここに戻るのも、あたしたちの拠点へ移動するのもかなり遠い。
それなら、マスイサーによる復活地点の追加をあらかじめ施したほうがいいってことで、神聖魔法より先にかけてもらうんだって~。
「危険な魔法なの~?」
見学も危ないんじゃないかと聞いてみたら、魔法を掛け終わった蒼奈がこっちを見た。
「危険なのは、この時代の神様がガイアだった場合」
「あ~、そっか~」
地上の人を消すような相手が出てきたら、どうなるかわからないかも。蒼奈たちが体験したように、世界を暗闇で覆いつくす状況になったら面倒だもんね~。
萌黄先輩に魔法を掛け終わった蒼奈は、最後に自分に向けて[マスイサー]を使う。これで、全員なにかあっても飛ぶ先は一緒だ~。
蜜柑先輩が塔の入り口を開けて中に入る。塔の中は壁際に階段があって、その階段が螺旋階段のように上へと伸びている。それ以外は何もない、すっきりとした空間だった。
あたしは階段を上る必要がないので、みんなが上るペースで中央の空間をゆっくり上昇する。さほど階段を登らないうちに、塔の上の階へ到着。小さな祭壇があるため宗教関係の部屋っぽいけど、机やベッドなど生活できそうな家具もあった。
前回来たときは蜜柑先輩やあたしが居なかったため、スキルなしの状態で出来る範囲での探索をした程度だったけど、今回はふたりとも居るため念入りに探索をした。それでも新しい何かは出てこなかった~。
その間、萌黄先輩は神聖魔法の準備をしている。難易度が高いのか、魔法を使うまで時間がかかっている。さっきのマスイサーは1分程度だったけど、それ以上の時間が経過しているよ~。
見守っていると、萌黄先輩の体が少し浮いてきた~。翼を動かしていないから、あれって魔法の影響だよね~?
萌黄先輩が何かを胸元まで持ち上げるような手の動きをすると、全身がうっすらと光り出した。萌黄先輩から視線が外せずにドキドキした感じになってるってことは、【聖女】の好感度上昇を押さえてないみたいだね~。
「[トゥルースヒア]」
浮かび上がった萌黄先輩から、魔法名がはっきり聞こえた。
わかったのはここまで。いきなりHPが全部消えちゃった~。
魔力とMPは別物扱いです。蒼奈が茶子から受け取ったMP量の差は、茶子が妖精の中でも純粋な魔力を含むピクシーで、蒼奈がヒトより汚染された魔力をもつヴァンパイアだからその差が大きく出ました。同様の妖精でも紫帆と蜜柑はヒト寄りなので魔力とMPの差を大きく実感しませんでした。




